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想いを重ねて5
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ルースレアにとって短いような長いような馬車の移動は終わり、目的地に到着した。
シアンの手を借りて馬車から降りると、視界いっぱいに花畑が広がる。深く息を吸い込むと色んな花の香りが肺を満たした。それまで感じていた恥ずかしさを一気に吹き飛ばすような光景に自然と体から力が抜ける。
「……アルフレット様に教えていただいたんだよ」
隣に立ったシアンがそう教えてくれる。父からの情報ということはここは犬族の領地なのだろう。
「シアン様、こちらを」
「ああ、ありがとう。……ルースレア嬢」
がさり、という音ともに目の前に百合の花束が差し出される。それを受け取り、ルースレアはシアンを見上げた。
「手紙に百合の押し花が添えられていたし、初めて会ったときも身につけていたから好きなのかと思って、事前に準備しておいたんだ」
お見合いのときたしかにルースレアは百合の花を身に着けていた。それに彼への手紙にも添えたこともある。そんな些細なことを覚えていてくれたことが嬉しくて、ルースレアは百合の花束を大切に抱きしめた。
ドレスに花粉がつかないように処理された百合の花からは気遣いも伺える。
「シアン様、少々よろしいでしょうか」
執事に話しかけられ、シアンがその場を離れる。ルースレアは百合を眺め、彼が戻ってくるのを待った。
大した用事ではないのか、すぐに戻ってきたようで、後ろから足音が聞こえてきた。ルースレアはまだお礼も伝えていなかった、と振り返る。
彼女のドレスの裾と手入れの行き届いた髪がふわりと風に翻って、柔らかに舞う。
『ありがとうございます。とっても嬉しいです』
こちらを見るシアンがなぜか驚いたような表情を浮かべた。伝わるようにゆっくり唇を動かしたつもりだったが、上手く伝わらなかっただろうかと不安になる。そんな気持ちが分かったのか、シアンがゆっくりと口を開く。
「ごめん。あまりにも……可愛らしくて」
予想していなかった言葉にルースレアは瞬きを繰り返す。そして言葉の意味を飲み込み、頬が一瞬で熱を帯びた。それを誤魔化すように、百合の花束に顔を埋める。
「……あっちに、いいところがあるらしいから行こうか」
白い手袋に包まれた手が差し出され、ゆっくりと顔を上げた。ちらりとシアンを見ると表情も顔色も変わっていなかったが、さっと顔を逸らされる。
「恥ずかしいから……今は見ないで」
ポツリと聞こえてきた言葉に、ルースレアは小さく笑みを浮かべた。なんだかシアンが可愛らしく思えて、思わず尻尾が揺れる。
笑みを浮かべたまま手を重ねると、きゅっと握られ二人は歩き始めた。
花畑を抜け、爽やかな風が吹き抜ける草原に出る。すぐ近くに森があり、草原自体は小さなものだ。風に合わせて揺れる髪を押さえると、シアンがするりと手を放した。
自分と同じように揺れる三毛の髪を眺めながら、ふと疑問が湧き上がってくる。
シアンは出会ったときから優しくて、自分を差別しなかった。それは何故なのだろう、と。
ちょうど振り返った彼と目が合って、ルースレアはそっと唇を動かした。
「質問をしてもいいですか……かな? うん、いいよ」
唇の動きを読み取ったシアンが言葉をなぞり頷く。
『どうして、シアン様は私を……差別しなかったのですか』
伝わりやすいようにゆっくりと唇を動かすと、彼は考える素振りを見せた。それから少しして考えがまとまったのか、色の違う瞳がこちらを向く。
「……たとえば、話しかけてきたのが強面の筋肉隆々な男性だったとして……」
突然始まった例え話にルースレアは瞬きを繰り返した。意図は分からないが、とりあえず最後まで聞こうと頷く。
「その人が怖い人や悪い人だと決めつけられる?」
シアンからの質問に困って首を傾げた。それを見ていた彼は話を続ける。
「じゃあ、優しそうに微笑む人に話しかけられたのなら? いい人だと思う?」
強面の人よりは怖くないが、いい人かは分からない。強面の人が悪い人と決めつけられないのと同じように。
「初めて会って分かるのはその人のほんの一部。強面筋肉隆々な人でも花が大好きな優しい心の持ち主かもしれない。一見優しげな人でも、実は悪い商人かもしれない。……君の病は君の一部だけど、すべてではないでしょう? 僕は人の一部だけで判断しないようにしてる」
ルースレアは獣族返りで、それを引け目に感じていた。お見合いのときも社交界デビューのときも、それだけで判断されていた。
獣族返りだから自分たちより劣る、病だから面倒だ。……そんな視線ばかりの中で、ルースレア自身も、自分は獣族返りだから、と考えてしまっていた。
ルシアンは初めから獣族返りなど気にしていなかったのだ。
「……なんて、格好良く言ってみたけど、これは父からずっと言われ続けたことなんだ。人を見た目で判断してはいけない、噂を鵜呑みにしてはいけない。なにが本当で、なにがその人の本質なのかよく見なさい、ってね」
そう言ってシアンは微かに笑みを浮かべた。
シアンの手を借りて馬車から降りると、視界いっぱいに花畑が広がる。深く息を吸い込むと色んな花の香りが肺を満たした。それまで感じていた恥ずかしさを一気に吹き飛ばすような光景に自然と体から力が抜ける。
「……アルフレット様に教えていただいたんだよ」
隣に立ったシアンがそう教えてくれる。父からの情報ということはここは犬族の領地なのだろう。
「シアン様、こちらを」
「ああ、ありがとう。……ルースレア嬢」
がさり、という音ともに目の前に百合の花束が差し出される。それを受け取り、ルースレアはシアンを見上げた。
「手紙に百合の押し花が添えられていたし、初めて会ったときも身につけていたから好きなのかと思って、事前に準備しておいたんだ」
お見合いのときたしかにルースレアは百合の花を身に着けていた。それに彼への手紙にも添えたこともある。そんな些細なことを覚えていてくれたことが嬉しくて、ルースレアは百合の花束を大切に抱きしめた。
ドレスに花粉がつかないように処理された百合の花からは気遣いも伺える。
「シアン様、少々よろしいでしょうか」
執事に話しかけられ、シアンがその場を離れる。ルースレアは百合を眺め、彼が戻ってくるのを待った。
大した用事ではないのか、すぐに戻ってきたようで、後ろから足音が聞こえてきた。ルースレアはまだお礼も伝えていなかった、と振り返る。
彼女のドレスの裾と手入れの行き届いた髪がふわりと風に翻って、柔らかに舞う。
『ありがとうございます。とっても嬉しいです』
こちらを見るシアンがなぜか驚いたような表情を浮かべた。伝わるようにゆっくり唇を動かしたつもりだったが、上手く伝わらなかっただろうかと不安になる。そんな気持ちが分かったのか、シアンがゆっくりと口を開く。
「ごめん。あまりにも……可愛らしくて」
予想していなかった言葉にルースレアは瞬きを繰り返す。そして言葉の意味を飲み込み、頬が一瞬で熱を帯びた。それを誤魔化すように、百合の花束に顔を埋める。
「……あっちに、いいところがあるらしいから行こうか」
白い手袋に包まれた手が差し出され、ゆっくりと顔を上げた。ちらりとシアンを見ると表情も顔色も変わっていなかったが、さっと顔を逸らされる。
「恥ずかしいから……今は見ないで」
ポツリと聞こえてきた言葉に、ルースレアは小さく笑みを浮かべた。なんだかシアンが可愛らしく思えて、思わず尻尾が揺れる。
笑みを浮かべたまま手を重ねると、きゅっと握られ二人は歩き始めた。
花畑を抜け、爽やかな風が吹き抜ける草原に出る。すぐ近くに森があり、草原自体は小さなものだ。風に合わせて揺れる髪を押さえると、シアンがするりと手を放した。
自分と同じように揺れる三毛の髪を眺めながら、ふと疑問が湧き上がってくる。
シアンは出会ったときから優しくて、自分を差別しなかった。それは何故なのだろう、と。
ちょうど振り返った彼と目が合って、ルースレアはそっと唇を動かした。
「質問をしてもいいですか……かな? うん、いいよ」
唇の動きを読み取ったシアンが言葉をなぞり頷く。
『どうして、シアン様は私を……差別しなかったのですか』
伝わりやすいようにゆっくりと唇を動かすと、彼は考える素振りを見せた。それから少しして考えがまとまったのか、色の違う瞳がこちらを向く。
「……たとえば、話しかけてきたのが強面の筋肉隆々な男性だったとして……」
突然始まった例え話にルースレアは瞬きを繰り返した。意図は分からないが、とりあえず最後まで聞こうと頷く。
「その人が怖い人や悪い人だと決めつけられる?」
シアンからの質問に困って首を傾げた。それを見ていた彼は話を続ける。
「じゃあ、優しそうに微笑む人に話しかけられたのなら? いい人だと思う?」
強面の人よりは怖くないが、いい人かは分からない。強面の人が悪い人と決めつけられないのと同じように。
「初めて会って分かるのはその人のほんの一部。強面筋肉隆々な人でも花が大好きな優しい心の持ち主かもしれない。一見優しげな人でも、実は悪い商人かもしれない。……君の病は君の一部だけど、すべてではないでしょう? 僕は人の一部だけで判断しないようにしてる」
ルースレアは獣族返りで、それを引け目に感じていた。お見合いのときも社交界デビューのときも、それだけで判断されていた。
獣族返りだから自分たちより劣る、病だから面倒だ。……そんな視線ばかりの中で、ルースレア自身も、自分は獣族返りだから、と考えてしまっていた。
ルシアンは初めから獣族返りなど気にしていなかったのだ。
「……なんて、格好良く言ってみたけど、これは父からずっと言われ続けたことなんだ。人を見た目で判断してはいけない、噂を鵜呑みにしてはいけない。なにが本当で、なにがその人の本質なのかよく見なさい、ってね」
そう言ってシアンは微かに笑みを浮かべた。
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