30 / 54
結婚式1
しおりを挟む
忙しい日常はあっという間に過ぎ去っていった。
まだまだ先だと思っていた結婚式の当日、ルースレアは今までにないほど緊張で身を固くしていた。
「ルースレア様、ほら、深呼吸をしてください」
いつもの制服ではなく、落ち着いた色味のドレスを身にまとったミューラがゆっくりと背を擦ってくれる。
ルースレアはミューラの指示通りに深呼吸をして、改めて正面にある鏡に視線を移した。
鏡の中には真っ白なドレスを着て、華やかなメイクを施されたいつもとはまったく違う姿の自分が写っている。自分のために誂えられたドレスはいつの日か狐族の仕立て屋に依頼したものだ。
注文通り……いや、それ以上に美しいドレスは今日限りのもので、少しもったいなく感じてしまう。
「だいぶ落ち着かれたようですね」
ほっと安心したような様子のミューラに視線を移して、ルースレアは恥ずかしさに頬を染めた。結婚を迎えても彼女にはお世話になってばかりだ。
そして、きっとシアンの妻となってもお世話になるのだろう。そんなことを考えていると、外から大きな鐘の音が聞こえてきた。
「……シアン様が到着されたようですね」
そうミューラが呟くと同時に扉がノックされ、兄のクロウが顔を覗かせた。寂しさを全面に押し出したように、耳と尻尾を垂らす姿に、思わずルースレアは笑ってしまう。
結婚を認めてくれたのだが、かわいい妹と離れるのはどうしても寂しいらしい。
「クロウ様が馬車までエスコートを?」
「ああ……。父上と母上はもう玄関にいる」
ベスティア国では結婚のとき新郎が屋敷まで新婦を迎えに来る。花嫁は過ごしなれた自分の部屋で身支度を整えてそれを待ち、新郎が到着を知らせる鐘の音を待ちわびるのだ。
今回は異種族同士で距離の問題もあるため、ルースレアの支度はお見合いをした別邸で行われた。沢山過ごした部屋には昨日お別れを済ましてある。
鐘の音が余韻を残して消えていく。
新郎のもとまでは新婦の男親族がエスコートするしきたりだ。今回はそれをクロウが担当することになっていた。
「ルースレア……、とってもきれいだ。よく似合っているよ。さあ、行こうか」
クロウがすっと差し出した手をゆっくりと取り、エスコートされながら玄関へと向かう。後ろからはミューラがついてきている。
「おまたせしました」
「ルースレア……」
「ふふっ、とってもきれいよ」
玄関の扉をくぐり外に出るとまっさきに両親が声をかけてくれた。ルースレアはこみ上げてくる感情を落ち着けるようにゆっくりと息を吐き出す。
馬車は門の外に停まっているので、まだシアンの姿は見えなかった。
「たくさん言いたいことがあるが、今話し出すと止まらなくなりそうだから一つだけ。……おめでとう、ルースレア。お前は俺の自慢の妹だ。……幸せになれ。手紙、たくさん書くから……」
まっすぐにこちらを見つめるクロウが、いつものように甘く優しい笑みを浮かべた。見慣れた表情に思わず視界が滲む。それを察したのか、ミューラがそっとハンカチを差し出してくれた。
「ミューラ、これからも妹を頼むぞ」
「はい、もちろんです。お任せください」
「ああ、信頼している」
ミューラが微笑んでクロウに向かってしっかりと頭を下げた。ルースレアは背の高い兄を見上げて、ゆっくりと今までの感謝を伝える。それに兄は深く頷いて返事をしてくれた。
兄から離れ、ルースレアは両親に向き直る。すると、待っていたかのように父のアルフレットが口を開いた。
「ルースレア。これからもお前は私の大切な娘だ。困ったときはいつでも私を頼りなさい」
アルフレットがルースレアの両肩に手を添えてそう言った。華奢な彼女の肩をすっぽりと覆うほど立派な手はに寂しさを感じながら、しっかりと頷いた。
大きな手が離れ今度は母のアリアに顔を向ける。
「……今までよく頑張ったわね。もう教えることはなにもないくらい、貴方は立派な淑女よ」
結婚に備えて行われた厳しい母のレッスン。日が進むにつれて少なくなった注意。厳しすぎると思ったこともあったが、それが自分のためだと分かっていたから頑張れた。
最後に母の合格を貰えて嬉しくなる。
「ルースレア。自信をもちなさい。どんなときも俯いてはだめよ。……決して笑顔を忘れないで」
アリアの細い指が頬に触れる。微笑む母の瞳から涙が流れ、ルースレアはきゅっと唇を噛み締めた。
母の涙を見たのは初めてだった。揺れる視界をハンカチでそっと拭って、ルースレアは満面の笑みを浮かべる。
アリアがそれを見て少し驚いたような表情を浮かべ、ぎゅっと抱きしめてきた。
「そう。それでいいのよ、ルースレア。……幸せになりなさい」
耳元で囁かれた言葉にとうとう耐えきれず涙を流しながら、ルースレアはぎゅっと母を抱きしめ返したのだった。
まだまだ先だと思っていた結婚式の当日、ルースレアは今までにないほど緊張で身を固くしていた。
「ルースレア様、ほら、深呼吸をしてください」
いつもの制服ではなく、落ち着いた色味のドレスを身にまとったミューラがゆっくりと背を擦ってくれる。
ルースレアはミューラの指示通りに深呼吸をして、改めて正面にある鏡に視線を移した。
鏡の中には真っ白なドレスを着て、華やかなメイクを施されたいつもとはまったく違う姿の自分が写っている。自分のために誂えられたドレスはいつの日か狐族の仕立て屋に依頼したものだ。
注文通り……いや、それ以上に美しいドレスは今日限りのもので、少しもったいなく感じてしまう。
「だいぶ落ち着かれたようですね」
ほっと安心したような様子のミューラに視線を移して、ルースレアは恥ずかしさに頬を染めた。結婚を迎えても彼女にはお世話になってばかりだ。
そして、きっとシアンの妻となってもお世話になるのだろう。そんなことを考えていると、外から大きな鐘の音が聞こえてきた。
「……シアン様が到着されたようですね」
そうミューラが呟くと同時に扉がノックされ、兄のクロウが顔を覗かせた。寂しさを全面に押し出したように、耳と尻尾を垂らす姿に、思わずルースレアは笑ってしまう。
結婚を認めてくれたのだが、かわいい妹と離れるのはどうしても寂しいらしい。
「クロウ様が馬車までエスコートを?」
「ああ……。父上と母上はもう玄関にいる」
ベスティア国では結婚のとき新郎が屋敷まで新婦を迎えに来る。花嫁は過ごしなれた自分の部屋で身支度を整えてそれを待ち、新郎が到着を知らせる鐘の音を待ちわびるのだ。
今回は異種族同士で距離の問題もあるため、ルースレアの支度はお見合いをした別邸で行われた。沢山過ごした部屋には昨日お別れを済ましてある。
鐘の音が余韻を残して消えていく。
新郎のもとまでは新婦の男親族がエスコートするしきたりだ。今回はそれをクロウが担当することになっていた。
「ルースレア……、とってもきれいだ。よく似合っているよ。さあ、行こうか」
クロウがすっと差し出した手をゆっくりと取り、エスコートされながら玄関へと向かう。後ろからはミューラがついてきている。
「おまたせしました」
「ルースレア……」
「ふふっ、とってもきれいよ」
玄関の扉をくぐり外に出るとまっさきに両親が声をかけてくれた。ルースレアはこみ上げてくる感情を落ち着けるようにゆっくりと息を吐き出す。
馬車は門の外に停まっているので、まだシアンの姿は見えなかった。
「たくさん言いたいことがあるが、今話し出すと止まらなくなりそうだから一つだけ。……おめでとう、ルースレア。お前は俺の自慢の妹だ。……幸せになれ。手紙、たくさん書くから……」
まっすぐにこちらを見つめるクロウが、いつものように甘く優しい笑みを浮かべた。見慣れた表情に思わず視界が滲む。それを察したのか、ミューラがそっとハンカチを差し出してくれた。
「ミューラ、これからも妹を頼むぞ」
「はい、もちろんです。お任せください」
「ああ、信頼している」
ミューラが微笑んでクロウに向かってしっかりと頭を下げた。ルースレアは背の高い兄を見上げて、ゆっくりと今までの感謝を伝える。それに兄は深く頷いて返事をしてくれた。
兄から離れ、ルースレアは両親に向き直る。すると、待っていたかのように父のアルフレットが口を開いた。
「ルースレア。これからもお前は私の大切な娘だ。困ったときはいつでも私を頼りなさい」
アルフレットがルースレアの両肩に手を添えてそう言った。華奢な彼女の肩をすっぽりと覆うほど立派な手はに寂しさを感じながら、しっかりと頷いた。
大きな手が離れ今度は母のアリアに顔を向ける。
「……今までよく頑張ったわね。もう教えることはなにもないくらい、貴方は立派な淑女よ」
結婚に備えて行われた厳しい母のレッスン。日が進むにつれて少なくなった注意。厳しすぎると思ったこともあったが、それが自分のためだと分かっていたから頑張れた。
最後に母の合格を貰えて嬉しくなる。
「ルースレア。自信をもちなさい。どんなときも俯いてはだめよ。……決して笑顔を忘れないで」
アリアの細い指が頬に触れる。微笑む母の瞳から涙が流れ、ルースレアはきゅっと唇を噛み締めた。
母の涙を見たのは初めてだった。揺れる視界をハンカチでそっと拭って、ルースレアは満面の笑みを浮かべる。
アリアがそれを見て少し驚いたような表情を浮かべ、ぎゅっと抱きしめてきた。
「そう。それでいいのよ、ルースレア。……幸せになりなさい」
耳元で囁かれた言葉にとうとう耐えきれず涙を流しながら、ルースレアはぎゅっと母を抱きしめ返したのだった。
1
あなたにおすすめの小説
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
【完結】契約結婚のはずが、冷酷な公爵の独占欲が強すぎる!?
22時完結
恋愛
失われた信頼を取り戻し、心の壁を崩していく二人の関係。彼の過去に迫る秘密と、激しく交錯する感情の中で、愛を信じられなくなった彼は、徐々にエリーナに心を開いていく。
獣人族の彼にマタタビを渡したところ、キャラが崩壊しました。
piyo
恋愛
人間族のルル・クーガーは文化祭の景品でマタタビを手に入れる。使い所が無いそれを、同じクラスの獣人族グエン・イエルが偶然にも摂取してしまい、その後のイエルの態度が急変する。
ええと、あなたは本当にあのイエル君ですか?
獣人族の彼が、好きな子にニャンニャンする話です。
※他サイトにも投稿
男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~
百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。
放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!?
大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる