獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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結婚に向けて5

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 シアンに手を握られたままダイニングルームへ向かうと、先に席についていたダリアが頬に手を当て口を開いた。

「あら~、仲良しね」

 恥ずかしさにルースレアは俯く。父のアルフレットの視線もビシバシ感じるが、シアンの手を振りほどく気にはなれなかった。

「とりあえず、お腹も空いただろう。二人共、席に着きなさい」
「はい」

 執事が椅子を引いてくれると同時に繋がれた手がするりと離れる。それが寂しくて、思わず上目遣いでルースレアはシアンを見た。驚いたようにしなやかな尻尾を揺らした彼は、少し目を細めながら顔を彼女の耳元へ近づける。

「また後で、ね」

 低くどこか艷やかな響きをもった声に、瞬時にルースレアの頬が燃え上がるように熱を持った。

「んんっ、ごっほっん、んん!」

 突然わざとらしい咳払いがその場に響く。ルースレアは驚きに耳と尻尾をピンと跳ねさせ、その音の主に視線を向けた。咳払いをしたアルフレットはそっぽを向いている。
 どうやら娘に婚約者と目の前でいちゃつかれてご不満なようだ。
 慌てて椅子に座ると、いつの間にかシアンも席に着いたようだ。

「ははっ。面白いアルフレットも見れたことだし、晩餐をいただくとしよう」
「おい、どういう意味だ」
「そのままの意味だよ」

 珍しく尻尾の毛を逆立てて怒る父をまじまじと見ていると、食事が運ばれてくる。空腹を刺激するいい香りに、ルースレアの意識はすぐに父から逸れた。

「そうそう……。ルースレアちゃん」

 食事に夢中になっていると、不意にダリアから声を掛けられて顔を上げる。そして、首を傾げた。

「今晩の世話を任せるメイドを紹介しておくわ~」
「それは食事の後でもいいんじゃないかい?」
「だめよ~。眠くなるし、忘れちゃうもの」

 もうすでに眠そうな妻の姿にネイアスはそれ以上なにも言わなかった。話を戻すようにダリアがルースレアに青い瞳を向ける。

「それで~、えーと、そう。フランとメイリーを呼んで」

 執事が深く頭を下げ去っていき数分後、二人のメイドを連れて戻ってきた。背の高い赤髪の女性と、小柄でルースレアより若そうな金髪の少女だ。

「この子達には結婚後、あなたについてもらおうと思っているのよ……」
「はじめまして、ルースレア様。フランと申します。よろしくお願いします」
「は、はじめまして! えっと、メイリーです」

 はじめに赤髪の女性が、続いて金髪に少女が名乗る。ルースレアは挨拶の代わりに二人に微笑む。

「あなたたち、ルースレアちゃんのお部屋を整えておいてね。今晩泊まるから」
「はい、かしこまりました。メアリー、行きますよ」
「はい! し、失礼いたします」

 年齢的にもフランの方が立場が上なのだろう。メアリーは付き従うように去っていった。フランは少し雰囲気がミューラに似ていて、頼りになりそうだ。

「そういうことだから、安心して泊まっていってね、ルースレアちゃん」

 ありがとうございます、と唇を動かして、小さく頭を下げた。
 それから食事は和やかに進んだ。もちろんルースレアは食事を完食し、満足げに尻尾を動かす。

「二人は腹ごなしに庭でも散歩してきたらどうだい? 今日は暖かいし月が明るい」
「……はい、そうします。……よろしいですか? アルフレット様」
「ふん、好きにしなさい」

 ふてくされた様子ではあるが、アルフレットは許可を出す。だが、それと同時に執事に視線を送っていたので、付き添いさせるつもりなのだろう。さらさら二人きりにするつもりはないようだ。

「ルースレア嬢、手を」

 シアンが隣に来て手を差し出した。それに手を重ね、立ち上がるとネイアスとダリアに軽く礼をして一緒に庭へと出る。
 外はネイアスの言ったとおり温かく、月が煌々と輝いていて明るかった。

「うちはあまり花が咲いていないからつまらないかもしれないけど」

 ルシアンの言葉に庭を見回す。たしかに自分の屋敷より花は控えめのようだ。それでも生け垣などがきれいに手入れされていて、花とは違った清々しい緑の香りが気持ちよく感じる。

「あそこのベンチでゆっくりしようか」

 しばらく歩いたところでシアンがすっとベンチを指差す。それに同意して頷く。
 二人で並んで座ると、少し離れながらずっと着いてきていた執事が近づいてきた。

「シアン様、どうぞこれを」
「あぁ……、気が利くね。ありがとう」
「お褒めの言葉、ありがたく存じます」

 執事が持ってきていたのは薄いひざ掛けだ。暖かいとはいえ、座っていると少し寒いのでありがたかった。
 シアンがそれを広げて二人の足にかける。近い距離にドキドキしつつ、月を見上げた。

「きれいだね」

 一緒に月を見上げるシアンの言葉に静かに頷く。
 ルースレアはもちろんのこと、彼もおしゃべりでは無いため沈黙が続いた。でもそれは苦痛なものではなく、むしろ心地良いものだ。
 ただ静かに二人で月を見上げる。そんなささいなことなのに、ルースレアの胸は幸せな気持ちで満たされた。
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