パソニフィ・コンフュージョン

沼蛙 ぽッチ & デブニ

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第42話 フリースタイル・バトル

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周りは木々が生い茂り、大地は何処までも凸凹としている。夕暮れ時。紅葉がハラハラと舞落ちているこの場所は、誰の邪魔も入らない。
これから喧嘩をするのには打ってつけの場所、「小池ネイチャーミュージアム」……

真正面から走って向かって来るアイツを凪ぎ倒す様に殴るため、相手の頬と顎の境を目掛けて拳を振るった。
後ろに引かれた足は土を削っていた。
奴は私の腕を踏み台にして、回転する勢いのまま近くの木の枝と跳び移った。

「チッ、足場がわりぃーなあ……」
「こっちは、お前の一撃を受けたら即終了なんだから、調度良いハンデだろ?」
いつの間にか、背後に立たれていた。
振り向き様、ローキックをかます。しかし、目の前に落ちていた木の葉を舞い上げられ視界を眩まされた。

(しまった……)
膝の裏を蹴られて、軸足を崩された。
そして、朱色の筆ペンで服にザッザッと二ヶ所に印が付けられた。
まるで刃物があれば、傷をつけられたと言わんばかりに。
「てめぇ、舐めた真似を……」
そして、今度は木の上から声が聞こえて来た。
「それ、ノブ子ちゃんと一緒に買った服だろ?ザマァ。」
「てめぇ─」
上を見上げたが遅し、また背後から声がした。
「だけど、この装飾は良いね。」
しゃがみこんで地に沿うような蹴りで足払いをすると、フワッとジャンプをして避けられた。
服に付いていた飾りのハーネスをグッと引っ張り上げた。それにより上体をしっかり立たせ、顔を近づけ額をつっくけてきた。
ハアハアと、お互いの荒い息使いを感じた。

「お前を飼い慣らしてるみたいで気分が良いよ。」
ガッと口を広げ噛みつく動作をしたが、手に持たれたハーネスを軸にして、足の間から背後へすり抜けられ不発に終わった。
そして、背中にまた朱色のインクで描かれた。
「お前って、そんな型にはまった動きしてたか?」

すかさず声の聴こえる背後に向かって、後ろ回し蹴りをした。
風を斬る音と共に、奴の頬にピッと浅い傷跡が付いた。「あ、ぶね……」と、避けた次いでに間合いとられた。

人間の体で繊細な動きをするのは奴の方が得意だ。
コイツは、神経が過敏である欠点を、俊敏な反射神経と相手の動きを先読みする能力に変えてしまった。
(チッ、厄介なやつ……)

様子を見ながら、次の攻撃の機会を伺い合った。
対面したまま、円を描く様に少しずつ場所を移動していく……

すると、アイツはまた正面から走り込んで来たのだった。
それに答える様に、連続でパンチを繰り出した。
ふっ、くっ、はっ、と短い息を出しながら避けるアイツに、踏み込みのステップを加えパンチをするリズムを崩した。怯んだ隙に足の裏で腹を蹴った。
ぐっ…………。と、奴は苦しむ顔をして、ズサーッと、地面の土を靴の裏に巻き込みながら後退した。
(駄目だ、手応えが軽い。)
もう一度、止めを刺す様に一発の重いパンチを放った。

奴は羽織ってていたシャツをフワリと身代わりにし、頭上の枝で懸垂をして避けた。
そのまま振り子の要領で、揃えられた両足の裏で背中を蹴られ、思わず前方の木にぶつかった。

振動で木が揺れ、木の葉が髪に落ちてきた。
奴はスタッと地面へ着地をし、動く度にすっかり乱れていた私の長い髪を掴んだ。
「この髪型、似合ってないな。」
体を捻る様にして肘鉄をした。
(チッ、またかわしやがる……)
奴は掴んだ髪を離し、私から距離を取った。

「おらああぁぁぁーーーー!!」
近くにあった手の平大の石を、奴に向かって投げつけると、避けられたついでにその石が岩に当たって破壊された。
「そう、その野蛮な感じ!」
ミトの出した大きな声に、身体がビリビリと反応した。
懐かしいなぁ。と、奴は近くの木に姿を眩ましたまま、嬉しそうな声だけが聞こえて来た。

「邪魔だな……」
岩にぶつかった石の破片を手に取った─

鋭利に砕けたそれを自身の頭部へと近づけた。
ハラハラと散っていく長い頭髪……
落ち行くオレンジ色のその髪と紅葉とが妙に合っていた─

まばらに短くなった髪は、興奮した精神状態のせいで毛が逆立ち、ツンツンとしたショートカットになっていた。
「ミトはやっぱ、短いのが似合うよ!」
「ぐっ……るせぇ……」
気配無く木の上から降りてきた奴は、首に脱いだシャツを巻き付けてきて、ジリジリと私の首を締め上げた。

巻き付けられたそれを思いっきり引っ張ると、急に力を緩められ、反動で体がよろめいた。すかさずコイツは足の軸を崩しにかかった。
(しまった……)
視界が空へと傾いていき、トドメに前方から頭突きをされ仰向きに倒れてしまった。
両肘を押さえ付けられて奴が馬乗りになってきた。
「お前……」

「それ、意味ねーから。」と、奴の足に自分の足を引っ掛けて崩し、抜けた片手をくの字に曲げ、奴の首元に当て、そのまま地面へと叩きつけてやった。
ガッと後頭部を地面に打ち付けられ、奴は顔を歪ませた。
「お前、力は弱いんだからよお。」

奴はその場の土を掴んで、顔面へと投げつけてきた。「な!?」砂利が目に入った痛みで、手の力を緩めてしまった。その間にすり抜けられ、間合いを取られてしまった。

「確かに、お前に力を向けるのは無謀だったな……」
砂でゴロゴロと目が霞む中、脱いだシャツを足に引っ掛けられ、膝から崩れ落ち転倒した。後頭部を足で押さえつけられ、地面に額を押しつけられた。
「良い眺めだ。」
恍惚とした感じで見下してくるコイツに、ため息が出た。

「だから……無駄だっつってんだろ!!」
と、全身を使って振り払うと、奴は両膝を地につけて、そっと両手で首を絞めてきた。喉の真ん中の重なる親指に少しずつ力が込められていた。

それを振り払うことは容易だった。
しかし、暫くされるがままになる事にした。
何故なら、対面している奴のツラが凄く苦しそうで、泣きそうな表情に見えたから─

「分かった。終わりにしよう……」
私がコイツに、してあげられる事は始めから決まっていた─
(今度も、お前の能力に翻弄されて終わるのかよ……)

「深い眠りにつかせてくれ……」
そう言って、奴は私の首から手を外した。
私は抱きしめるかの様に相手の首に腕を回した。腕を十字に組む様にして、ハズキの側頭部に手の平を押し当てた。

私は、力を込める前に呟いた。
「一条葉月先輩。私も……もう一度あんたと戦いたいと思ってたよ……」
「嬉しいよ……両想いで……」
そう言い残して、彼は意識を落とした─
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