もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち

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シンの秘密 ―ブロンエクレトンにて

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 アンバーの街はアンバーを取り締まっていた貴族からユリウスによって買収されていた。そしてユリウスが事実上の領主となっていた。
 元々罪人が来るアンバーは街もどこか廃れていた。アンバーを起点にしていた貴族だってほぼ王都にいる。移住してくるのは元罪人達ばかり。土地が安く罪人達にも住みやすかった。しかし荒れた街ではまともな人たちはシシリーやユグンに逃げた。
 そして鉱山に罪人を送るシステムになった十数年で元罪人達が多くすむ街へと変貌していたのだ。

 ユリウスの資金はどこから出ているのか。それは一部の人間しか知り得なかった。罪人の中には元貴族や城で役職についていたものもいた。ユリウスはそんな罪人を拾い上げ自分の国を作りたいから協力しろと持ち掛けたのだ。
 最初は資金もなくそんな事は出来ないとしたが、ユリウスの手にはザクザクと資金が沸いて出ていた。もう一度トップになる事を夢見て元貴族達はユリウスに協力し独立宣言に至ったのだった。

 元貴族たちの力添えもあり、アンバーの街はユリウスが丸ごと占領した形になった。
 それにシンも寄り添った。いつか国の王妃になる。これはシンにとって最大級の目標なのだ。
 舞台は整った。

「それにしても動きが早かったわね。まだ私にも資金源を教えて下さらないの?ユリウス」
「美しい、ブロンエクレトンに相応しい女王のようだ。ダイヤモンドをふんだんに散りばめたドレスは君にしか似合わない」
「…ありがとう」

 水色の細かいレースに小さな高価なダイヤモンドが無数に縫い込まれている。ダイヤモンドを採取するためには鉱山を掘りまくるしか方法がない。しかも取れる量は微々たるものだ。その微々たる量も国に取られてしまう。それを今は贅沢にドレスに使っている。

「君は何も心配しなくていい。美しい君は僕の横に居るだけでいい。モグリベルの城でもそう教育されたはずだ」
「も、もちろんです。しかし、王を支えるにはきちんと事情を知っていないといざと言う時に役に立ちませんわ」
「…何でも知っていたいのは相変わらずだね。それが鬱陶しかった」
「…」
「アリアナは素直で可愛いく、あまり深く考えない性格だった。そこに惹かれたんだよ」
「…」
「君がアリアナを殺したんだ…」
「ユリウスが命令したのよ」
「僕は君に従っただけだ。何であの時僕は君に従ったのだろう…ずっと不思議だった。君の言う事が正しく思えたんだよ…」
 ユリウスは食事の手を止め、シンを見た。
「シンフォニー…まさか君って魅了を持ってる?」
「まさか、持ってないわ。もちろんそんな夢みたいなものも、作れもしない」
「…そうだよね、まぁいい。とにかく君は美しくそこに居ればいいんだ」
「わかったわ…」


 あんな馬鹿な子と私を一緒にするなんて侮辱だわ。私に魅了があれば、もっと前からユリウスを手名付ける事が出来たでしょう。

 シンは特別な能力は持っていない、ただの水属性に過ぎない。

 あの時…ガセボでアリアナの話を聞いてから捨てられる未来が見えた。私はこの国から捨てられる。きっとそうなる。
 どうにかしなければ…

 そう思ったシンは考えた。一時的でもユリウスを信用させる薬を作るのだと。魅了に近いものを作るのだ。
 では、一体どうするのか。魅了に関する情報は城の書庫にもなかった。厳重になっている金庫にもそんな本はなかった。

 シンはユリウスの婚約者だった頃、城の中はどこにでも行くことが出来た。ひとり考えながら歩いていると古びた塔があった。そこは陛下の母君であるアルディア様が籠っていた塔らしかった。好奇心もあり陛下に頼み中に入れて貰える事になった。もちろんお付の者や騎士も一緒だ。
 塔の中は処分をした訳ではないのに物が少なかった。家具に中に残されたのはガラクタばかり、陛下は何もないと言っていたが本当に何もなかった。

 しかし隅に本が数冊残っていた。それは属性に関する本だった。当たり障りのない本である。城や学園の書庫にもあるような本で珍しいものではない。ただパラパラと見ていくと中にアルディア様が走り書きしたメモのような物があった。
 シンはちょっと興味を持ちその本を持ち帰った。珍しくもない本だ。陛下も認めた。

 アルディアのメモは思いのほか面白かった。珍しい本ではない。誰しもが読んだ事があるし、当たり前の事が書いてある本なのだ。しかし1点違う所があるとすれば、それはアルディアが所有していたという点だろう。一番興味を引いたメモは『交わらなくとも魔力で繋がればそれも有りでは?』と書かれている事だった。
 
 本来、属性と属性が交わればどういった能力が備わるなどの研究がされている内容の本なのだがそれを否定しているメモが残されている。他にもアルディアが思っている事のメモがたくさんあった。

 魅了という能力は個人での取得は難しいがそれを魔力で作り出せる事が出来るかもしれない。魅了の仕組みとは相手の魔力を一時的に奪う事となっている。相手の魔力を奪う事が出来れば自分の思い通りに動いてくれるという事だ。惚れさせるだけではなく相手を支配出来るという訳だ。

 アルディアの「魔力で繋がる」という意味を考えてみた。魔力で繋がるというのはどういう事をいうのか。

 水属性のシンは水の中に魔力を流してみた。人は水分で出来ているその水を支配できないか、と考えたのだ。
 水に流したとたん一瞬にして沸騰し赤くにごり、また透明の水に変わった。見た目はただの水だ。まず自分が飲んでみる。自分の魔力が自分の体内に入ってもなにも起きない。
 次に侍女に飲ませようとした。シンは侍女が飲むであろう水差しと自分が魔力を通した水を交換した。それを数日続けた。侍女が特に変化はなかったが体が軽いと言い出した。逆にシンは体が重かった。水に魔力を入れる行為そもそもが重労働なのだ。

 失敗だなと思っていた所、侍女が変な事を言い出した。
「シンフォニー様の言う通りですわ」
 今までそんな言い方はしていなかった。シンフォニー付きの侍女と言っても割り当てられたただの城の使用人なのだ。

「シンフォニー様は素晴らしい方ですのに、どうしてユリウス様は冷たくされるのでしょう」
「侍女がそんな事を言うものではないわ」
「それはそうですが、ユリウス様は間違っています」
「ありがとう。本当にその通りだけど、他の者に聞かれてはいけないわ。ここだけの話にしてね」
「お優しい、シンフォニー様」
 語尾にハートのマークが付きそうないい方だ。
 
 シンはその侍女に言ってみた。
「ねぇ、わたくしのためになら命も惜しくはない?」
「何を言うのかと思いましたら…そんな事当たり前です」

 シンに忠誠を誓ったその侍女の瞳は真剣だった。そしてシンはお願いを聞いてほしいと言った所、なんでもすると言った。もちろん別報酬などない。

 その頃シンは未来の王妃になるための后教育を受けていた。シンの魔力入り水差しを何にも警戒されていない侍女に交換するようにした。それをメイドが交換せずにユリウスが飲んでくれれば、侍女のようにシンの言葉を信用するようになるのではないかと思った。
 長く掛かった。侍女にユリウスと2人分に魔力入りの水を飲ませないとならない。その間に婚約破棄のイベントが発生した。予定通りだが、シンは城に入れなくなった。しかし、侍女はシンの言いつけを守り水差しを入れ替え続けた。
 しばらくして手紙をユリウスに送った。1度会いたいのだとそしてシンの前にユリウスが現れた。
「私の願いを聞いてほしい」と言うと、「もちろんだ」と答えた。成功したと思った。その頃には魔力の使い過ぎでシンはボロボロだった。
 見た目は捨てられた婚約者として、同情されるもので誰もその姿に異議を唱えるものなどいなかった。

 あれが魅了なのかは分からない、でも一時的ではあるもののユリウスを支配したのは事実なのだ。
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