獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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病の治療薬5

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 ファルの調薬した薬を飲み始めて一週間ほど経ち丸薬の数が二粒に増えた頃、シアンとルースレアのもとに一通の招待状が届いた。

「……一週間後にルナシーク殿下主催の夜会が行なわれるから、夫婦で参加しろって書いてあるね……」

 招待状に目を通したシアンが内容を教えてくれた。
 目的はおそらく王家の仲介にて結婚したシアンとルースレアのお披露目だろう。他種族との結婚や獣族返りを王家が認めたのだと大々的に周知させるのだ。

「ルースレアは、夜会苦手だよね。大丈夫……?」

 心配そうに隣に座るシアンが顔を覗き込んでくる。
 一度行ったきりずっと参加を避けてきた。領主の娘ではあったが特に強制されるような立場でもなかったので今までは問題はなかったが、これからはそうもいかない。猫族の領主の妻となったいま、王家の招待を断ることなど許されないし、ルースレアも甘える気はないのだ。

『大丈夫です』
「……もう少しあとなら……薬の効果も出たかもしれないのに」

 せめて話せるようになっていれば。
 だが、もともと婚約したときは病が治るとは思っていなかった。
 今の自分のままでシアンの隣に立って生きていくと、そう決意していた。母だってそのために厳しくレッスンをしてくれたのだからきっと大丈夫だと自分に言い聞かせる。

「僕がずっと側にいることはできないし、ミューラたちも中には入れないけど……本当に大丈夫?」

 大きな手で少し震える手を包みこまれた。もちろん不安はある。でも決意が揺らぐことはない。
 ルースレアは安心させるように、少し微笑みながらしっかり頷いた。

「……ん、ルースレアの決意は伝わったよ。ありがとう」

 甘えるようにシアンが肩のあたりに頭を擦り付けてくる。ふわふわの耳が頬に当たって少しくすぐったさを感じつつ、優しく彼の頭を撫でた。

「衣装はなににしようかな。……一週間じゃ新しく作るのは間に合わないし……。ねえ、ミューラ。なにかよさそうな衣装はある?」

 給仕をしていたミューラが手を止め、少し考える素振りを見せる。
 そういえばルースレアの持ってきたドレスは簡素なものが多く、夜会などに向かないことを思い出した。慌てる主人を尻目にミューラは至って冷静に口を開く。

「一着……ルースレアのお母様よりお受け取りしたものがございます。黒色のドレスなのでシアン様とも合わせたコーディネートができるかと」
「そうなんだ。じゃあ、当日の衣装はミューラに任せるよ。フランとメイリーも手伝ってあげてね」
「かしこまりました」
「は、はい!」

 ルースレアの肩から膝へと移動したシアンが適当に話を終わらせて手を振る。退室しろという意味をくみ取ってミューラたちは深く一礼をして部屋を出ていった。

「……疲れたな」

 結婚してから領主の仕事でバタバタと忙しい日々を過ごしている。ルースレアもダリアから猫族内の孤児院などの慈善事業の運営を教わったり、シアンの仕事を手伝ったりしているが、彼の仕事量はそれよりも多い。

「ルースレア、耳のあたり撫でて」

 シアンの要望通りに彼の耳元を指先でかりかりと撫でる。気持ちいいのか、ゴロゴロという喉を鳴らす音が聞こえてきた。
 ずっとシアンとこんなふうに穏やかに過ごしていきたい。

「ごめんね、ルースレア」

 突然の謝罪にどきりとする。ぱちりと目が合った彼は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
 どうしたのかと問いかければ、シアンはルースレアの頬を指先で撫でながら口を開く。

「……ハゲ……違う、デブ……じゃなくて、ドルズのこと」

 さらっとドルズを貶した言葉を言った気がする。そこをあえて聞き直す必要もないので流して、彼の言った人物を思い浮かべた。
 ルースレアが初めてドルズに会ったのは結婚式から二日目のことだった。そして来た目的がなにかといえばシアンに第二夫人を娶るようにいいにきたのだ。ずいぶんと気合の入った枚数の肖像画を持ち込んで。
 ドルズが自分のことを気に入らないのは一目瞭然で、それも仕方ないかと思っている。病持ちで他種族である以上、認めない者が出るのは当たり前だと思うからだ。
 しかしそれでも、結婚したばかりの妻の前で他の女性を紹介されるのは辛い。
 だが、シアンが謝ることではないと思うので、ゆるく首を横に振った。

「……母さんに釘を刺されたのによくやるよ」

 おっとりとしたいつも眠たげなダリアが釘を刺す様子は想像できないが、シアンの言い方からすると本当は怖い人なのかもしれない。

「……僕は……僕はルースレア以外の女性に興味すらない。妻は一人いれば十分だよ」

 柔らかく微笑みながらシアンは断言する。まっすぐに自分を思ってくれているのが分かって嬉しくなった。
 そしてその気持ちに背中を押されるように、ルースレアは初めて自分からシアンに口づけを落としたのだった。
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