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想いを重ねて6
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「……ルースレア嬢」
静かに微笑んだシアンをじっと見つめていると、ふと名前を呼ばれた。
「君は穏やかで優しい人だ。手紙でのやり取りや、今日会って僕はそう感じた。僕たちは異種族同士。だけど……僕は君と一緒にいたいと思ってる」
一歩、シアンが距離を詰める。急に緊張し始めた自分の体を落ち着けるように、ルースレアは深呼吸をする。その間にも彼は距離を詰めていて、目の前に立っていた。
背の高いシアンを見上げると、金と青の瞳がゆっくりと細められる。彼の頬がほんのりと赤く色づいていて、自然と自分の頬も熱を持つ。
ルースレアがぼんやりとしていると、不意に両手を握られビクリと震える。そんな彼女の手をしっかりと握りしめると、シアンは真剣な表情を浮かべた。
「……僕の婚約者になってくれませんか?」
落ち着いた声色で囁かれた言葉に、一気に体温が上がる。
そもそもお見合いをしたのだから、どちらかが断らない限り婚約するのは当たり前のことなのだが、今まで何度も断られてきたせいで中々返事ができなかった。
それでもシアンは怒るでも急かすでもなく、待っていてくれる。
頭の中で何度も先程の言葉を反芻して、ルースレアはやっとの思いで頷いた。
「ありがとう」
シアンは表情を和らげると、そっとルースレアの手を持ち上げて口づけを一つ落とした。それからするりと手を離される。
「少し待ってて」
口づけされた手を胸元でぎゅっと握りしめていると、シアンはそう言ってその場から立ち去っていった。一人になったルースレアはへたりと座り込む。感情が乱れて立っていられなかった。
頬どころか全身が熱い。こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。初めて好きになった人と婚約できるなんて。
柔らかな感触を感じた手の甲に視線を落とす。ここに彼の唇が触れたと思うと……
「ルースレア嬢……?」
じぃっと手の甲を眺めていたら、いつの間にかシアンが戻ってきていたらしい。身を屈めてこちらを見る少し眠そうな瞳と目が合って、ルースレアは飛び上がるように立ち上がった。
うっとりと口づけされた手を眺めていたのを見られて恥ずかしい。ちらりとシアンを見ると、彼は三毛の尻尾をゆらりと揺らしながら首を傾げていた。
どうやら気にしていないようでほっと胸を撫で下ろし、改めてシアンに視線を向けた。彼の手には小さな箱が乗せられていて、今度はルースレアが首を傾げた。
「ああ……これ?」
ルースレアの視線を辿ったシアンが持っていた箱をパカリと開けた。
それを覗き込むとはちみつ色の宝石がついたブローチが入っていた。宝石を中心に繊細な銀細工が施されたブローチが太陽の光を受けて艷やかに輝いている。
「これは猫族の領地で取れた宝石を加工したものだよ。婚約者にはこの宝石を使ったアクセサリーを贈るのが定番なんだ」
話しながらシアンがブローチを取り出し、見やすくしてくれる。飴玉のようにツルリとしたカボションカットの宝石をよく見ると、まっすぐに白い線が入っていた。まるで猫の瞳のようだ。
「猫の瞳みたいでしょ」
まさに思っていたことをシアンが口にして、ルースレアは同意するように何度も頷いた。
「これはクリソベリルキャッツアイと呼ばれるものだよ。この中心の白い縦線のことをキャッツアイって言うんだ。猫目効果とも呼ばれているかな。当たった光が宝石の内包物に反射して、こんな風に光が浮かび上がるんだよ」
説明を聞きながら宝石をじっと見つめる。
色合いもキャッツアイも銀の装飾もすべてが好みで可愛らしい。
あんまりにも真剣に見つめていたからか、シアンがくすりと笑った。
「気に入った?」
優しげな声で問われ勢いよく顔を上げたルースレアは、思ったよりもずっと近くにシアンの顔があって固まる。
少し動けば唇が当たってしまいそうな近さに、彼のオッドアイを見つめることしかできない。驚いたように目を見開いたシアンの瞳は、先ほど見た宝石よりも美しかった。
時間にしたら僅かな間だっただろう。ふと彼が目を伏せて、そっと距離を取った。ふんわりと香った爽やかな匂いに少しクラクラしながら、ルースレアはゆっくりと体から力を抜く。
不意に近くなる距離は嬉しさよりも緊張が勝る。
「びっくりさせたね……、ごめん」
どことなくしゅんっとした雰囲気のシアンに慌てて首を横に振った。
「ありがとう。……これ、受け取ってくれるかな?」
ゆっくりと頷く。好きな人からの贈り物が欲しくないわけがない。それも、婚約者に贈るものなら、なおのこと。
シアンがブローチを丁寧な手付きで箱に戻し、それを差し出した。
ルースレアはその箱を受け取り、中に入ったブローチを見て口元を綻ばせたのだった。
静かに微笑んだシアンをじっと見つめていると、ふと名前を呼ばれた。
「君は穏やかで優しい人だ。手紙でのやり取りや、今日会って僕はそう感じた。僕たちは異種族同士。だけど……僕は君と一緒にいたいと思ってる」
一歩、シアンが距離を詰める。急に緊張し始めた自分の体を落ち着けるように、ルースレアは深呼吸をする。その間にも彼は距離を詰めていて、目の前に立っていた。
背の高いシアンを見上げると、金と青の瞳がゆっくりと細められる。彼の頬がほんのりと赤く色づいていて、自然と自分の頬も熱を持つ。
ルースレアがぼんやりとしていると、不意に両手を握られビクリと震える。そんな彼女の手をしっかりと握りしめると、シアンは真剣な表情を浮かべた。
「……僕の婚約者になってくれませんか?」
落ち着いた声色で囁かれた言葉に、一気に体温が上がる。
そもそもお見合いをしたのだから、どちらかが断らない限り婚約するのは当たり前のことなのだが、今まで何度も断られてきたせいで中々返事ができなかった。
それでもシアンは怒るでも急かすでもなく、待っていてくれる。
頭の中で何度も先程の言葉を反芻して、ルースレアはやっとの思いで頷いた。
「ありがとう」
シアンは表情を和らげると、そっとルースレアの手を持ち上げて口づけを一つ落とした。それからするりと手を離される。
「少し待ってて」
口づけされた手を胸元でぎゅっと握りしめていると、シアンはそう言ってその場から立ち去っていった。一人になったルースレアはへたりと座り込む。感情が乱れて立っていられなかった。
頬どころか全身が熱い。こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。初めて好きになった人と婚約できるなんて。
柔らかな感触を感じた手の甲に視線を落とす。ここに彼の唇が触れたと思うと……
「ルースレア嬢……?」
じぃっと手の甲を眺めていたら、いつの間にかシアンが戻ってきていたらしい。身を屈めてこちらを見る少し眠そうな瞳と目が合って、ルースレアは飛び上がるように立ち上がった。
うっとりと口づけされた手を眺めていたのを見られて恥ずかしい。ちらりとシアンを見ると、彼は三毛の尻尾をゆらりと揺らしながら首を傾げていた。
どうやら気にしていないようでほっと胸を撫で下ろし、改めてシアンに視線を向けた。彼の手には小さな箱が乗せられていて、今度はルースレアが首を傾げた。
「ああ……これ?」
ルースレアの視線を辿ったシアンが持っていた箱をパカリと開けた。
それを覗き込むとはちみつ色の宝石がついたブローチが入っていた。宝石を中心に繊細な銀細工が施されたブローチが太陽の光を受けて艷やかに輝いている。
「これは猫族の領地で取れた宝石を加工したものだよ。婚約者にはこの宝石を使ったアクセサリーを贈るのが定番なんだ」
話しながらシアンがブローチを取り出し、見やすくしてくれる。飴玉のようにツルリとしたカボションカットの宝石をよく見ると、まっすぐに白い線が入っていた。まるで猫の瞳のようだ。
「猫の瞳みたいでしょ」
まさに思っていたことをシアンが口にして、ルースレアは同意するように何度も頷いた。
「これはクリソベリルキャッツアイと呼ばれるものだよ。この中心の白い縦線のことをキャッツアイって言うんだ。猫目効果とも呼ばれているかな。当たった光が宝石の内包物に反射して、こんな風に光が浮かび上がるんだよ」
説明を聞きながら宝石をじっと見つめる。
色合いもキャッツアイも銀の装飾もすべてが好みで可愛らしい。
あんまりにも真剣に見つめていたからか、シアンがくすりと笑った。
「気に入った?」
優しげな声で問われ勢いよく顔を上げたルースレアは、思ったよりもずっと近くにシアンの顔があって固まる。
少し動けば唇が当たってしまいそうな近さに、彼のオッドアイを見つめることしかできない。驚いたように目を見開いたシアンの瞳は、先ほど見た宝石よりも美しかった。
時間にしたら僅かな間だっただろう。ふと彼が目を伏せて、そっと距離を取った。ふんわりと香った爽やかな匂いに少しクラクラしながら、ルースレアはゆっくりと体から力を抜く。
不意に近くなる距離は嬉しさよりも緊張が勝る。
「びっくりさせたね……、ごめん」
どことなくしゅんっとした雰囲気のシアンに慌てて首を横に振った。
「ありがとう。……これ、受け取ってくれるかな?」
ゆっくりと頷く。好きな人からの贈り物が欲しくないわけがない。それも、婚約者に贈るものなら、なおのこと。
シアンがブローチを丁寧な手付きで箱に戻し、それを差し出した。
ルースレアはその箱を受け取り、中に入ったブローチを見て口元を綻ばせたのだった。
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