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治療薬の効果と悪意の夜会5
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「この度は夜会へのご招待ありがとうございます」
落ち着いた色合いのドレスを掴み優雅に礼をする。
ルースレアとシアンの前に立つのは招待状の送り主であるビアンナだ。
彼女は表面上は笑みを浮かべているものの、黄金の瞳は鋭い光を宿していた。
「まあ! ルースレア様はお声が出るようになったのですね。よかったですわ!」
「ありがとうございます、ビアンナ様」
母に習った通りに完璧な笑顔で対応する。隙を見せずに凛とした姿でいるのは少しばかり大変だが、前回の王城での夜会のように揉め事のようなことにはなりたくない。
「猫族の領地からですと、さぞ遠かったことでしょう? 最大のおもてなしをさせていただきますので、どうぞごゆっくりなさって」
きらびやかな会場に美味しそうな料理の数々。王城で行われた夜会に引けを取らないほど豪華な夜会である。
それとなく会場を見回すと招待客は虎族や豹族が多いようだ。
「わたくし、ルースレア様に失礼なことをしてしまったと反省しておりましたの」
「反省?」
「ええ。夜会では本当にごめんなさい。ちょっと気に入らないことがあって、子供じみた嫌がらせをしてしまったと思っておりましたの」
「……子供じみた嫌がらせ、ね」
それまで黙っていたシアンがポツリと呟く。どこかピリッとした雰囲気をまとっている彼に、ビアンナは少し焦っているように見えた。
「……本当に反省しましたのよ。だから、こうして謝罪の意を込めて夜会を催しました。それだけではありません、実は父にお願いして金と銀の交易品を猫族の領地に優先して下ろすようにしてもらいましたの」
「金と銀を?」
「ええ。シアン様の領地では宝石産業がメインと聞きました。しかし、装飾品に使われる金と銀が取れる鉱山がないと伺いましたので、喜んでいただけるかと思いまして」
「……たしかに金銀は他種族か交易品でまかなっているけど……」
「わたくし、ルースレア様と仲良くなりたいと思いましたの。だから精一杯誠意を見せて……」
「必要ない」
「え?」
「ルースレアが君と仲良くなる必要はないと言ったんだよ」
魅力的な提案にもかかわらず、シアンははっきりと言い切った。ルースレアがそのことに驚いていると、彼は今まで見たこともないような冷たい瞳をビアンナに向けている。
「……反省したというのなら今後一切関わろうとしないで。それを言いに来たんだ」
「シアン様……」
「ごめんね、ルースレア。君は優しいから許してあげそうだけど……僕は駄目だ」
ビアンナのことは好きになれそうにはない。だが、猫族の……シアンのためになるなら夜会でのことは忘れようと思っていた。もしルースレア一人で先ほどの提案を受けていれば、悩むこともなく許していただろう。
シアンはそんな彼女の性格をよくわかった上で、どれだけいい提案であろうと嫌な相手と付き合う必要はないと言い切ったのだ。
ルースレアを守るために。そのことが嬉しくて、思わず尻尾を左右に動かしていた。
「……そうですの。……残念ですわ」
すっと表情が抜け落ちたビアンナに、ビクリと肩が震える。なんだか嫌な予感がして、耳が警戒するように動く。
「まあ、いいですわ。もともと仲良くなんてなるつもりはありませんもの」
赤い口紅が引かれた唇がゆっくりと捲りあがり、鋭い歯が見える。怒りを前面に出した表情に、思わず一歩下がると同時にシアンが前に出た。
「……なにかするつもり?」
「大丈夫ですわ。危害を加えたりしません。……シアン様には」
バシャッとなにかが床に撒かれるような音が響き、直後会場に煙が充満する。甘ったるい匂いにくらりとめまいがした。
「ルースレア!」
「シアン、様……」
「あははっ! さすがご自慢の鼻ですわね! シアン様より先に効果がでるなんて!」
なにが起こっているのか分からない。隣にいるシアンだけでも逃げてほしくて、力が入らない手で体を押すが彼は一歩も動かなかった。
煙で視界の悪い中、ぐるりと二人を取り囲むような影が現れる。
「これ、虎族や豹族にはほとんど効果がないんですの。シアン様にも効きが悪いようですが、この人数相手に丸腰でどうにかできませんでしょう?」
「……シ、アン、様……逃げ……」
「そのお願いは聞けない、ごめんね、ルースレア」
「本当に気に食わない女。……まあ、いいわ。どうせもうすぐいなくなるんですから」
憎々しげに話すビアンナの声がゆっくり遠のいていく。
「シアン様はわたくしが貰ってあげますわ」
そんな言葉を最後にルースレアの意識は真っ黒に塗りつぶされたのだった。
落ち着いた色合いのドレスを掴み優雅に礼をする。
ルースレアとシアンの前に立つのは招待状の送り主であるビアンナだ。
彼女は表面上は笑みを浮かべているものの、黄金の瞳は鋭い光を宿していた。
「まあ! ルースレア様はお声が出るようになったのですね。よかったですわ!」
「ありがとうございます、ビアンナ様」
母に習った通りに完璧な笑顔で対応する。隙を見せずに凛とした姿でいるのは少しばかり大変だが、前回の王城での夜会のように揉め事のようなことにはなりたくない。
「猫族の領地からですと、さぞ遠かったことでしょう? 最大のおもてなしをさせていただきますので、どうぞごゆっくりなさって」
きらびやかな会場に美味しそうな料理の数々。王城で行われた夜会に引けを取らないほど豪華な夜会である。
それとなく会場を見回すと招待客は虎族や豹族が多いようだ。
「わたくし、ルースレア様に失礼なことをしてしまったと反省しておりましたの」
「反省?」
「ええ。夜会では本当にごめんなさい。ちょっと気に入らないことがあって、子供じみた嫌がらせをしてしまったと思っておりましたの」
「……子供じみた嫌がらせ、ね」
それまで黙っていたシアンがポツリと呟く。どこかピリッとした雰囲気をまとっている彼に、ビアンナは少し焦っているように見えた。
「……本当に反省しましたのよ。だから、こうして謝罪の意を込めて夜会を催しました。それだけではありません、実は父にお願いして金と銀の交易品を猫族の領地に優先して下ろすようにしてもらいましたの」
「金と銀を?」
「ええ。シアン様の領地では宝石産業がメインと聞きました。しかし、装飾品に使われる金と銀が取れる鉱山がないと伺いましたので、喜んでいただけるかと思いまして」
「……たしかに金銀は他種族か交易品でまかなっているけど……」
「わたくし、ルースレア様と仲良くなりたいと思いましたの。だから精一杯誠意を見せて……」
「必要ない」
「え?」
「ルースレアが君と仲良くなる必要はないと言ったんだよ」
魅力的な提案にもかかわらず、シアンははっきりと言い切った。ルースレアがそのことに驚いていると、彼は今まで見たこともないような冷たい瞳をビアンナに向けている。
「……反省したというのなら今後一切関わろうとしないで。それを言いに来たんだ」
「シアン様……」
「ごめんね、ルースレア。君は優しいから許してあげそうだけど……僕は駄目だ」
ビアンナのことは好きになれそうにはない。だが、猫族の……シアンのためになるなら夜会でのことは忘れようと思っていた。もしルースレア一人で先ほどの提案を受けていれば、悩むこともなく許していただろう。
シアンはそんな彼女の性格をよくわかった上で、どれだけいい提案であろうと嫌な相手と付き合う必要はないと言い切ったのだ。
ルースレアを守るために。そのことが嬉しくて、思わず尻尾を左右に動かしていた。
「……そうですの。……残念ですわ」
すっと表情が抜け落ちたビアンナに、ビクリと肩が震える。なんだか嫌な予感がして、耳が警戒するように動く。
「まあ、いいですわ。もともと仲良くなんてなるつもりはありませんもの」
赤い口紅が引かれた唇がゆっくりと捲りあがり、鋭い歯が見える。怒りを前面に出した表情に、思わず一歩下がると同時にシアンが前に出た。
「……なにかするつもり?」
「大丈夫ですわ。危害を加えたりしません。……シアン様には」
バシャッとなにかが床に撒かれるような音が響き、直後会場に煙が充満する。甘ったるい匂いにくらりとめまいがした。
「ルースレア!」
「シアン、様……」
「あははっ! さすがご自慢の鼻ですわね! シアン様より先に効果がでるなんて!」
なにが起こっているのか分からない。隣にいるシアンだけでも逃げてほしくて、力が入らない手で体を押すが彼は一歩も動かなかった。
煙で視界の悪い中、ぐるりと二人を取り囲むような影が現れる。
「これ、虎族や豹族にはほとんど効果がないんですの。シアン様にも効きが悪いようですが、この人数相手に丸腰でどうにかできませんでしょう?」
「……シ、アン、様……逃げ……」
「そのお願いは聞けない、ごめんね、ルースレア」
「本当に気に食わない女。……まあ、いいわ。どうせもうすぐいなくなるんですから」
憎々しげに話すビアンナの声がゆっくり遠のいていく。
「シアン様はわたくしが貰ってあげますわ」
そんな言葉を最後にルースレアの意識は真っ黒に塗りつぶされたのだった。
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