獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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婚約式1

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 窓から差し込む太陽光を取り込んで、はちみつ色の中に浮かび上がる白い光。その宝石を中心に繊細な銀細工が施されたブローチをルースレアは自分の手で胸元に飾り付けた。
 婚約式のためにあつらえた真っ白なドレスは、装飾品のないシンプルなもので、ブローチだけが彩りを添えている。
 それを見て表情を和らげながら、窓の外へ視線を移す。
 今、ルースレアは婚約式のために王都に滞在している。どの種族の領地でもない王都には色々な獣人で溢れている。

「……ルースレア。入りますよ」

 ノックとともに母の声が聞こえ、ゆっくりと扉が開いた。いつもよりしっかりと身なりを整えた母のアリアは、娘から見ても綺麗だ。

「……懐かしいわ。私の若い頃にそっくりね」

 父との婚約式を思い出したのか、アリアがそう言いながら目を細める。それから母は手を伸ばし、娘の手を取った。
 なんだろう、とルースレアが首を傾げるとヒラヒラとした袖をめくられ、なにかがシュッとかけられる。その瞬間香ったいい匂いに、それが香水だと気づく。

「お兄様からのプレゼントよ」

 思いも寄らない言葉にルースレアはまばたきを繰り返した。クンクンと鼻を動かして匂いを確かめる。
 この香りはすずらんのものだろう。きつくはなく優しい香りだ。

「クロウが小さい頃から改良を重ねていた香水よ。……貴方に贈るためにずっと頑張っていたのよ」

 兄の優しい顔が脳裏に浮かぶ。この香水を婚約式の日に贈ってくれたということは、クロウも婚約を祝ってくれているということだろう。その思いが嬉しくて今すぐにもお礼を言いたくなるが、残念ながら無理だ。
 婚約式は婚約する者の両親しか参加できない。だから、クロウは今犬族の領地にいる。

「帰ったらお礼を言ってあげなさい」

 何度も頷く。母から受け取った香水瓶を割れないように大切に荷物の中にしまう。

「さて……、そろそろお城に向かいましょうか」

 そう言って背を向けたアリアについてルースレアは歩き始める。緊張で心臓が痛いくらいにドクドクと高鳴ったが、シアンと会えると思うと徐々に落ち着いていく。
 両親とともに馬車へ乗り込み、ルースレアは王都の中心にある王城へと赴いた。
 大きな城門の前で馬車を降り、白い外壁に青い屋根の美しい王城を見上げる。
 来るのは二度目だが前回は夜だったので、また違う印象を受ける。
 緊張が襲ってきて深呼吸をしていると、黄金の装飾が美しい大きな扉がゆっくりと開き、思わずびくりと体を震わせた。

「落ち着きなさい、ルースレア。大丈夫だから」

 背にそっと母の手が添えられて、少し落ち着きを取り戻す。もう一度深呼吸するのと同時に、一人の女性が近づいてきた。おそらく接客を専門とする城のパーラーメイドだろう。リンと立った大きな耳とボリュームのある尻尾からして狼族のようだ。亜麻色の髪を高く結い上げた女性がにっこりと笑みを浮かべ、口を開く。

「案内を任されましたメイドのレフィーナと申します」
「よろしく頼む」

 父のアルフレットが頷きながらそう言うと、レフィーナと名乗ったメイドはくるりと背を向けた。狼族は数が少ないので珍しく、思わずその背をまじまじと見つめてしまう。
 あまりにも見つめすぎたかもしれない。背を向けているメイドが一瞬だけ振り返った。

「娘はほとんど他種族に会ったことがないのでな。特に狼族は数も少なく、珍しいからつい見てしまったようだ。気になったかね?」
「いえ、とんでもごさいません。……たしかに狼族は数が少なく、王城に務める狼族も私とあと一人しかいませんから」
「ふむ。優秀な者しか城では働けないからな。種族間の競争率も高いか」

 父とメイドの話に耳を傾けつつ、ルースレアは辺りを見回す。物珍しげな視線がたくさん自分に向けられていて、落ち着かない。
 領地に籠もっていて姿を見せない獣族返りの令嬢。そんな視線が集まるのも仕方なかった。

「こちらになります」

 視線に気を取られている内に到着したようで、レフィーナが立ち止まった。大きな扉の左右に描かれた金と銀の獅子は宝石があしらわれ、キラキラと光を反射して輝いている。
 メイドが合図すると、両開きの扉が騎士によって開かれた。赤い絨毯が王座までまっすぐに伸び、磨かれた大理石に彩りを添えている。緊張に思わずゴクリと唾を飲み込むと同時に、案内をしてくれたレフィーナが頭を下げて後ろに下がった。

「さ、ルースレア」

 父に背を押され、ルースレアは前に進む。もうすでに中にいたシアンと目が合うと、少しだけ体から力が抜けた。彼の両親もいるので、ルースレアはドレスを摘んでお辞儀をする。
 それから改めてシアンの両親に視線を移した。父親のネイアスはお見合いのときに会っている。目が合うと彼はにっこりと笑いかけてくれ、こちらも微笑みを返す。
 ネイアスの隣にいる女性を見ると、どことなく眠そうな金色の瞳と目が合う。シアンと同じ三毛の猫族。女性はゆらりと尻尾を揺らし、こてんと首を傾げた。

「えーと、お名前は……なんだったかしら」

 ゆったりとした口調で女性がルースレアに話しかける。その質問に答えたのはシアンだった。

「ルースレア嬢だよ、母さん……」
「あ~、そうだわ。そう、ルースレアちゃん。はじめまして、シアンの母親のダリアよ。よろしくね~」

 ペコリと頭を下げると、ダリアは眠そうな目を細めた。見比べるまでもなくシアンは母親似だということが分かる。毛色も、容姿も。
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