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結婚に向けて4
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案内の執事に連れられて応接室に入室すると、ネイアスとシアンが出迎えてくれた。婚約式後初めて会うシアンは忙しさからか、少々やつれて見えた。
「ようこそ。すまないが、ダリアはお昼寝している」
「相変わらずのようだな」
「愛しい妻のワガママは聞くしかないのだよ」
「まあ、こちらも妻は急遽予定ができてこれなかったからな。特に問題はない」
そんなふうに親しげに話しつつ、ネイアスが椅子に座るように促す。ルースレアは父の隣に座り、改めてシアンに視線を向けた。
どうやら彼もこちらを見ていたようで、ばっちりと目が合う。いつもの無表情が優しく緩んだのを見て、自分の頬が熱くなるのをルースレアは感じそれを隠すように俯いた。
「ネイアス様、紅茶をお持ちいたしました」
「ああ、ありがとう」
先ほど案内してくれた執事が紅茶を準備してくれたようだ。許可を得た執事がワゴンを押して入室し、洗練された動作で紅茶を人数分用意してそれぞれの前に置いた。
優しい香りに少し体から力が抜ける。ネイアスとアルフレットが口をつけたのを見てから、ルースレアもティーカップに手を伸ばした。
「……いい茶葉を使ってるな」
ほう、と息をついた父がぼそりと呟く。ルースレアもその意見に同意するように頷いた。
「お前に褒めてもらえるとは光栄だな。良かったな、シアン」
「ほお? これはシアン君が?」
「……はい。猫族の新たな特産品にならないかと思いまして」
「なるほど。ここの鉱石はいいものだが、採掘量に左右されるからな。新たな物を生み出すのは悪くなさそうだ」
「そうだろう? お前も宣伝を手伝ってくれ」
にやりと笑ったネイアスにアルフレットは深いため息をつく。どうやらいいようにされたようだ、と文句を呟きながらも了承するあたり、やはり仲がいいのだろう。
「ルースレア嬢も気に入ってくれたかな?」
話を振られ、ルースレアはにっこりと笑みを浮かべしっかりと頷いた。家でミューラが入れてくれる紅茶ももちろん美味しく気に入っているが、それとはまた違うこの紅茶もすっかり気に入ってしまった。
「それはそれは。お帰りの際は茶葉を包んで差し上げよう」
ネイアスが執事に目配せすると、執事は胸に手を当て深く頭を下げた。
「それでは、そろそろ本題に入ろうか」
そう言ってネイアスはにっこりと笑ったのだった。
それからネイアス、ルシアン、アルフレット、ルースレア、そして途中から参加したダリアで結婚式についての話し合いが行われた。
結婚式を行う場所は式の後この屋敷に向かうことを考え猫族の教会で行うことに決まる。
そして話せないルースレアの負担を考えた結果、招待客は無しで家族のみの式にすることになった。もろもろの詳細を決め終わる頃にはすっかり日が暮れていた。
「ふむ、こんなものかな。なにか付け加えたいことはあるかな、アルフレット」
「いや、問題ない。あとは手紙のやり取りで修正を加えつつ、より詳しく煮詰めていけば大丈夫だろう」
「じゃあ、話し合いはおしまいねぇ~」
やっと終わった、といたふうにダリアがぐっと伸びをした。それから、ベルを鳴らし執事を呼ぶ。
「さて、お食事の準備は整っているかしら」
「もちろんでございます、奥様。上質なワインもご用意しております」
「そう、さすがね~。アルフレット様、ルースレアちゃん、今日は泊まっていって……?」
「しかし……」
「遠慮はいらんさ、アルフレット。今から帰るには日が沈みすぎているだろう?」
「うむ……言葉に甘えさせていただくか……。ルースレア、それでいいか?」
父に確認され少し戸惑う。お泊りなんて初めてだし、なにより今日はミューラを連れてきていない。着替えもないし、女性としては困ってしまう。そう考えていると誰かに手を握られ、顔を上げる。いつの間にか、近くにきていたダリアが手を握っていた。
「心配はいらないわ……、着替えは私のドレスを貸してあげる」
それは助かるのだが、思わずルースレアは視線を彼女の胸に移した。自分より確実に豊満な胸が視線を出迎える。
「あら、ふふふっ。心配はいらないわ」
ルースレアの言わんとすることが分かったダリアが上品な笑みを浮かべた。問題はないというかのような彼女の様子に、素直に甘えることにしてゆっくりと頷く。
「では、さっそく食事にしよう。シアン、ルースレア嬢をエスコートして差し上げなさい」
「はい」
ネイアスがダリアをエスコートして部屋を出ていく。アルフレットは少々複雑そうな表情でシアンを見たが、なにも言わずにネイアスたちに続いて部屋を出た。
「ルースレア嬢、行こうか……」
すっと手が差し出される。いつも父や兄がやる動作なのに、シアンがすると胸が高鳴るから不思議だ。
そっと彼の表情を伺うと少し眠そうなオッドアイがすっと目が細められる。
「緊張してるの?」
少しだけ、と小さく唇を動かす。
「そう……」
差し出されていた手が動く。慌ててそれを追いかけるようとするとそれよりも早く手を取られた。エスコートではなく普通に手を握られ、ルースレアの頬が一瞬で熱を帯びた。
「ようこそ。すまないが、ダリアはお昼寝している」
「相変わらずのようだな」
「愛しい妻のワガママは聞くしかないのだよ」
「まあ、こちらも妻は急遽予定ができてこれなかったからな。特に問題はない」
そんなふうに親しげに話しつつ、ネイアスが椅子に座るように促す。ルースレアは父の隣に座り、改めてシアンに視線を向けた。
どうやら彼もこちらを見ていたようで、ばっちりと目が合う。いつもの無表情が優しく緩んだのを見て、自分の頬が熱くなるのをルースレアは感じそれを隠すように俯いた。
「ネイアス様、紅茶をお持ちいたしました」
「ああ、ありがとう」
先ほど案内してくれた執事が紅茶を準備してくれたようだ。許可を得た執事がワゴンを押して入室し、洗練された動作で紅茶を人数分用意してそれぞれの前に置いた。
優しい香りに少し体から力が抜ける。ネイアスとアルフレットが口をつけたのを見てから、ルースレアもティーカップに手を伸ばした。
「……いい茶葉を使ってるな」
ほう、と息をついた父がぼそりと呟く。ルースレアもその意見に同意するように頷いた。
「お前に褒めてもらえるとは光栄だな。良かったな、シアン」
「ほお? これはシアン君が?」
「……はい。猫族の新たな特産品にならないかと思いまして」
「なるほど。ここの鉱石はいいものだが、採掘量に左右されるからな。新たな物を生み出すのは悪くなさそうだ」
「そうだろう? お前も宣伝を手伝ってくれ」
にやりと笑ったネイアスにアルフレットは深いため息をつく。どうやらいいようにされたようだ、と文句を呟きながらも了承するあたり、やはり仲がいいのだろう。
「ルースレア嬢も気に入ってくれたかな?」
話を振られ、ルースレアはにっこりと笑みを浮かべしっかりと頷いた。家でミューラが入れてくれる紅茶ももちろん美味しく気に入っているが、それとはまた違うこの紅茶もすっかり気に入ってしまった。
「それはそれは。お帰りの際は茶葉を包んで差し上げよう」
ネイアスが執事に目配せすると、執事は胸に手を当て深く頭を下げた。
「それでは、そろそろ本題に入ろうか」
そう言ってネイアスはにっこりと笑ったのだった。
それからネイアス、ルシアン、アルフレット、ルースレア、そして途中から参加したダリアで結婚式についての話し合いが行われた。
結婚式を行う場所は式の後この屋敷に向かうことを考え猫族の教会で行うことに決まる。
そして話せないルースレアの負担を考えた結果、招待客は無しで家族のみの式にすることになった。もろもろの詳細を決め終わる頃にはすっかり日が暮れていた。
「ふむ、こんなものかな。なにか付け加えたいことはあるかな、アルフレット」
「いや、問題ない。あとは手紙のやり取りで修正を加えつつ、より詳しく煮詰めていけば大丈夫だろう」
「じゃあ、話し合いはおしまいねぇ~」
やっと終わった、といたふうにダリアがぐっと伸びをした。それから、ベルを鳴らし執事を呼ぶ。
「さて、お食事の準備は整っているかしら」
「もちろんでございます、奥様。上質なワインもご用意しております」
「そう、さすがね~。アルフレット様、ルースレアちゃん、今日は泊まっていって……?」
「しかし……」
「遠慮はいらんさ、アルフレット。今から帰るには日が沈みすぎているだろう?」
「うむ……言葉に甘えさせていただくか……。ルースレア、それでいいか?」
父に確認され少し戸惑う。お泊りなんて初めてだし、なにより今日はミューラを連れてきていない。着替えもないし、女性としては困ってしまう。そう考えていると誰かに手を握られ、顔を上げる。いつの間にか、近くにきていたダリアが手を握っていた。
「心配はいらないわ……、着替えは私のドレスを貸してあげる」
それは助かるのだが、思わずルースレアは視線を彼女の胸に移した。自分より確実に豊満な胸が視線を出迎える。
「あら、ふふふっ。心配はいらないわ」
ルースレアの言わんとすることが分かったダリアが上品な笑みを浮かべた。問題はないというかのような彼女の様子に、素直に甘えることにしてゆっくりと頷く。
「では、さっそく食事にしよう。シアン、ルースレア嬢をエスコートして差し上げなさい」
「はい」
ネイアスがダリアをエスコートして部屋を出ていく。アルフレットは少々複雑そうな表情でシアンを見たが、なにも言わずにネイアスたちに続いて部屋を出た。
「ルースレア嬢、行こうか……」
すっと手が差し出される。いつも父や兄がやる動作なのに、シアンがすると胸が高鳴るから不思議だ。
そっと彼の表情を伺うと少し眠そうなオッドアイがすっと目が細められる。
「緊張してるの?」
少しだけ、と小さく唇を動かす。
「そう……」
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