獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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結婚に向けて2

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 母のレッスンを受けながら、日々頑張っていたルースレアのもとに珍しく客が訪れていた。
 応接室のソファーにはアリアとルースレアが隣り合わせに座り、その向かいには立派な狐耳を持つ少女と、まだ幼さの残る少年がいる。この二人はもちろん知り合いではない。気まずさに視線をさまよわせていると、少女が口を開いた。

「はじめまして、ルースレア様。私は王都で仕立て屋をしているレストと申します。そして、こちらは弟のカルトです」
「はじめまして!」

 元気のいい挨拶にルースレアは少し緊張がほぐれ、静かに笑みを浮かべた。王都という言葉から婚約式のときに第二王子のルナシークが言っていた婚礼衣装のことだと分かる。
 それにしても王族の紹介なので、もっと経験を積んだ老齢の者が来るのだと思い込んでいた。実際には自分とそう年齢の変わらない少女が来て驚きだ。

「婚礼衣装とお聞きしてます。事前にご婚約者様のシアン様のところにもお伺いいたしましたが、デザインはルースレア様のお好きなようにとのことでした」

 婚礼衣装は新郎新婦でデザインを合わせるのが主流だが、これが揉め事の原因になることも多いと聞く。お互いの好みの違いや、家の力を誇示するために華やかにしすぎたりと、色々あるらしい。
 シアンにも当然好みはあるだろうに、彼はルースレアの好きにしてもいいと言ってくれた。その優しさが嬉しくなる。花嫁として好きなドレスを着れるのが今から楽しみだ。

「本日は採寸とデザインの打ち合わせをお願いいたします」
「ええ、分かったわ。まずは採寸を先に終わらせてもらいましょうか」
「承知いたしました。それでは採寸は私が行います。カルト、アリア様にデザインについてのご説明をお願い。ルースレア様はこちらへ」

 隣の部屋へ移動すると、すぐにレストが背中に回り込む。

「正確に測るために、一旦お召し物を脱がさせていただきますね」

 返事の代わりにコクリと頷くとレストは失礼します、と声をかけてからドレスに手をかけた。下着姿になるとレストが手早く採寸を終える。ドレスを着直して隣の部屋へ戻りソファーへと腰を下ろす。
 テーブルの上には何枚ものドレスのデザイン画が置かれていた。

「さすがルナシーク殿下の紹介なだけありますね。どれも素敵なデザインばかりですよ」
「へへっ、ありがとうございます」
「ルースレアも見てみなさい。カルトさんがデザインしたものよ」

 アリアの話にびっくりしてカルトを見ると、彼は嬉しそうにはにかんでいた。まだ十歳ほどにしか見えないのに、と思いつつデザイン画をいくつか手に取り眺めてみる。
 見たことのある王道なデザインのものから、まったく違う個性的なものまで様々だ。
 ひとまず丈が短く足が出るようなデザインは除外しておく。種族によっては足が自慢だったり、裾が長いものは苦手だったりするので、そういうものもあるのだろうが、ルースレアには少し恥ずかしい。

「どう? ルースレア、気に入ったものはあるかしら」

 しばらく悩んでいると、そう母に声を掛けられた。顔を上げて、一枚のデザイン画をアリアに手渡す。

「あら、随分シンプルなものを選んだわね」

 ルースレアが選んだのはAラインのシンプルなドレス。長袖タイプで肌の露出が少なく落ち着いた雰囲気だ。
 そのデザイン画をアリアがレストへ渡す。

「ルースレア様によく似合うデザインだと思います」
「でも、少しシンプル過ぎないかしら。もっとフリルとか、リボンとかつけたらどう?」
「そうですね……。カルトはどう思う?」
「うーん、可愛さが増していいと思いますが、僕は少しデザインを変えてみるのがいいと思います。シンプルでも素敵になると思うのですが……ルースレア様はどうですか?」

 可愛らしいものを着てみたい気持ちもあるが、婚礼衣装は新郎新婦で合わせるもの。ルースレアのドレスが可愛らしくなるほど、シアンの衣装もそれに合わせて可愛らしくなっていくだろう。もちろん、男性なので、そこまでだろうが……
 そう考えると、やっぱりシンプルの方がいい気がした。シアンならどんな物も着こなしてしまいそうではあるのだが……
 とりあえず、カルトの案がいいと伝える。

「では、こんな感じに……」

 カルトがその場で新しくデザイン画をさらさらと流れるように描いていく。すぐに出来上がったデザイン画を受け取り、隣りにいる母と一緒に覗き込む。

「まあ! 素敵じゃない」

 Aラインはそのままに長袖タイプからビスチェタイプに変更され、代わりに手首に向かって袖が広がっていくパゴダスリーブのボレロを重ね着するデザイン。
 ドレスには金糸の刺繍が施され、美しさが強調されている。
 一目でデザインを気に入ったルースレアはぱっと表情を明るくさせた。
 

「お気に召したようでなりよりです。それではドレスはこれで進めましょう。次はベールですね。少し準備するので、少々お待ち下さい」

 そう言ってレストとカルトがテーブルの上にあったドレスのデザイン画を片付け始めた。
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