獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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想いを重ねて2

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 日が暮れ、窓の外では星が輝いている。
 シアンとのお見合いから約二ヶ月後。ルースレアは衣装部屋をウロウロと歩き回っていた。時々立ち止まりながらドレスを吟味する彼女は真剣な表情だ。
 そんなルースレアは名前を呼ばれ、ドレスから部屋の入口へと意識を移した。扉の前にはミューラが立っている。

「明日、お召になられるドレスはお決まりになられましたか?」

 侍女の言葉にゆっくり首を横に振った。
 いつもはすべてミューラに任せているドレスを今日に限って自分で選んでいるのは、明日シアンに会うからだ。待ちに待った会える日が楽しみで、少しでも彼に気に入ってもらいたくて、ルースレアはこうして衣装部屋でドレスを選んでいる。
 お茶会にも舞踏会にも夜会にも顔を出さない彼女の持つドレスは少ない。どれも気に入っているが、どれも決め手にかける。

「うーん、そうですね……。可愛らしい感じがお似合いなので、このピンクのドレスはいかがですか?」

 悩んでいる主人を見かねてミューラが一着のドレスを選んでくれる。だがルースレアはその提案を首を横に振って却下した。
 シアンは落ち着いた青年だ。彼の隣に並ぶと少々子供っぽく見えてしまう。もっと隣にふさわしい落ち着いたドレスがいい。それにピンク色はお見合いのときにすで着ている。

「だめですか……」

 困ったように眉尻を下げて侍女がドレスを戻す。わがままを言ってしまった、と少し申し訳なくなる。
 しゅんっと尻尾を垂らした主人にミューラが優しい笑みを浮かべた。

「大丈夫ですよ、ルースレア様。……気になる男性には少しでも可愛く思ってもらいたいものですからね」

 なんでもお見通しのミューラに頬が一瞬で熱くなる。照れてしまったルースレアに侍女は小さく笑って、今度は違うドレスを手に取った。
 落ち着いた緑色のドレスは首元と袖口に白いレースがあしらわれ、腰には大きなリボンと花飾りがついている。

「これはいかがですか?」

 飾りが多いピンクのドレスとは違ってシンプルなデザインだ。普段着ているものより少しだけきちんとした印象のこのドレスは、ルースレアにとって大切なものだ。というのも、これは亡くなった祖母が若い頃に着ていた物をリメイクした形見なのだ。
 いつも優しくしてくれた祖母のことが大好きだった。懐かしい気持ちを抱きながらも、ルースレアは悩む。このドレスはいつ見ても素敵だ。でも、少しシンプルすぎるような気もする。
 そんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、ミューラが口を開く。

「ルースレア様、たしかに綺麗に着飾った姿も大切です」

 顔を上げてミューラを見る。微笑む侍女はルースレアを姿見の前に連れていき、手に持ったドレスを彼女にあてた。

「でも、私は普段のルースレア様も素敵だと思うのです。着飾って苦しくなるよりも、着飾らない美しさの方がいいですよ。私を信じてください」

 姿見に写った自分の姿を見つめる。いつも丁寧に手入れをしてくれる侍女たちのおかげで髪は艷やかで、いつも栄養を考えたコックのおかげで肌は荒れることはない。
 ふと社交界デビューのときの自分を思い出す。真新しいドレスに息苦しくなるほどしっかりと施された化粧。引っ張られて少し痛む髪。そこまでして着飾った自分はまるで別人のようだった。
 別人のようになってまでシアンに会いたいだろうか。そう考えて、ルースレアはふっと肩の力を抜いた。
 そうだ、彼には嘘偽りのない姿で会いたい。素顔の自分を好きになってもらいたい。

「ふふ。これでよろしいですか?」

 表情が明るくなったルースレアにミューラがそう声をかける。それに同意を示すためにゆっくりと頷いた。

「分かりました。では、明日はこのドレスをご用意いたしますね」

 お願い、と唇を動かして、ルースレアはミューラと共に衣装部屋を出た。随分と悩んでしまったようで、もういつも眠る時間だった。ベッドにもぐり込み、洗いたてのシーツの香りを堪能する。
 侍女が明かりを消し、一言挨拶を述べてから去っていく。ぱたん、とドアが閉まり部屋の中に暗闇が落ちる。
 明日シアンに会える。そう思うと胸がドキドキとしてきた。二ヶ月の間、彼とはこまめに手紙のやり取りをしてきた。今日あった些細なことから、猫族のこと、たまに社交界のこと。どれも何回も読み直して、ゆっくり丁寧に返事をした。距離はあってもそのやり取りが心をゆっくりと近づけてくれるようで、嬉しかった。
 そっと目を閉じる。早く脈打つ心臓はまったく落ち着いてくれそうにない。本当は早く寝て明日に備えたいのだが、ちっとも眠くならない。
 ……明日はどんな一日になるのだろう。シアンは変わらず優しくしてくれるだろうか。彼もまた自分に会えて嬉しいと思ってくれるだろうか……
 そんなふうに考えているうちに、あんなに眠くなかったはずなのに、いつの間にかルースレアは夢の中に落ちていったのだった。
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