獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

文字の大きさ
36 / 54

病の治療薬4

しおりを挟む
 自分にもできることは沢山あるのだ。今まで恵まれていた分、苦しむ人たちを助けてあげたい。寄り添ってあげたい。
 そんな思いが胸の苦しみを取り除いていく。伏せられていた顔や耳はピンと立ち上がり、彼女の決意を表していた。

「……ルースレア……」

 心配そうなシアンの声が頭上から降り注ぐ。後ろを振り返って力強く頷けば、彼は笑みを返してくれた。

「……ファル。検査はどうやるの?」
「はい、ミリアの魔法を使います」
「私の魔法で奥さまの検査をするには、針で指先を刺して血を出す必要があるのですが……大丈夫でしょうか?」

 ミリアの問いに大丈夫だと伝えるように、手を差し出した。その程度のことなら特に問題ない。針程度なら傷が残ることもないだろう。

「ありがとうございます。ファル様、準備は大丈夫でしょうか?」
「うん、これにお願いね」

 ファルが薄黄色の紙を取り出した。あまり丈夫そうでなく少し乱暴に扱えば破れてしまいそうだ。
 じっと見つめていたからからファルが説明してくれた。

「これはストロウ草を煮詰めて繊維を取り出し固めた紙です。検査結果は燃やしてしまいますので、羊皮紙などの高価な紙は使いません。それでは、ミリアお願いします」
「はい。まずは消毒をして……」

 差し出した指先と針に消毒が施される。それからミリアが針をルースレアの指に突き刺した。
 鋭い痛みが一瞬走り、赤い血がぷっくりと出てくる。

「では、参ります。〝血液分析ブラッドアナリシス〟」

 人族返りであるミリアが魔法を使用した。
 ふわりとルースレアの指先から血が浮き上がり小さな文字や数字の列となって、ファルの持つ紙へと吸い込まれていく。
 その不思議な光景を呆然と見つめていると、程なくしてミリアは魔法を解除した。どうやら魔法による検査は終わったらしい。

「……うん。やっぱり人族ホルモンがほとんど分泌されてないようです。それに薬に含まれる成分に対して問題が起こりそうなこともなさそうですね。これなら調薬した薬で大丈夫でしょう」

 ファルの言葉にほっと胸を撫で下ろす。
 針を刺した指先はミリアが手早く手当てをしてくれた。

「適量は三粒ですね。基本的には二粒ですが、奥様は犬族領主の血筋で、強い力をお持ちですからその分多めの方が安定しそうです」
「先生、本日から服用をお願いするのですか?」
「うーん、そうだねぇ。……ひとまず一粒づつで様子を見ましょう。薬に対して体が思わぬ反応をしてしまうこともゼロではありませんし。問題なければ薬を増やします」

 検査結果の書かれた紙を見ながらファルが細かく決めていく。

「毎朝、私が体調を確認しに参ります。一週間後にもう一度検査し、問題がなければ次は二粒……三粒と増やします。三粒になったところで、発声練習も始めましょう」

 説明を聞きながらそっと自身の喉に触れた。声を出せるようになるか楽しみであると同時に不安も感じる。

「……最初はおそらくすぐに声は出ないし、話すまでは時間がかかります。慌てずゆっくり進めましょう。シアン様も奥様を支えてあげてくださいね」
「もちろんだよ。……いつでも頼りにしてね。つらくなったらたっぷり甘やかしてあげるよ」

 シアンの甘やかな声に一瞬にして頬に熱が集まった。恥ずかしいと思いながらも前をみればミリアも頬が赤くなっているし、なんならファルもちょっと赤らめている。
 彼の破壊力はとてつもないとルースレアはちょっと冷静になった。シアンに甘やかされると思考が溶かされてなにもできなくなりそうなので、最終手段にしようとひっそりと誓う。

「さて、こちらは燃やしてしまいましょう」
「……検査結果を燃やしてしまって大丈夫なの?」
「ええ、シアン様。必要なことは分かりましたし、内容もすべて僕が記憶してますので問題ありません。研究にかかわりますし、奥様の個人的な情報になりますから残さないほうがよいのです」
「前に一度、荒らされたこともありますから」

 シアンの研究をよく思わないものもいるし、逆に自分の手柄にしようとするものもいる。今回はルースレアの情報も含まれているため、もしものときを考え残さない判断をしたようだ。

「それでは本日はこれでおしまいです。シアン様や奥様は気になることはありますか?」
「僕はないよ。ルースレアは?」

 自分も特に聞きたいことはない、と首を横に振る。もしなにかあればまたファルに聞けばいいだろう。

「承知しました。それでは、こちらのお薬をさっそく飲みましょう。なにか体調に変化があればすぐにお呼びください」

 瓶からころりと丸薬を一粒取り出す。ミリアが持ってきてくれた水と共にゴクリと飲み込んだ。
 初めて飲んだ薬はほんのりと苦い味がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

【完結】契約結婚のはずが、冷酷な公爵の独占欲が強すぎる!?

22時完結
恋愛
失われた信頼を取り戻し、心の壁を崩していく二人の関係。彼の過去に迫る秘密と、激しく交錯する感情の中で、愛を信じられなくなった彼は、徐々にエリーナに心を開いていく。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

獣人族の彼にマタタビを渡したところ、キャラが崩壊しました。

piyo
恋愛
人間族のルル・クーガーは文化祭の景品でマタタビを手に入れる。使い所が無いそれを、同じクラスの獣人族グエン・イエルが偶然にも摂取してしまい、その後のイエルの態度が急変する。 ええと、あなたは本当にあのイエル君ですか? 獣人族の彼が、好きな子にニャンニャンする話です。 ※他サイトにも投稿

男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~

百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。 放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!? 大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

処理中です...