乙女ゲームは始まらない

まる

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始まらなかった

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はーいい天気だー。

私は侯爵家の次女、今年で12歳になったので嬉し恥ずかしの学園入学式である。

そして享年84歳まで生きた記憶のある転生者である。
娘や孫と「こんなことおきないよねー。」なんて話していたのが懐しい…。
完全にフラグでした、本当にありがとう御座います。

事の起こりは7歳から始まった淑女教育である。
こちらのなんちゃって中世世界でも7歳までは神の子として自由に子供ライフをエンジョイさせる習慣がある。
やはり貴族の子とはいえ天に還りやすい事からだそうで。

そんな訳でのびのびと生活していた所に教会で洗礼を受けた後、ガッチガチの高位貴族淑女教育が始まってその辛さから記憶が戻りました。

座学は、足し算引き算割り算掛け算の算数に家の歴史、国の歴史ぐらいでなんだかファンタジー小説を読んでるみたいで楽しかったけどマナーは…マナーはいかんて……。

「お嬢様、いけません。」

とか言いながらピッシャピッシャンお仕置き用の短ムチで左手の甲しばかれるの。
いや無理だって!小学校低学年の子が大人しく座ってるのも苦痛なのに、重たい大人用の食器で音をたてずに優雅に茶を飲めとか飯食べろって無理だって!
カーテシーだの歩行だのまだまだ筋力はこれからの一桁女児に軸がブレないように行えとかふざけんなよ!
って内心キレ散らかしてたらそう言えば私はって思い出したのよね。

思い出したからって劇的にできなかった事ができたとかそんな事は起きずに、ただ次回の授業もサボらずに受けれるだけの根性がちろっとついただけ。
授業終わりにすぐさま母親、いなければ兄や姉の所に行ってビャービャー泣き叫びながら盛大に愚痴をこぼして毎日を乗り切ったぐらいで特に転生特典とかなかったわ。

そんなご令嬢な毎日を過ごしていたら第二王子との婚約が決まってこ、これは!なんて思ったのよね。
とんでもないクソガキとの婚約により逆ザマァな物語が始まっちゃうのかしら。
なんて思いながらの初顔合わせ。
普通に育ちの良い賢そうなお坊ちゃまでそんな物語は始まりそうにない感じでした。

そんなお坊ちゃまな第二王子殿下とゆったりまったりな交流に、更に涙と鼻水をスプラッシュさせる鬼畜王族マナー教育に親兄姉への泣き言が止まらなくなった日々を綺麗に微笑で隠して迎えた今日。 
なんとなく勝手に一区切りがついて感無量である。

婚約者にエスコートしてもらいながらふと思ったことが。
あれ、この状況よく読んでたザマァ系小説の出だしっぽくない?と。

ほらゲームだの何だのだと思った転生ヒロイン()がメインヒーローに体当たり横転しーの、医療室にお姫様だっこで運ばれーの的な出会いをしちゃって婚約者である私が若干キレながら注意する出会い編みたいな。

やだわーなんて心のおばあちゃんを全開にしながら正門をくぐり入学会場に向かっているとにわかに周辺が騒がしくなった。
なるほどこれが王族効果化かーなんてぼんやりしてたけど…。え、いやなんか違うな?

少し後ろからきゃーなんて悲鳴が聞こえてきて後ろを振り返るとなんか爆走して来る人がいるー。
こっちがっちり見ながら爆走してくる少女とか怖すぎなんだけど。
めっちゃ短いスカートなびかせて第二王子殿下ばっちりロックオンしながら短距離走選手みたいなガチンコ走でこっちくんですけど!?

いくらなんちゃって中世世界でもそのスカートの短さはアウトよ?!基本膝下か長いと足首まで隠れるロングスカートが令嬢の制服の基本ですからね??!
いや、私、そこは今じゃない。怖い怖い怖い怖い!!!!!

 「っひぃ!」   

思わず漏れ出ちゃったけどあの子まさかトップスピードに乗った今の状態で体当りする気なの?
「いった~い♡」じゃ済まない人身事故になりますけど。
方や王族、方や準王族とかどっちにぶつかっても家まで罰は及ぶかんね?!


パニックおこしながら思わず殿下を庇うように前に出てるとふっと視界から彼女が消え…た?
ずしゃぁっと激しく倒れ込む音が聞こえ、そちらに目を向けると男子生徒が爆走少女を抑え込んでいた。
おそらくアメフト選手のようなタックルを横から食らわせたんだろう。


「ぎゃぁああ!いった、いったあああい!!」

ええー、あんなえげつないタックル食らって気絶しないとか頑丈ですね、コワ。


「ちょっと何、ふざ、ふぎゃあ!」

押さえつけてる男子生徒に文句を言おうと軽く顔を上げた爆走少女をくるりとうつ伏せにし、腕を捻り上げて顔を上げれないように押さえつけた男子生徒。お見事な早業である。


「こっちか!いたぞ。」


三人程の警備兵がこちらに駆けつけてきた。
私が呆然としてる間に誰かが学園の警備兵を呼んでくれたんだと思う。

腕と顔を地面に縫い付けられるように抑え込まれて声も出ないのか少しウゴウゴ身動ぎをしていた爆走少女に猿ぐつわ噛ませ、更に麻袋のような袋を被せ両手足を拘束して連行していった。

ひえ、厳重ぅ。

まあ暗殺者だったりする可能性もあるからね。 
顔には出さないようにしていたけどちょっとした事件にプチパニックだった私。  
そう言えば婚約者様どうしてんだろうと振り向いたら、無表情でした。
 
  
「入学式に遅れてしまうよ、行こうか。」


こちらを見て無表情からの王子様スマイルでのこの発言。


「ええ、参りましょう。」


やっぱり王侯貴族すごいんだなぁ。
私もなんか疲れちゃたし、一応王族の婚約者だから動じてなんかいないアピールしつつこの行動に乗っかってみた。
まぁ婚約者が周囲に目配せしてたから私の預かり知らん関係者がどうこうするんでしょう。


ザマア物語は始まる出だしで潰されてたなぁ。
あんなトップスピードでこっち見定めての行動だからそら潰されますわな。

物語は始まりませんでした。
めでたしめでたし。



  




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