獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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落ちる虎と猫2

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 虎族の領主の屋敷には地下へと続く秘密の扉が存在する。
 ビアンナは眠らせたルースレアとシアン、そしてその二人を担ぐ男たちとともに、その扉を使い地下へ続く長い階段を降りていった。

「……言われた通り、捕まえてきましたわよ」
「お疲れ様です、お嬢様。無事に終わったようでなによりです」

 いくつもの檻が並んだ薄暗い地下室で待っていた片翼の男……ザヴァンが満足そうな笑みを浮かべた。

「傷はつけていませんね?」
「安心しなさい。言われた通り眠らせただけよ」
「それはよかった。大切な商品ですからね。……この檻へ入れてください」

 ザヴァンが一つの檻を指定する。乱雑に並んでいる他の檻とは違い綺麗に整えられている。

「ずいぶんといい檻を用意したのね。中に絨毯まで敷いて」
「領主の娘となると他の者より価値が高い高級商品ですからね。一族で一番強く濃い血を継いだ獣族返りは希少なんです。見目も悪くないですし」
「ふぅん」

 眠ったまま目覚める様子のないルースレアが丁寧に檻に入れられた。
 それを見ていたビアンナはもう一つ似たような檻があるのに気づく。この女以外に領主の親族に病持ちなんていなかったはず……と考えていると、その檻の中にシアンが入れられ表情を険しくする。

「なにをしてるのです!? この方はわたくしの……っ」
「捕らえろ」

 騒ぎ出したビアンナを男二人が押さえつける。自分の忠実な部下だと思っていただけに油断していた。
 なすすべなく地面に倒れ込み、ギロリと黄金の瞳でザヴァンを睨みつける。

「こんなことをしてただで済むと思いますの!? お父様に言えば虎族の管理する関所を使えなくできますのよ!?」
「もう使わないので構いません」
「……え?」

 病持ちたちを他国へ売り払う奴隷商団は虎族の領主と秘密裏に手を結び、利益の一部を流していた。
 奴隷商団にとって安全に関所を通れなくなるのは痛手のはず……そう思い込んでいたビアンナは予想外の返事に動揺を隠せなかった。

「少し前から王族に嗅ぎつけられていましてね。もうここから引き上げるのですよ」
「引き上げるって……」
「もっと分かりやすく言いますと……虎族に罪をなすりつけて時間を稼がせてもらいます」
「なっ……!」
「あ、お嬢様も少々レアな毛並みですので、商品にさせてもらいますよ」

 冷たく笑う男に体が震える。そんなビアンナを押さえつけていた男たちが無理やり檻へと詰め込んだ。
 ルースレアやシアンとは比べ物にならないくらい粗末で小さな檻は、身動きすら満足にできない。

「まあ、レアといっても中級商品くらいですが。あ、そうそう。安心してください。あなたの大好きな猫族の領主様は高級商品です」
「ふざけないで……!!」
「ふざけておりませんよ。三毛とオッドアイはレアですからねぇ」

 呑気に話すザヴァンをどれだけ睨みつけようと丈夫な檻から逃げ出す術はない。
 泣きそうになりながら横たわるシアンに視線を移した。
 ずっとずっと好きだった方。隣を望んだのがいけなかったのか、それとも彼の妻を消そうとしたのがいけなかったのか……
 結果的に自分も愛したシアンも奴隷商に売られる羽目になってしまった。

「どうして……どうして……」
「おや、あなたでも泣くのですね? 残念ですが、痛めつけて泣かせるのが趣味のあなたとは違って、普通に不愉快なので泣かないでください」
「くっ……。お父様……そうよ、お父様ならなんとかしてくれるわ! あんたみたいな片翼のやつなんて一撃で……!」
「ああ、言ってませんでしたか。罪を被ってもらうために薬漬けにしたので、今頃はなにがなんだか分からなくなっていると思いますよ」

 絶望で身体から力が抜ける。額が檻にぶつかるが痛みすら感じなかった。
 もうどうにもならないのだと実感が湧いた瞬間、ぷつんとなにかが切れてしまったのだ。

「……所詮はお嬢様ですね。この程度で壊れてしまうとは」

 つまらない、といった様子でザヴァンは肩を竦めた。まぁ、どっちにしろ売られた先で命すらも弄ばれるのだ。今のうちに壊れてしまったほうが幸せだろう。

「あら、ちょうどよかったですわね」

 見知った声にザヴァンはそちらに顔を向ける。団員のフランと今回の協力者のドルズがそれぞれ男と女を担いで歩いてきた。

「ええ、いいタイミングです」
「これは……一体……」

 沢山の檻が並ぶ異様な光景にドルズが戸惑った様子を見せる。

「そうだ、ドルズ様。一つ言い忘れてましたわ」
「なんだ今さら――」

 グサリ、と。
 厚い脂肪すら貫いて、剣がドルズの腹を貫いた。

「ぐっ!!」
「あなたを生かして返すわけないでしょう? それに、ほら?」
「……シ、アン様……?」

 刺された腹の痛みが一瞬飛ぶ。

「そんな……ぐ…」
「あはははっ!」

 喉から手が出るほど欲しかった女性の産んだ子。ダリアが手に入らなかった時に感じた絶望は、シアンが生まれた時に癒された。
 これからこの猫族の至宝を……ダリアによく似た子を自分が導くのだと。そう信じていたのに。

「シアン様……シア、ン様…………」

 ずりずりと地べたを這いずって檻の前まで移動する。
 なんとかお助けしなければ、と檻に手をかけるが力は入らず、腹部からは血が流れ続けていた。
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