獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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彼は君を知る

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 ガラガラと音を立てて馬車が去っていく。本日のお見合い相手のルースレアを乗せた馬車が見えなくなるまで見送って、シアンは小さく息を吐き出した。
 思い出されるお見合いの席での彼女の姿に、不思議と気持ちが穏やかになる。

「……どうやら、お見合いして正解だったようだ」

 ふと隣に立つ父のネイアスがそんな言葉をこぼした。そちらに視線を移してゆっくり頷くと、父の真っ黒な尻尾がゆらりと揺れる。

「それは良かった。……それで、どうする?」

 わざわざ確認をしてくる父にシアンはもう一度、ルースレアの姿を思い浮かべる。勝手気ままな猫族とは違い、素直で可愛らしい彼女のことはすぐに気に入った。猫族の女性がどうも合わないシアンからすれば、控えめで素直な彼女は魅力的で、もっと知りたいと思う。
 そんな自分の感情など分かっているだろうに、とため息をついて口を開く。

「このまま、彼女と関係を深めていきたいと思っているよ」
「そうか」
「彼女は……猫族の女性とはぜんぜん違う。静かで、穏やかだ」
「まぁ、種族が違えば、性格も違うさ」

 ネイアスの言葉に頷く。
 シアンは猫族の中で希少な三毛で、おまけに幸福を呼ぶというオッドアイ。優秀な遺伝子を求める獣人の習性状、女性がほっておくはずがなかった。
 おまけに猫族は自由な種族。所構わずくっついてきたり、口説いてきたり……。どれもすぐに優秀な執事によって引き剥がされたが、幼い頃からそんなことばかりで、静かな時間を好むシアンは正直うんざりしていた。
 そんなとき提案されたのが今回の見合いだった。王族が関わっているし、猫族ではない女性にも会ってみたくて引き受けたが……正解だった。

「さ、それじゃあ、すこし街を見て回って帰ろうか」
「僕は馬車にいるから」
「付き合ってくれないのか?」
「……父さんが選ぶ母さんへのお土産は量が多いからいや」

 後ろで文句を言っているネイアスを無視して馬車に乗り込む。父は母への貢ぎ……贈り物を沢山買うので、付き合うと疲れるのだ。
 結局、馬車に乗るギリギリの量のプレゼントを持ったネイアスが帰ってきたのは、それなりに時間が経った後だった。
 満足そうな父の話に付き合いながら屋敷に帰ってくると、門の前に見覚えのある男が立っていた。
 髪のない頭に脂肪を蓄えこんだ腹。髪と同じように所々剥げた耳と尻尾を持つこの男……ドルズは、シアンの家に深く関わりのある者だ。
 種の保存や繁栄のためにはるか昔シアンの家から血筋を分けた、いわゆる傍系だ。
 家に深く関わりがあるとはいえ、この男のことは好きではない。

「ネイアス様! この私に黙って犬族とのお見合いとはどういうことですか!」

 馬車から降りたネイアスにさっそくドルズが喚き散らす。父は即座に黒い耳を両手で抑えて声をシャットアウトしている。

「私は本家の血筋を守るのが仕事なのですよ! よりにもよってシアン様のような希少な方を、他種族と結婚させるつもりですか!? 私がご用意した女性は拒否ばかりして、この仕打はなんです! 絶対にシアン様には猫族と結婚して優秀な血を残していただきます! 犬族の、それも獣族返りなどとの結婚は認めませんからね!」

 父に詰め寄って喚くドルズにシアンも耳を抑えながら、ため息をつく。この男が用意した女性はうるさくて煩わしくて仕方なかった。もっと静かな女性だったならまだいいのだが、残念ながら地位のある者の娘はどれも似たりよったりだったのだ。
 話を聞かず、ぷいっとそっぽを向いてるネイアスにドルズは顔を真っ赤にさせる。

「ダリア様のお相手があなたのような方だったのが間違いでしたな! やはりもっとあのとき反対しておくべきでした!」

 シアンの母、ダリアの名前を出したドルズは刺々しい言葉をネイアスに浴びせている。猫族の領主の娘だった母を父が口説き落としたとは聞いているが、どうやらこの男は当時から納得していなかったらしい。

「とにかく! このお見合いは認めませんぞ! お断りくださいね! いいですね!! 絶対ですぞ!」

 そう吐き捨てて、ドルズは足音荒く去っていった。親子は同時に耳から手を外し、ため息をつく。あの男には本当にもうウンザリだ。

「あのデブ猫……嫌い」
「ははっ。ハゲを忘れているぞ」
「ハゲデブ猫?」
「そう。まったくうっとうしい」

 笑っているがネイアスも相当うんざりしているのだろう。笑顔で悪態をついている。

「もう取り潰したら?」
「……それができたらとっくの昔にしているさ。ドルズはあんなんだが、あの家の役割は必要だ。とくに自由な猫族にはな」
「ふぅん」
「まあ、お前は自分のことを考えていればいいさ。ルースレア嬢が気に入ったのなら、気にせず仲を深めればいい」

 そういってネイアスはシアンの頭を一度撫でた。もう成人の息子にすることではないが、特に不快には思わなかった。
 これからもドルズは口出ししてきそうだが、そんな煩わしさよりもルースレアのことをもっと知りたいと考える。

「……ああ、手紙を書かないと」

 どんな文章にしようかな、そんなふうに考えて、シアンは尻尾をゆらりと揺らしたのだった。
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