異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第一章 少年との出会い

8.聖男、一ヶ月のお別れ ※一部ルシアン視点

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「よし、これで荷物はいいかな?」
「みにゃと……さみしいよ……」

 鞄に荷物をまとめていると、ルシアンはギュッと抱きついてきた。

「僕も寂しいよ」

 そんなルシアンをギュッと抱きしめ返す。
 楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。
 毎日一緒に勉強したり、出かけたりして充実した日々だった。
 僕にとったら一カ月後には会えるが、ルシアンにとったら一年ぐらいは会えないことになる。
 きっと次に会う頃にはもう少し大きくなっているだろう。
 そのうち来てくれなくなるかもしれないし……。
 そう思うと、今のこの時間を一緒に楽しむことが一番大事になる。

「じゃあ、また大きくなったルシアンに会えることを楽しみにしてるね」
「べんきょうがんばる!」

 ルシアンに買ったばかりのリュックサックを背負わせて、僕は一歩下がる。
 小さな体に大きなリュックサック。
 中には僕がプレゼントした本だけではなく、たくさんの本が入っている。
 よほど勉強が好きなんだろう。

「amdp&y1・%・☆」

 小さな声で何かを呟くと、窓も開けていないのにどこからか風が入ってくる。
 次第に周囲が光に包まれると、ルシアンは何かに気づいたのか僕の元に走ってきた。

「みにゃと、すき!」

 そういって、僕の額にキスをしてきた。
 突然の出来事に僕はびっくりして固まった。
 小さい子どもは相変わらず何をするかわからないね。
 僕がニコリと微笑むとルシアンは悪戯が成功したような顔で消えてしまった。
 二人で少し小さく感じた部屋が急に広く感じる。

「はぁー、また忙しい日々が続くのか……」

 ルシアンがいた日は体調不良ってことで、仕事を休ませてもらった。
 少し罪悪感を覚えたが、さすがに子どもを一人で家に置いておけないからね。
 僕の日常はいつものように戻っていく。
 ああ、早くルシアンに会いたいな。



 僕は煌びやかな扉を開ける。
 この先には僕の居場所は全くない。

「ルシアン様、どこに行ってたんですか!」

 使用人の大きな声が屋敷に響く。
 きっとこれは僕を心配している声ではない。
 本当に心配している人の表情、優しさ、体温を僕は知っている。

「迷惑をかけました」
「ほんとですよ! 私たちが殴られる身にもなってください!」

 言った側から態度を変える使用人に僕の心は冷たくなる。
 この屋敷には僕の味方は誰一人いないからね。

「ルシアン様、ご無事だったんですね!」
「ええ、本当にどこに行っていたのかしら」

 言葉では心配したように言ってくれるが、この場にいる使用人の声には温度がない。
 誰一人目を合わせようとしないし、心配で抱きつくようなことは一度もされたことがない。
 きっと下手に優しくすれば、後で兄たちに叱られるからだ。
 この屋敷では、誰もが兄を恐れている。
 父は領地を離れることが多く、代わりに権力を振るうのは一番上の兄。
 上の兄は優しい。けれど、いつも遠くから見ているだけで、僕を守ってくれるわけではない。
 二番目の兄はとにかく暴力的だ。
 真ん中の二人は二番目の兄に従って笑い、僕を見れば何かとからかう。

 理由は僕だけが平民の血を引いているからだ。

「どこに行ってたんだ!」

 一番上の兄は、叱るように言いながらも、軽く頭を撫でてくれた。
 その手の温もりは感じるが、本当の優しさではないことをみにゃとに会って知った。
 これは他の兄弟や使用人に見せつけるためだろう。
 兄は次期領主として、信頼されていないといえないからね。
 そんな後ろから冷たい声が響く。

「そんなやつに情けなんてかけないほうがいいだろ。誰も何も期待していないからな」

 空気が凍りついた。
 誰も何も言わない。使用人は気配を消すように下がっていく。
 僕はうつむいて、その場を通り抜けた。

 痛いのは、もう慣れた。
 冷たい視線にも、嘲りの言葉にも。
 それでもいい。僕には、みにゃとがいるから。
 あの人は、僕を見てくれた。
 血でも、身分でもなく、ただの〝ルシアン〟として。

 いつも優しく笑ってくれて、優しく抱きついてくれる。

「おい、兄上の言葉を無視するな!」
「平民のくせに!」

 突然、脇腹に痛みが走る。
 真ん中の双子の兄二人が僕を強く蹴る。
 いつも僕の体を傷つけるのはこの二人だ。
 兄は見て見ぬふりをして、何も言わない。
 結局、使用人と同じだ。

 だけど僕はもう泣かない。
 強くなって、みにゃとに追いつくんだ。

「ご迷惑おかけしてすみませんでした」

 僕はそれだけを伝えて、急いで部屋に戻る。
 昔使用人が使っていた小さな部屋。
 みにゃとの部屋とどこか似ていて僕は好きだ。
 机に向かい、買ってもらった本を開く。
 ひらがなをなぞる指先が少し震える。
 全部の意味はまだ分からなくても、書けるだけで嬉しかった。

 あの日、みにゃとが隣で教えてくれたように……。

 夜が更けても、みにゃとが買ってくれた本を捲る音だけが部屋の中に響いていた。
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