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病の治療薬3
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「それでは、今度はこのお薬についてです」
丸薬の入った小瓶のふたを指でなぞりながらファルが説明を始めた。
「こちらは特殊な薬草を用いて調薬したものになります。効果としては不足したホルモンを補うものです」
話ながらファルがテーブルの引き出しからなにかを取り出した。どうやら乾燥した植物のようだ。二種類あって白色の花と黄色の花のものがある。
「これは日月草というものです。朝に咲くと花弁が白色に、夜に咲くと黄色になるという性質があります」
別々のものだと思っていたが、どうやら一つの同じ薬草らしい。それにしても咲く時間帯によって花弁の色が変わるとは不思議だ。
「この薬草の成分を詳しく調べたところ、白い花は人族の、黄色い花は獣族のホルモンに近い働きをしてくれることが分かりました」
薬草についてはまったく知識がないが、そんな凄いものがあるのかと感心する。
「日月草を中心に数種類の薬草を組み合わせ完成したのがこの丸薬です。日月草の働きを増長する薬草や胃を保護する成分をもつ薬草などを混ぜてあります。これを飲めば不足しているホルモンの代わりを薬がしてくれ、症状が改善します」
丸薬に視線を移す。これを飲めば獣族返りの症状が落ち着き、声も出せるようになる。
そわそわと落ち着かない気持ちを表すかのように、ルースレアのくるんと巻いた尻尾が揺れた。
「とはいえいきなりこの薬を投薬するわけにはまいりません。奥様に合わなければ、より症状が重くなったり、別の症状が出たりすることがありますから」
「……そのためにまずは検査から、ということらしい。採血するらしいけど大丈夫……?」
心配そうなシアンにルースレアは大丈夫だと伝える。それよりももし薬が合わなかったら……それを考える方が恐ろしかった。
「……大丈夫ですよ。もしこの薬が合わなくても、必ず僕が新しいものを調薬します。だから、安心してください」
ファルが優しく笑う。彼の言葉が頼もしくて、ルースレアは何度も頷いた。
大丈夫。ファルもこう言ってくれているし、シアンだって獣族返りの自分をそのまま受け止めてくれている。
そう気持ちをなだめて、彼女もゆっくりと笑みを浮かべた。
「……では、検査ですが……」
「ただいま戻りました」
ファルの言葉を遮るように温室に人が入ってくる。ルースレアよりいくつか年下に見える小柄な女性だ。フードをかぶった女性は手に持った籠の中身を確認しながら歩いていて、まだこちらに気づいていないようだった。
「ミリア、シアン様と奥様がいらしているんだ」
「し、失礼いたしました! 奥さま、お初にお目にかかります。私はミリアと申します。ファル様の助手をしています」
慌てた様子でミリアがスカートを摘んで挨拶をする。それからすぐに籠を隅に置くとファルの後ろへと控えた。
「ちょうどよかった。こちらのミリアが奥様の検査をいたします」
「……ミリア、フードを外してもらってもいいかな?」
「は、はい、旦那さま」
少し緊張した表情を浮かべながら彼女がフードを外す。柔らかそうな黒髪が現れるが、そこにルースレアたちのような耳は無かった。そういえばとミリアのお尻の辺りに視線を移す。尻尾も無いようだ。
獣人といえど種族は様々だ。もちろん耳や尾のない者もいる。だが、代わりに翼や角といった獣族の名残があるものだ。彼女にはそれらは一切見当たらない。
「わ、私は人族返りなのです。ファル様に保護していただき、今は助手としてお仕えしております」
ルースレアが自分以外の病持ちに会うのは初めてだった。思わずまじまじと見つめると、手や顔などに薄く古い傷跡が見て取れた。きっと辛いことも多かったことだろう。
領主の娘で家族が優しかった自分はものすごく恵まれていたのだと改めて実感する。そして、それがなんだかミリアに対して後ろめたく感じてしまった。
耳も尻尾も力なく垂らして暗い顔のまま俯いたルースレアにミリアがゆっくりと近づき、そして膝をついてとても優しい声で語りかける。
「奥さま。私はとても恵まれています。こうしてファル様に助けていただいて、旦那さまに住む場所を用意していただいて……そして、こんなにも優しい奥さまにも出会えた。……辛いと思うことは人それぞれです。奥さまだって沢山辛いことがあったはずです。だから、どうかそんな顔をなさらないでください」
ミリアは笑っていた。ぐっと胸が詰まる感覚がしてルースレアはくしゃりと顔をゆがめる。
「それに、奥さまにしかできないことがあります。……どうか、これから先、私たちのような病の者を救ってほしいのです」
その言葉に顔を上げた。
今回の結婚が上手くいけば他種族同士の婚姻も増え、病に苦しむ人が少なるかもしれない。
それに表舞台に出ることの多い領主の妻という立場は、病の症状が薬によって改善すると知らしめるのに利用できる。
丸薬の入った小瓶のふたを指でなぞりながらファルが説明を始めた。
「こちらは特殊な薬草を用いて調薬したものになります。効果としては不足したホルモンを補うものです」
話ながらファルがテーブルの引き出しからなにかを取り出した。どうやら乾燥した植物のようだ。二種類あって白色の花と黄色の花のものがある。
「これは日月草というものです。朝に咲くと花弁が白色に、夜に咲くと黄色になるという性質があります」
別々のものだと思っていたが、どうやら一つの同じ薬草らしい。それにしても咲く時間帯によって花弁の色が変わるとは不思議だ。
「この薬草の成分を詳しく調べたところ、白い花は人族の、黄色い花は獣族のホルモンに近い働きをしてくれることが分かりました」
薬草についてはまったく知識がないが、そんな凄いものがあるのかと感心する。
「日月草を中心に数種類の薬草を組み合わせ完成したのがこの丸薬です。日月草の働きを増長する薬草や胃を保護する成分をもつ薬草などを混ぜてあります。これを飲めば不足しているホルモンの代わりを薬がしてくれ、症状が改善します」
丸薬に視線を移す。これを飲めば獣族返りの症状が落ち着き、声も出せるようになる。
そわそわと落ち着かない気持ちを表すかのように、ルースレアのくるんと巻いた尻尾が揺れた。
「とはいえいきなりこの薬を投薬するわけにはまいりません。奥様に合わなければ、より症状が重くなったり、別の症状が出たりすることがありますから」
「……そのためにまずは検査から、ということらしい。採血するらしいけど大丈夫……?」
心配そうなシアンにルースレアは大丈夫だと伝える。それよりももし薬が合わなかったら……それを考える方が恐ろしかった。
「……大丈夫ですよ。もしこの薬が合わなくても、必ず僕が新しいものを調薬します。だから、安心してください」
ファルが優しく笑う。彼の言葉が頼もしくて、ルースレアは何度も頷いた。
大丈夫。ファルもこう言ってくれているし、シアンだって獣族返りの自分をそのまま受け止めてくれている。
そう気持ちをなだめて、彼女もゆっくりと笑みを浮かべた。
「……では、検査ですが……」
「ただいま戻りました」
ファルの言葉を遮るように温室に人が入ってくる。ルースレアよりいくつか年下に見える小柄な女性だ。フードをかぶった女性は手に持った籠の中身を確認しながら歩いていて、まだこちらに気づいていないようだった。
「ミリア、シアン様と奥様がいらしているんだ」
「し、失礼いたしました! 奥さま、お初にお目にかかります。私はミリアと申します。ファル様の助手をしています」
慌てた様子でミリアがスカートを摘んで挨拶をする。それからすぐに籠を隅に置くとファルの後ろへと控えた。
「ちょうどよかった。こちらのミリアが奥様の検査をいたします」
「……ミリア、フードを外してもらってもいいかな?」
「は、はい、旦那さま」
少し緊張した表情を浮かべながら彼女がフードを外す。柔らかそうな黒髪が現れるが、そこにルースレアたちのような耳は無かった。そういえばとミリアのお尻の辺りに視線を移す。尻尾も無いようだ。
獣人といえど種族は様々だ。もちろん耳や尾のない者もいる。だが、代わりに翼や角といった獣族の名残があるものだ。彼女にはそれらは一切見当たらない。
「わ、私は人族返りなのです。ファル様に保護していただき、今は助手としてお仕えしております」
ルースレアが自分以外の病持ちに会うのは初めてだった。思わずまじまじと見つめると、手や顔などに薄く古い傷跡が見て取れた。きっと辛いことも多かったことだろう。
領主の娘で家族が優しかった自分はものすごく恵まれていたのだと改めて実感する。そして、それがなんだかミリアに対して後ろめたく感じてしまった。
耳も尻尾も力なく垂らして暗い顔のまま俯いたルースレアにミリアがゆっくりと近づき、そして膝をついてとても優しい声で語りかける。
「奥さま。私はとても恵まれています。こうしてファル様に助けていただいて、旦那さまに住む場所を用意していただいて……そして、こんなにも優しい奥さまにも出会えた。……辛いと思うことは人それぞれです。奥さまだって沢山辛いことがあったはずです。だから、どうかそんな顔をなさらないでください」
ミリアは笑っていた。ぐっと胸が詰まる感覚がしてルースレアはくしゃりと顔をゆがめる。
「それに、奥さまにしかできないことがあります。……どうか、これから先、私たちのような病の者を救ってほしいのです」
その言葉に顔を上げた。
今回の結婚が上手くいけば他種族同士の婚姻も増え、病に苦しむ人が少なるかもしれない。
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