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6話目 推しの配信、いただきます
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一泊10銅貨の激安素泊まり宿。屋根と壁で雨と風を防げる小さな何もない、ベッドすらない小部屋に荷物を下ろして、布団をアイテムボックスから取り出して寝転んだ。アイテムボックスはマサカズとリナと俺以外で使えた者を知らないから、それを誤魔化すための荷物。アイテムバッグを買えるランクまで上がればこんな面倒なこともしなくて良くなるだろうが、大した重さではないのでまあいい。
「配信始まる前に、集中できるようにご飯を食べて身を清めて……」
風呂に入りたいところだが、今日は浄化の魔法で清めればいいだろう。
魔法で身を清めるとアイテムボックスから作り置きしていたスープと焼き肉を取り出して小さなテーブルに並べる。
配信前のこの時間の何と楽しいことだ。期待に胸が張り裂けそうなワクワクとした気持ち……ヤスさんと一緒に小さなタブレットを二人で覗き込んでいた時間も楽しかったが、こうして一人で推しを想ってやるべき事を済ませて準備する時間はやっぱり楽しい。
「配信を観ながら楽しめるようにジュースとお菓子も用意しちゃったもんね」
本当はお酒を片手にと言いたいところだが、さすがに売ってもらえなかったので発泡水とジャムを買ってきた。つまみがわりに芋のスライスを揚げたポテチも買った。これらもリナが広めた食べ物で、ずっと受け継がれていてくれて嬉しい。配信を楽しむにはやっぱポテチかポップコーンだな。
食事は軽く済ませて、布団の横に設置したテーブルに発泡水にジャムをとかしたジュースとポテチを並べて……配信開始まであと15分……14分……画面上には既に『待機』や『楽しみ』といったコメントが打ち込まれて行き、俺の気持ちまでドキドキと高まっていく。
今までヤスさんのタブレットで観てきたが、俺も冒険者証という身分証を手にしたので自分の『アカウント』を作ってみようか。コメントを打つのにもチャットに参加するにも『アカウント』を手に入れなければ参加できない。
個人情報を登録しなければいけないのだが、冒険者配信は冒険者協会が管理していて……一応個人情報は保護されている。目に余る荒らし行為などをした場合はランク降格などもあるので要注意。
タブレットに自分の情報と冒険者証に記された記号を登録して……『ネーム』と『アイコン』を決めるのだが、何にしようか?本名で登録して冒険者として名を売ろうとする傾向が強いが、ここは本名でなくてもいい……しかし、俺にはセンスがない。下手したらこの『ネーム』が冒険者としての二つ名として呼ばれることになるのであまり恥ずかしいネームをつけるのは……。
考えた挙句【日向ぼっこ】と登録して眠る猫の絵をアイコンに選んだ。
日当たりのいい庭先で幼いぼっちゃんに誘われてお昼寝を一緒にしていたのを思い出した……「日向ぼっこする猫の親子みたい」とよくリナに笑われたものだ。
アカウント登録を済ませている間に、気づくと配信が『冒険者登録者限定』に変わっている……協会側から何か通達でもあったか、『冒険者登録者限定』配信になる場合は危険な場所への依頼だったりだ。
配信の画面が【待機中】に変わって一気に緊張感が走った。
ついに配信が始まる……『銀月の迷い猫』のギルドチャンネルではあるが、ぼっちゃんは忙しいらしく最近の配信ではあまり姿を見せていなかった。ギルド員全員で行動している時もあまり映らないようにしていた節もある。
想像通りに見目麗しく成長されていたし?何より強い。魔法も美しいし……人気すぎて控えているようだ。
ぼっちゃんが何か行動するたびにチャットが大騒ぎになるし影響力が強すぎるというのも考えものだな。
『皆さんこんばんは~!!銀月の迷い猫の広報担当、みんなのアイドル……ユマちゃんだよぉ!!暫くぶりだけど元気してたぁ?』
パッと映し出された桃色の髪の兎獣人の少女の言葉にチャット欄に野太い雄叫びのような文字が大量に流れていく。銀月の迷い猫の唯一の女性メンバーだがこの子の存在がなかなか難しいらしく……他のメンバーと絡むとそれぞれのファンからのコメントが荒れるらしい……。
幼いリオル様の配信にサポートしてたまに俺が写り込んだだけでコメント欄に「いやあぁぁぁぁっ!!」の文字が溢れていたし、そういうところも変わらないんだな。荒れたコメントも懐かしみながら「ユマちゃん最高!!」や「ユマちゃんこっち向いてー!!」のコメントを目で追っていく。
「このイヤホン……いいな。無しで見るよりも、より近くに声を感じられる……紐はちょっと邪魔だけど」
耳が塞がれている分、周りの状況に鈍くなるので一層の警戒は大切になるが、この没入感は良い。まるで一緒にいるかのようだ。
『うんうん、みんな変わらず元気みたいで安心したよ!!今日私たちは【迷暗森】の奥に発見された新しいダンジョンの調査に来ていまーす!!先に向かった協会の調査員数名が行方不明になっているということで……今日は我らがギルドマスターのリオル様も久々の参加!!活躍楽しみにしてね!!』
カメラが動いて一人の青年の背中を映し出す……マサカズとリナ譲りの漆黒の艶やかな髪。ドキドキと胸が騒ぎ出すが……青年がカメラへ振り返ることはついになかった。
『相変わらずの無愛想ですね~ではでは、今日向かうダンジョンの予備知識を皆様には説明しておきますね……』
無愛想?俺の知っているぼっちゃんはよく笑い、よく泣いて……感情表現豊かな両親によく似ていたのに。確かにヤスさんと観てきた過去の配信もどれも淡々と魔物を倒して攻略を進めていた。カメラの前だけかと思っていたが、メンバーにそう言われるほど普段からああなのだろうか?
ユマによるダンジョンの説明がなされている間に他のメンバーはダンジョン突入への準備を済ませていたらしく、ダンジョンへとカメラは進んでいった。
「配信始まる前に、集中できるようにご飯を食べて身を清めて……」
風呂に入りたいところだが、今日は浄化の魔法で清めればいいだろう。
魔法で身を清めるとアイテムボックスから作り置きしていたスープと焼き肉を取り出して小さなテーブルに並べる。
配信前のこの時間の何と楽しいことだ。期待に胸が張り裂けそうなワクワクとした気持ち……ヤスさんと一緒に小さなタブレットを二人で覗き込んでいた時間も楽しかったが、こうして一人で推しを想ってやるべき事を済ませて準備する時間はやっぱり楽しい。
「配信を観ながら楽しめるようにジュースとお菓子も用意しちゃったもんね」
本当はお酒を片手にと言いたいところだが、さすがに売ってもらえなかったので発泡水とジャムを買ってきた。つまみがわりに芋のスライスを揚げたポテチも買った。これらもリナが広めた食べ物で、ずっと受け継がれていてくれて嬉しい。配信を楽しむにはやっぱポテチかポップコーンだな。
食事は軽く済ませて、布団の横に設置したテーブルに発泡水にジャムをとかしたジュースとポテチを並べて……配信開始まであと15分……14分……画面上には既に『待機』や『楽しみ』といったコメントが打ち込まれて行き、俺の気持ちまでドキドキと高まっていく。
今までヤスさんのタブレットで観てきたが、俺も冒険者証という身分証を手にしたので自分の『アカウント』を作ってみようか。コメントを打つのにもチャットに参加するにも『アカウント』を手に入れなければ参加できない。
個人情報を登録しなければいけないのだが、冒険者配信は冒険者協会が管理していて……一応個人情報は保護されている。目に余る荒らし行為などをした場合はランク降格などもあるので要注意。
タブレットに自分の情報と冒険者証に記された記号を登録して……『ネーム』と『アイコン』を決めるのだが、何にしようか?本名で登録して冒険者として名を売ろうとする傾向が強いが、ここは本名でなくてもいい……しかし、俺にはセンスがない。下手したらこの『ネーム』が冒険者としての二つ名として呼ばれることになるのであまり恥ずかしいネームをつけるのは……。
考えた挙句【日向ぼっこ】と登録して眠る猫の絵をアイコンに選んだ。
日当たりのいい庭先で幼いぼっちゃんに誘われてお昼寝を一緒にしていたのを思い出した……「日向ぼっこする猫の親子みたい」とよくリナに笑われたものだ。
アカウント登録を済ませている間に、気づくと配信が『冒険者登録者限定』に変わっている……協会側から何か通達でもあったか、『冒険者登録者限定』配信になる場合は危険な場所への依頼だったりだ。
配信の画面が【待機中】に変わって一気に緊張感が走った。
ついに配信が始まる……『銀月の迷い猫』のギルドチャンネルではあるが、ぼっちゃんは忙しいらしく最近の配信ではあまり姿を見せていなかった。ギルド員全員で行動している時もあまり映らないようにしていた節もある。
想像通りに見目麗しく成長されていたし?何より強い。魔法も美しいし……人気すぎて控えているようだ。
ぼっちゃんが何か行動するたびにチャットが大騒ぎになるし影響力が強すぎるというのも考えものだな。
『皆さんこんばんは~!!銀月の迷い猫の広報担当、みんなのアイドル……ユマちゃんだよぉ!!暫くぶりだけど元気してたぁ?』
パッと映し出された桃色の髪の兎獣人の少女の言葉にチャット欄に野太い雄叫びのような文字が大量に流れていく。銀月の迷い猫の唯一の女性メンバーだがこの子の存在がなかなか難しいらしく……他のメンバーと絡むとそれぞれのファンからのコメントが荒れるらしい……。
幼いリオル様の配信にサポートしてたまに俺が写り込んだだけでコメント欄に「いやあぁぁぁぁっ!!」の文字が溢れていたし、そういうところも変わらないんだな。荒れたコメントも懐かしみながら「ユマちゃん最高!!」や「ユマちゃんこっち向いてー!!」のコメントを目で追っていく。
「このイヤホン……いいな。無しで見るよりも、より近くに声を感じられる……紐はちょっと邪魔だけど」
耳が塞がれている分、周りの状況に鈍くなるので一層の警戒は大切になるが、この没入感は良い。まるで一緒にいるかのようだ。
『うんうん、みんな変わらず元気みたいで安心したよ!!今日私たちは【迷暗森】の奥に発見された新しいダンジョンの調査に来ていまーす!!先に向かった協会の調査員数名が行方不明になっているということで……今日は我らがギルドマスターのリオル様も久々の参加!!活躍楽しみにしてね!!』
カメラが動いて一人の青年の背中を映し出す……マサカズとリナ譲りの漆黒の艶やかな髪。ドキドキと胸が騒ぎ出すが……青年がカメラへ振り返ることはついになかった。
『相変わらずの無愛想ですね~ではでは、今日向かうダンジョンの予備知識を皆様には説明しておきますね……』
無愛想?俺の知っているぼっちゃんはよく笑い、よく泣いて……感情表現豊かな両親によく似ていたのに。確かにヤスさんと観てきた過去の配信もどれも淡々と魔物を倒して攻略を進めていた。カメラの前だけかと思っていたが、メンバーにそう言われるほど普段からああなのだろうか?
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