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彼女は恋を知る8
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「シアン様、そろそろお時間でございます」
ミューラに協力してもらいながらシアンとゆったり会話の練習をしていると、控えめに執事がそう声をかけた。
いつの間にか結構な時間が過ぎていたらしい。少し薄暗くなってきていて、夕暮れが近づいていた。
いつもは長く感じていたお見合いが、今回は残念に感じるほど早く過ぎてしまった。先ほどまで元気に振られていたルースレアの尻尾がしゅんと垂れる。
もっとたくさん話していたい。もっと長く一緒にいたい。そんな感情が胸の中を渦巻く。
「ルースレア様……」
主の気持ちが手にとるようにわかるミューラが気遣うように声をかける。その呼びかけにルースレアははっとして、慌てて表情を取り繕う。
こんなに良くしてもらったのだ。忙しいシアンを自分の感情のまま引き止めるなんてわがままは言ってはいけない。
執事に促され立ち上がった彼に合わせて席を立つ。微笑みを浮かべて見せるルースレアだったが、正直な耳と尻尾は寂しいという感情をありありと表している。微笑むのに必死な彼女は自分の耳や尻尾が元気なく垂れていることに気づかない。
「……手紙、書いてもいいかな?」
じっとこちらを見ていたシアンがふとそんなことを言った。ルースレアはぱっと耳を立て、何度も頷く。元気なく垂れていた尻尾が打って変わってぶんぶんと横に振られる。
実に分かりやすく感情を表すそれらに、シアンがくすりと笑う。それから自身の上着を脱いで、そっとルースレアの肩にかける。
突然のことにが目をパチパチさせながら、彼を見上げると色の違う瞳が細められた。
「これから夜にかけて冷えるから」
爽やかな香りを漂わせる上着にそっと手を添えお礼を伝える。ゆっくりと動いた唇を目で追った彼が、頷いてみせた。簡単な言葉なら、もうミューラを通さなくても分かるようになったようだ。
それが嬉しくて、ルースレアは笑う。
「今日はありがとう。手紙を送るから待っていてくれる?」
コクリと頷く。するとシアンの手が頬に伸ばされ、そっと触れる。手袋越しで熱は感じなかったが、彼が自分に触れているという事実にルースレアの頬が一気に熱くなった。きっと顔が真っ赤になってしまっているに違いない。
「……くすっ。じゃあ、行こうか」
小さく笑ったシアンが頬から手を離し、代わりにルースレアの手を取る。そのまま手を引かれ、抗うことなく歩き出す。
少しだけ前を歩く彼を改めて見つめる。ふわふわの髪は触り心地が良さそうだ。しなやかな尻尾が時々ゆらりと動く。
最初は三毛だし、オッドアイだしで緊張したが、シアンはとてもいい人だった。自分の手を包む大きな手をきゅっと握り返すと、ちらりと彼が振り返る。少し眠そうな目と視線があったのが嬉しくて微笑む。それを見たシアンも口元だけ少し緩めて笑ってくれた。
ぽーっと彼を見つめながら馬車まで来ると、すでに父のアルフレットとネイアス待っていた。二人は仲の良さげな娘と息子を見てそれぞれ違う表情を浮かべる。
父はどこか苦々しげで、ネイアスは満足そうだ。
「それじゃあ、気をつけて帰ってね」
そっと手が離れる。それを残念に思いつつ、ルースレアはドレスの端を摘んで礼をする。それから今度はアルフレットの手を借りて、馬車に乗り込んだ。
馬車の窓から外を覗き込むと、シアンとネイアスがその場に留まったまま、こちらを見ていた。
こちらが見送らなくていいのかと父を見ると、その視線に気づいたらしくアルフレットが口を開く。
「気にしなくていい。彼らはこのまま街を散策して帰るらしいからな」
『そう、ですか』
また窓の外に視線を戻す。ひらひらと手を振るネイアスに小さくお辞儀をすると、馬車がゆっくりと動き出した。
徐々に遠くなっていくシアンに無性に寂さを覚える。だけど、彼は手紙をくれると言った。それを楽しみにしよう。そう思いながらルースレアはシアンたちの姿が見えなくなった窓から視線を外した。
「お見合い、どうだった?」
ルースレアのことをじっと見ていたらしいアルフレットにそう声をかけられる。
『とてもいい方でした。優しくて……私が獣族返りでも差別もなくて……、それに、私と会話がしたいからと努力もしてくださって……』
改めて思い返しても素敵な時間だった。頬を染めて明るく話す姿に、アルフレットはやっぱり複雑そうな表情を浮かべる。
いつもお見合いの後は落ち込んで暗い表情だった娘が、今回はこんなにも楽しそうに沢山話してくれる。相手が少々納得いかない気もするが、ルースレアが幸せならば、とアルフレットは思考を巡らせ、小さくため息をついた。
そんな父の複雑な心情など知りもしないルースレアは一生懸命、シアンとの時間がいかに素敵だったのか説明したのだった。
ミューラに協力してもらいながらシアンとゆったり会話の練習をしていると、控えめに執事がそう声をかけた。
いつの間にか結構な時間が過ぎていたらしい。少し薄暗くなってきていて、夕暮れが近づいていた。
いつもは長く感じていたお見合いが、今回は残念に感じるほど早く過ぎてしまった。先ほどまで元気に振られていたルースレアの尻尾がしゅんと垂れる。
もっとたくさん話していたい。もっと長く一緒にいたい。そんな感情が胸の中を渦巻く。
「ルースレア様……」
主の気持ちが手にとるようにわかるミューラが気遣うように声をかける。その呼びかけにルースレアははっとして、慌てて表情を取り繕う。
こんなに良くしてもらったのだ。忙しいシアンを自分の感情のまま引き止めるなんてわがままは言ってはいけない。
執事に促され立ち上がった彼に合わせて席を立つ。微笑みを浮かべて見せるルースレアだったが、正直な耳と尻尾は寂しいという感情をありありと表している。微笑むのに必死な彼女は自分の耳や尻尾が元気なく垂れていることに気づかない。
「……手紙、書いてもいいかな?」
じっとこちらを見ていたシアンがふとそんなことを言った。ルースレアはぱっと耳を立て、何度も頷く。元気なく垂れていた尻尾が打って変わってぶんぶんと横に振られる。
実に分かりやすく感情を表すそれらに、シアンがくすりと笑う。それから自身の上着を脱いで、そっとルースレアの肩にかける。
突然のことにが目をパチパチさせながら、彼を見上げると色の違う瞳が細められた。
「これから夜にかけて冷えるから」
爽やかな香りを漂わせる上着にそっと手を添えお礼を伝える。ゆっくりと動いた唇を目で追った彼が、頷いてみせた。簡単な言葉なら、もうミューラを通さなくても分かるようになったようだ。
それが嬉しくて、ルースレアは笑う。
「今日はありがとう。手紙を送るから待っていてくれる?」
コクリと頷く。するとシアンの手が頬に伸ばされ、そっと触れる。手袋越しで熱は感じなかったが、彼が自分に触れているという事実にルースレアの頬が一気に熱くなった。きっと顔が真っ赤になってしまっているに違いない。
「……くすっ。じゃあ、行こうか」
小さく笑ったシアンが頬から手を離し、代わりにルースレアの手を取る。そのまま手を引かれ、抗うことなく歩き出す。
少しだけ前を歩く彼を改めて見つめる。ふわふわの髪は触り心地が良さそうだ。しなやかな尻尾が時々ゆらりと動く。
最初は三毛だし、オッドアイだしで緊張したが、シアンはとてもいい人だった。自分の手を包む大きな手をきゅっと握り返すと、ちらりと彼が振り返る。少し眠そうな目と視線があったのが嬉しくて微笑む。それを見たシアンも口元だけ少し緩めて笑ってくれた。
ぽーっと彼を見つめながら馬車まで来ると、すでに父のアルフレットとネイアス待っていた。二人は仲の良さげな娘と息子を見てそれぞれ違う表情を浮かべる。
父はどこか苦々しげで、ネイアスは満足そうだ。
「それじゃあ、気をつけて帰ってね」
そっと手が離れる。それを残念に思いつつ、ルースレアはドレスの端を摘んで礼をする。それから今度はアルフレットの手を借りて、馬車に乗り込んだ。
馬車の窓から外を覗き込むと、シアンとネイアスがその場に留まったまま、こちらを見ていた。
こちらが見送らなくていいのかと父を見ると、その視線に気づいたらしくアルフレットが口を開く。
「気にしなくていい。彼らはこのまま街を散策して帰るらしいからな」
『そう、ですか』
また窓の外に視線を戻す。ひらひらと手を振るネイアスに小さくお辞儀をすると、馬車がゆっくりと動き出した。
徐々に遠くなっていくシアンに無性に寂さを覚える。だけど、彼は手紙をくれると言った。それを楽しみにしよう。そう思いながらルースレアはシアンたちの姿が見えなくなった窓から視線を外した。
「お見合い、どうだった?」
ルースレアのことをじっと見ていたらしいアルフレットにそう声をかけられる。
『とてもいい方でした。優しくて……私が獣族返りでも差別もなくて……、それに、私と会話がしたいからと努力もしてくださって……』
改めて思い返しても素敵な時間だった。頬を染めて明るく話す姿に、アルフレットはやっぱり複雑そうな表情を浮かべる。
いつもお見合いの後は落ち込んで暗い表情だった娘が、今回はこんなにも楽しそうに沢山話してくれる。相手が少々納得いかない気もするが、ルースレアが幸せならば、とアルフレットは思考を巡らせ、小さくため息をついた。
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