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第58話 キャッチ アンド リリース
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「そこも右に曲がって。」
妖精さんのナビゲーション。ロの字型の廊下の順路。そのまま行くとぐるぐると元の場所へと戻ってしまう。
(回り込まれても詰みそうです……)
「ここ、左に入って。」
理科の実験室へと入った。どの教室も下校まではドアが開放されているのが幸いだった。急いで内鍵を閉めた。気がついた時には妖精さんによって、もう片方の出入口も閉じられていた。
バンッとドアに大きく八つ当たりする音がした。非常ベルの音が鳴った。防犯防災センサーが作動した様だ。目立ってしまったからか、違う道から追いかけて来るつもりなのか、静かになった。
「妖精さん、此からどうします?」
「ふっふっふっ。ベランダから、非常用の滑り棒で降りられるのです。」
今は使われていない、使用禁止の避難用の滑り棒を指さした。
「非常階段の方が安全ですよ?」
「こっちで降りた方が面白かったからオススメ。」
妖精さんは、自分だけの通り道を日々開拓していた。風に煽られない様に進むためだった当初の目的が、無邪気な彼女の事だ、途中で遊びに変わったのだろう。
「この抜け道は、2人だけの秘密だよ?」
と、そんな事を言う愛しいこの子を思わず抱きしめた。妖精さんは、珍しく顔を両手で覆って恥ずかしがった。だけど、それは私に対しての事では無かった。
「早く行こ。机の上に卑猥なものが置いてある。アキヨシも持ってるハレンチな道具。今日はハズレ日。だから、ここあまり使わないルート。」
「……これが、卑猥なのですか?」
それは授業で、綿棒で頬を擦り、採取した細胞を見た器具を指していた。妖精さんは、その授業を珍しく保健室に行くとサボタージュしていた。
「下で待ち伏せとか、されていそうです……」
「其処まで考えてなかった。だけど、その時はその時?」
もし落ちた時、彼女を潰してしまいそうだったので私から滑り降りた。
ふと降りてくる彼女を見ると、妖精さんはまたノーパンだった……
(恥ずかしがる所がおかしい!!)と、叫びそうになった。ついでに緊張感が吹き飛んだ。
着地した後、生け垣の隙間を渡り、グランドの運動部の倉庫の裏を通り、裏門へと抜け出せた。追っては、まだ来てなかった。
「ねえねえ、折角だから隕石落ちた所の上歩こう。」
そんな呑気な事を言う彼女に手を引っ張られた。何もない広大な更地に足を踏み入れると、何だか世界で2人だけになった様な不思議な感覚になった。
「プール掃除の時、ブラックバスが居たのは平気でしたか?」
聞いてみたかった事が、何故だか今、口に出た。
「先生が、外来種って言ってた。知らない間に知らない場所に来た者同士、親近感?それに、少しお魚食べられる様になった。下剋上、わーい。」
「食べる時は、寄生虫持ちに気をつけて下さいね……」
やはり、彼女は魚に食べられてしまう程小さな動物だったに違いない。いや、多分それ以上。担いだとき、服や靴の身につけている物の重さしかしなかった。よくそれで、生活出来るものだなと思った。だけど、それがしっくりくるような、そんな気がした。
「博物館の森にあった窪み見た?雨の日。気づいたら、池の中に立ってたの。其れが私の誕生日。雨季だけの水溜まり。クレーターに水を溜めたみたいな。だから、私、宇宙から来たのかも。外来生物かも。」
妖精さんは、埋め立てられたクレーターの上で手を広げて楽しそうにくるくると回った。
此処は亡くならた方も居るという場所なのに、無邪気に振る舞う彼女のせいで幻想的な場所へと変貌して見えた。
妖精さんにとって、死という概念が他の人とは違う事も何となく分かっていた。
どんな形であれ、彼女の正体が分かる日はそろそろ近づいている様な気がした。だけど─
「大人しく付いてこい。」
追っ手は、既に背後に立っていた。カッターナイフが、喉元へ突き付けられていた。折れ線が無く、文房具の様に見せかけたものだった。
妖精さんとの楽しかった逃避行は、もうお開きの時間みたいだ。
「……わかりました。」
(知りたかった。もっと、貴女の事……)
と、諦めた時─
物々しい閃光が放たれて、追っ手は倒された。ナイフが、制服の胸元のスカーフを切り裂きながら落ちていった。
「ごめんね……林さんは大切な人だから。」
彼女の手には、似つかわしくない重量感のあるスタンガンが握られていた。以前から、オコメさんに渡されていた物だ。相変わらず、妖精さんは私の意表までをもついてくる。
(妖精さんが扱いづらそうだと思って、リップ型に軽量したのに……)
校舎の窓が割れた音がした。その窓から華会長が此方を睨んでいた。
「妖精さん、スマホを貸して下さい!」
画面の点滅している場所へ、妖精さんを再び抱えて走った。
(そうだ、まだ私が出来ること、したい事、もっともっと……!)
「林さんと駆け落ちするの楽しかった。」
「まだ終りませんよ。私、必ず夢を叶えてみせます!」
「林さんの夢……?」
「ええ、前に妖精さんに言った事ですよ。」
目的地のホテルは、意外と学校から近かった。だけど、更に追っ手が居なくて良かった。ずっとは走れなかったから。一駅半程、移動した。
「お二人様ですか?」
ホテル内のレストラン。従業員の声を通り越えて、並ぶテーブルの間をずんずんと進んでゆく。
「デート中すみません。妖精さんをお返しします!」
其処には、アキヨシさんとサツキさんが居た。
「後、安全の為、イハルくんに数日程泊まって貰って下さい。副産物としてSPさんがいらっしゃるので。それでは、失礼します。」
お辞儀をして去ろうとした。その時、待って!と腕を捕まれ引き留められた。アキヨシさんは私の様子や切り裂かれたスカーフを見て悟ったのだろう。ややこしい事になっていると。
「話は車内で聞く。サツキさんも、巻き込んですみませんが、少々付き合って下さい。」
私はバンの収納スペースに乗った。折り畳み式の椅子が備え付けてあった。この席は、外から見えない場所だった。
「林さんって、本当に厄介な子だよねー。それで、此からどうするの?」
バックミラーに映る此方を見るアキヨシさんの目は、少年の様にワクワクと輝いていた。妖精さんの無邪気さは完全にこの人からの影響だと思った─
妖精さんのナビゲーション。ロの字型の廊下の順路。そのまま行くとぐるぐると元の場所へと戻ってしまう。
(回り込まれても詰みそうです……)
「ここ、左に入って。」
理科の実験室へと入った。どの教室も下校まではドアが開放されているのが幸いだった。急いで内鍵を閉めた。気がついた時には妖精さんによって、もう片方の出入口も閉じられていた。
バンッとドアに大きく八つ当たりする音がした。非常ベルの音が鳴った。防犯防災センサーが作動した様だ。目立ってしまったからか、違う道から追いかけて来るつもりなのか、静かになった。
「妖精さん、此からどうします?」
「ふっふっふっ。ベランダから、非常用の滑り棒で降りられるのです。」
今は使われていない、使用禁止の避難用の滑り棒を指さした。
「非常階段の方が安全ですよ?」
「こっちで降りた方が面白かったからオススメ。」
妖精さんは、自分だけの通り道を日々開拓していた。風に煽られない様に進むためだった当初の目的が、無邪気な彼女の事だ、途中で遊びに変わったのだろう。
「この抜け道は、2人だけの秘密だよ?」
と、そんな事を言う愛しいこの子を思わず抱きしめた。妖精さんは、珍しく顔を両手で覆って恥ずかしがった。だけど、それは私に対しての事では無かった。
「早く行こ。机の上に卑猥なものが置いてある。アキヨシも持ってるハレンチな道具。今日はハズレ日。だから、ここあまり使わないルート。」
「……これが、卑猥なのですか?」
それは授業で、綿棒で頬を擦り、採取した細胞を見た器具を指していた。妖精さんは、その授業を珍しく保健室に行くとサボタージュしていた。
「下で待ち伏せとか、されていそうです……」
「其処まで考えてなかった。だけど、その時はその時?」
もし落ちた時、彼女を潰してしまいそうだったので私から滑り降りた。
ふと降りてくる彼女を見ると、妖精さんはまたノーパンだった……
(恥ずかしがる所がおかしい!!)と、叫びそうになった。ついでに緊張感が吹き飛んだ。
着地した後、生け垣の隙間を渡り、グランドの運動部の倉庫の裏を通り、裏門へと抜け出せた。追っては、まだ来てなかった。
「ねえねえ、折角だから隕石落ちた所の上歩こう。」
そんな呑気な事を言う彼女に手を引っ張られた。何もない広大な更地に足を踏み入れると、何だか世界で2人だけになった様な不思議な感覚になった。
「プール掃除の時、ブラックバスが居たのは平気でしたか?」
聞いてみたかった事が、何故だか今、口に出た。
「先生が、外来種って言ってた。知らない間に知らない場所に来た者同士、親近感?それに、少しお魚食べられる様になった。下剋上、わーい。」
「食べる時は、寄生虫持ちに気をつけて下さいね……」
やはり、彼女は魚に食べられてしまう程小さな動物だったに違いない。いや、多分それ以上。担いだとき、服や靴の身につけている物の重さしかしなかった。よくそれで、生活出来るものだなと思った。だけど、それがしっくりくるような、そんな気がした。
「博物館の森にあった窪み見た?雨の日。気づいたら、池の中に立ってたの。其れが私の誕生日。雨季だけの水溜まり。クレーターに水を溜めたみたいな。だから、私、宇宙から来たのかも。外来生物かも。」
妖精さんは、埋め立てられたクレーターの上で手を広げて楽しそうにくるくると回った。
此処は亡くならた方も居るという場所なのに、無邪気に振る舞う彼女のせいで幻想的な場所へと変貌して見えた。
妖精さんにとって、死という概念が他の人とは違う事も何となく分かっていた。
どんな形であれ、彼女の正体が分かる日はそろそろ近づいている様な気がした。だけど─
「大人しく付いてこい。」
追っ手は、既に背後に立っていた。カッターナイフが、喉元へ突き付けられていた。折れ線が無く、文房具の様に見せかけたものだった。
妖精さんとの楽しかった逃避行は、もうお開きの時間みたいだ。
「……わかりました。」
(知りたかった。もっと、貴女の事……)
と、諦めた時─
物々しい閃光が放たれて、追っ手は倒された。ナイフが、制服の胸元のスカーフを切り裂きながら落ちていった。
「ごめんね……林さんは大切な人だから。」
彼女の手には、似つかわしくない重量感のあるスタンガンが握られていた。以前から、オコメさんに渡されていた物だ。相変わらず、妖精さんは私の意表までをもついてくる。
(妖精さんが扱いづらそうだと思って、リップ型に軽量したのに……)
校舎の窓が割れた音がした。その窓から華会長が此方を睨んでいた。
「妖精さん、スマホを貸して下さい!」
画面の点滅している場所へ、妖精さんを再び抱えて走った。
(そうだ、まだ私が出来ること、したい事、もっともっと……!)
「林さんと駆け落ちするの楽しかった。」
「まだ終りませんよ。私、必ず夢を叶えてみせます!」
「林さんの夢……?」
「ええ、前に妖精さんに言った事ですよ。」
目的地のホテルは、意外と学校から近かった。だけど、更に追っ手が居なくて良かった。ずっとは走れなかったから。一駅半程、移動した。
「お二人様ですか?」
ホテル内のレストラン。従業員の声を通り越えて、並ぶテーブルの間をずんずんと進んでゆく。
「デート中すみません。妖精さんをお返しします!」
其処には、アキヨシさんとサツキさんが居た。
「後、安全の為、イハルくんに数日程泊まって貰って下さい。副産物としてSPさんがいらっしゃるので。それでは、失礼します。」
お辞儀をして去ろうとした。その時、待って!と腕を捕まれ引き留められた。アキヨシさんは私の様子や切り裂かれたスカーフを見て悟ったのだろう。ややこしい事になっていると。
「話は車内で聞く。サツキさんも、巻き込んですみませんが、少々付き合って下さい。」
私はバンの収納スペースに乗った。折り畳み式の椅子が備え付けてあった。この席は、外から見えない場所だった。
「林さんって、本当に厄介な子だよねー。それで、此からどうするの?」
バックミラーに映る此方を見るアキヨシさんの目は、少年の様にワクワクと輝いていた。妖精さんの無邪気さは完全にこの人からの影響だと思った─
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