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彼女は恋を知る5
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お見合いの日はあっという間にやってきた。
ルースレアは朝から準備に追われている。ミューラが選んでくれた薄いピンク色の可愛らしいドレスを身にまとい、いつもは背に流している髪もきれいに結い上げてもらった。髪飾りは大きな白百合の生花だ。
くるんとゆるく巻いた尻尾も丁寧にくしを通したおかげで、いつもよりふわふわになっている。
最後に数人の侍女によってメイクを施され、ルースレアの準備は完了した。
朝からずっと緊張していてご飯もあまり食べられなかったが、そのときよりも今のほうが緊張している。
用意された馬車にアルフレットとミューラ、そしてルースレアが乗り込み扉が閉められた。窓から見えるのは微笑むアリアと、仏頂面のクロウだ。兄は今朝から大騒ぎだったが、最終的になんとかルースレアが宥めて事なきを得た。
それでも納得はしていないので、この様子なのだが。
「では行ってくる。クロウ、仕事は頼んだぞ」
「……はい」
アルフレットの言葉に渋々ながらクロウが頷く。お見合いのまで乗り込んで来かねない兄のために、きっと父がたんまり仕事を用意しているのだろう。
「いい人だといいわね、ルースレア。あなたは可愛いのだから自信を持ちなさいね」
後押ししてくれる母の言葉にルースレアは少し緊張が解れて、小さく笑みを浮かべることができた。
ゆっくりと馬車が動き出す。窓の外から正面に座るアルフレットに視線を移すと、目を細めた父と目が合った。
「ルースレア、私はクロウが少々心配だ」
『私を可愛がってくれることですか?』
「それもだが……あいつが誰かに本気になったら……と思うと、胃がキリキリする」
げっそりとした父にルースレアは苦笑いを浮かべた。クロウは自分を本当に大切にしてくれている。妹が傷つくことがないように、守ってくれる。その守る対象が自分ではなく大切な女性になったとしたら……
まず間違いなく過保護な上に執着しそうだ。
「はぁ……。妹離れして少しは改善されるといいが……」
大きなため息をついてアルフレットは肩を落とした。自分のことに、兄のこと。父には苦労をかけている。
せめて自分が早く嫁にいけるように頑張ろうとルースレアは今回のお見合いに改めて気合を入れ直したのだった。
◇
お見合いに選んだ場所は猫族と犬族の領地の境目にある街だった。境目とはいえ、一応は犬族側の領土なので、街にいるほとんどが犬族だ。
馬車から父の手を借りて降りると赤レンガで作られた優しい雰囲気の屋敷が視界に入る。領地を管理するアルフレットはいくつか領地内に別邸を持っていて、この屋敷もその一つだ。一度か二度、ルースレアも来たことがある。
なんとなしに周りを見渡すと、見たことない馬車があることに気づく。それと同時に屋敷から慌てた様子でこの別邸を管理している使用人がやってきた。
「旦那様、すでにお相手様が到着されております」
「……そのようだな」
アルフレットが執事の後に視線を投げる。ルースレアもそちらに視線を移すと、父と同じ年くらいの男性が歩いてきていた。
その男性はアルフレットを見るとニヤリと笑みを浮かべる。
「遅かったな、アルフレット」
「……ネイアス」
近くまで来た男性……猫族の領主ネイアスは嫌そうな表情のアルフレットに軽快な笑い声を上げた。ルースレアは一歩下がったところで領主をまじまじと見つめる。
黒い猫耳にしなやかな黒い尻尾。ゆらゆらと動くそれに目を奪われていると、ネイアスがこちらを向く。
「これは……お前に似ず、可愛らしいお嬢さんだな。はじめまして、ネイアスです。今日は来てくれてありがとう」
そっとルースレアの手を取り、ちゅっと軽く口付けを落とす。流れるような仕草に呆然と見ていることしかできない。
「こら、娘に気安く触るな。あとルースレアは私に似てる」
「怖い怖い。ただの挨拶だろう? 未来の娘になるかもしれない子にまで手は出さないさ。この親ばか」
「……喧嘩を売ってるのか?」
「いや? ただ友人が娘にべったりで引いてるだけだよ」
なぜだか喧嘩腰になってきた二人にルースレアはおろおろする。そんな彼女が助けを求めたのは結局、ミューラだった。
すぐに主人の意思を汲み取った優秀な侍女は、小さくため息をついてから二人に割って入った。
「旦那様、ネイアス様。ルースレア様が困っております。そろそろ、お見合いのお話を進めてはいかがでしょう?」
「う、うむ、そうだな」
「悪いね、可愛い侍女のお嬢さん」
ようやく止まった二人にミューラが深く頭を下げて、すっと後に下がる。ルースレアはほっとして、侍女の方を向いて感謝を伝えた。
「先について勝手にお邪魔させてもらったから、息子は一足先に会場にいる」
「そうか。さ、ルースレア、行こうか」
すっと腕を差し出した父に頷いて、そっと手を回す。ルースレアは緊張でドキドキとうるさくなってきた胸に手を当てて、落ち着けるように深く息を吐き出すと父と一緒に歩き出した。
ルースレアは朝から準備に追われている。ミューラが選んでくれた薄いピンク色の可愛らしいドレスを身にまとい、いつもは背に流している髪もきれいに結い上げてもらった。髪飾りは大きな白百合の生花だ。
くるんとゆるく巻いた尻尾も丁寧にくしを通したおかげで、いつもよりふわふわになっている。
最後に数人の侍女によってメイクを施され、ルースレアの準備は完了した。
朝からずっと緊張していてご飯もあまり食べられなかったが、そのときよりも今のほうが緊張している。
用意された馬車にアルフレットとミューラ、そしてルースレアが乗り込み扉が閉められた。窓から見えるのは微笑むアリアと、仏頂面のクロウだ。兄は今朝から大騒ぎだったが、最終的になんとかルースレアが宥めて事なきを得た。
それでも納得はしていないので、この様子なのだが。
「では行ってくる。クロウ、仕事は頼んだぞ」
「……はい」
アルフレットの言葉に渋々ながらクロウが頷く。お見合いのまで乗り込んで来かねない兄のために、きっと父がたんまり仕事を用意しているのだろう。
「いい人だといいわね、ルースレア。あなたは可愛いのだから自信を持ちなさいね」
後押ししてくれる母の言葉にルースレアは少し緊張が解れて、小さく笑みを浮かべることができた。
ゆっくりと馬車が動き出す。窓の外から正面に座るアルフレットに視線を移すと、目を細めた父と目が合った。
「ルースレア、私はクロウが少々心配だ」
『私を可愛がってくれることですか?』
「それもだが……あいつが誰かに本気になったら……と思うと、胃がキリキリする」
げっそりとした父にルースレアは苦笑いを浮かべた。クロウは自分を本当に大切にしてくれている。妹が傷つくことがないように、守ってくれる。その守る対象が自分ではなく大切な女性になったとしたら……
まず間違いなく過保護な上に執着しそうだ。
「はぁ……。妹離れして少しは改善されるといいが……」
大きなため息をついてアルフレットは肩を落とした。自分のことに、兄のこと。父には苦労をかけている。
せめて自分が早く嫁にいけるように頑張ろうとルースレアは今回のお見合いに改めて気合を入れ直したのだった。
◇
お見合いに選んだ場所は猫族と犬族の領地の境目にある街だった。境目とはいえ、一応は犬族側の領土なので、街にいるほとんどが犬族だ。
馬車から父の手を借りて降りると赤レンガで作られた優しい雰囲気の屋敷が視界に入る。領地を管理するアルフレットはいくつか領地内に別邸を持っていて、この屋敷もその一つだ。一度か二度、ルースレアも来たことがある。
なんとなしに周りを見渡すと、見たことない馬車があることに気づく。それと同時に屋敷から慌てた様子でこの別邸を管理している使用人がやってきた。
「旦那様、すでにお相手様が到着されております」
「……そのようだな」
アルフレットが執事の後に視線を投げる。ルースレアもそちらに視線を移すと、父と同じ年くらいの男性が歩いてきていた。
その男性はアルフレットを見るとニヤリと笑みを浮かべる。
「遅かったな、アルフレット」
「……ネイアス」
近くまで来た男性……猫族の領主ネイアスは嫌そうな表情のアルフレットに軽快な笑い声を上げた。ルースレアは一歩下がったところで領主をまじまじと見つめる。
黒い猫耳にしなやかな黒い尻尾。ゆらゆらと動くそれに目を奪われていると、ネイアスがこちらを向く。
「これは……お前に似ず、可愛らしいお嬢さんだな。はじめまして、ネイアスです。今日は来てくれてありがとう」
そっとルースレアの手を取り、ちゅっと軽く口付けを落とす。流れるような仕草に呆然と見ていることしかできない。
「こら、娘に気安く触るな。あとルースレアは私に似てる」
「怖い怖い。ただの挨拶だろう? 未来の娘になるかもしれない子にまで手は出さないさ。この親ばか」
「……喧嘩を売ってるのか?」
「いや? ただ友人が娘にべったりで引いてるだけだよ」
なぜだか喧嘩腰になってきた二人にルースレアはおろおろする。そんな彼女が助けを求めたのは結局、ミューラだった。
すぐに主人の意思を汲み取った優秀な侍女は、小さくため息をついてから二人に割って入った。
「旦那様、ネイアス様。ルースレア様が困っております。そろそろ、お見合いのお話を進めてはいかがでしょう?」
「う、うむ、そうだな」
「悪いね、可愛い侍女のお嬢さん」
ようやく止まった二人にミューラが深く頭を下げて、すっと後に下がる。ルースレアはほっとして、侍女の方を向いて感謝を伝えた。
「先について勝手にお邪魔させてもらったから、息子は一足先に会場にいる」
「そうか。さ、ルースレア、行こうか」
すっと腕を差し出した父に頷いて、そっと手を回す。ルースレアは緊張でドキドキとうるさくなってきた胸に手を当てて、落ち着けるように深く息を吐き出すと父と一緒に歩き出した。
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