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第一章 少年との出会い
9.聖男、ルシアンの事情を知る
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「ルシアンまだかな……」
僕はたくさんの料理を作って、ルシアンが来るのを待っていた。
カレンダーには今日のお昼頃に来るって書いてある。
だけど、いつになってもルシアンは現れる様子はない。
気づけば料理はすっかり冷め、窓の外は夕焼けに染まっていた。
子どもの気持ちなんてすぐ変わる。
もしかしたら向こうの世界で忙しいのかもしれない。
そう思って料理を片付けようとした時、部屋が突然、光に包まれた。
――ガラガラッ! ドンッ!
クローゼットの扉が開き、風が吹き出す。
こうやってルシアンは来ていたのかと、非現実的なことに驚いた。
しかし、驚いたのはそれだけでない。
「ルシ……ルシアン!?」
ルシアンはその場で倒れたまま起き上がってこない。
すぐに抱き起こすと、服は血で濡れ、顔色は真っ青だった。
僕は震える手でハサミを掴み、服を慎重に切っていく。
無数の痣と裂傷が露わになり、息を呑んだ。
「なんで……なんでこんなに傷だらけなんだよ!」
慌てて救急ボックスを取り出し、ガーゼに軟膏を塗り、包帯を巻いて固定する。
ルシアンの手は冷たく、かすかに震えていた。
それでも、その小さな体は必死に呼吸をしていた。
それだけが、今の僕の支えだった。
処置を終えベッドに運ぶ。
ただ、一年経っているのに重くなったような気がしない。
僕はそっと毛布を掛けて、ルシアンが目覚めるのを待つことにした。
「大丈夫かな……」
少し大きくなった手を強く握る。
夜が更けても、ルシアンは目を開けることはない。
時計の針の音だけが、静かな部屋に響いていた。
もし、目を覚まさなければ病院に連れて行こう。
僕はそう決意して、朝が来るのを待った。
「うっ……」
やがて朝日が近づいた頃、布団の中で小さな手が動いた。
「……みにゃと……?」
「……ルシアン!? みなとだよ!」
目が覚めた嬉しさに僕はホッとした。
ルシアンの瞳には、まだ痛みが残っていたが、目が合うと安堵したように感じる。
「……ごめんなさい。おくれちゃった」
「それぐらい気にしてないよ」
起きようとするルシアンを再びベッドで寝かせる。
前よりも言葉が聞きやすくなっているのは、たくさん練習したからなんだろう。
手足は細いが、少しだけ背丈も高くなっている。
だが、そんなことよりも気になることがあった。
「ねぇ、何があったの?」
少しの沈黙のあと、ルシアンはゆっくりと口を動かす。
「ぼく、こうしゃくけのすえっこなんだ……。でも、おかあさんがへいみんだから、あにうえたちにきらわれてる」
公爵家って貴族のことだよね?
ってなるとルシアンは貴族の末っ子で兄がたくさんいることになる。
非現実的な言葉に混乱するが、世継ぎ争いで命まで狙われることって歴史的に珍しくもない。
「いちばんうえのあにうえはやさしいけど、なにもしてくれない。ほかのあにうえはいつもぼくを――」
言葉を飲み込んで、視線を落とした。
表情は抜け落ちるように消え去り、幼い子どもが抱えるにはあまりにも深い傷だった。
「他に助けてくれる人は?」
「みんなぼくをたすけるとおこられるから……」
思わずルシアンの手を握った。
冷たい指先が、少しずつ僕の手で暖かくなってくる。
「もう頑張らなくていいよ。ここでは誰も君を傷つけないから。なんならずっといてもいい!」
そう言って抱きしめると、ルシアンの体が小さく震えていた。
子ども一人ぐらい看護師の給料で養っていける。
身元に関しては、また自動相談所の担当者と相談すればいい。
あの人ならルシアンのことを知っている。
養子だってなんだって引き受けてやる。
「みにゃと……ぼく、よわいね……」
ルシアンの瞳から涙がポタポタと垂れている。
「弱くなんかない。ルシアンは強い! こんなに頑張っているんだからね!」
この間会った時が5歳なら、今は7歳ぐらいだろう。
小学生と変わらない。
そんな子どもがこんなに痛い思いをしているのに、頑張っていないはずがない。
「うん……ぼく……がんばってる……がんばっでいるよおおおおお!」
ルシアンは声を上げながら涙を流していく。
小さな子どもが現状を受け入れるには、早すぎるだろう。
せめて僕がルシアンの力になれたらいいが……。
「みにゃと……」
「どうしたの?」
しばらくして、泣き止んだルシアンが声をかけてきた。
「……おなか、すいた」
ルシアンは目を擦りながらかすかに笑った。
その言葉に、僕はふっと笑って立ち上がる。
たくさん泣いたらお腹も減ってくるよね。
「じゃあ、ホットケーキでも作ろうか」
「……ほんとに?」
「ルシアンが来たら作るって決めてたんだ」
テーブルにはたくさんの料理がそのまま置いてある。
それは明日食べればいいだろう。
今は優しくホッとするものを食べないとね!
フライパンの上で、生地がジュッと音を立てる。
甘い香りが広がると、ルシアンの顔が少し明るくなったような気がした。
「みにゃと」
「なーに? どうかした?」
ホットケーキを焼いている時にルシアンから声をかけられた。
「ぼく、もっとつよくなりたいの。もっと……かしこくなりたい」
あれだけ嫌な思いをしていたのに、それでもルシアンは立ち向かおうとする。
本当に強い子だ。これがルシアンの武器になるだろう。
「じゃあ、もっと勉強しないとね!」
優しく頭を撫でると、ルシアンは大きく頷いた。
「もう少しでできるから待っててね」
ホットケーキを焼きに戻ると、突然後ろからギュッと抱きしめられた。
いつのまにか僕の体に手が回るほど、ルシアンは大きくなっていた。
僕はたくさんの料理を作って、ルシアンが来るのを待っていた。
カレンダーには今日のお昼頃に来るって書いてある。
だけど、いつになってもルシアンは現れる様子はない。
気づけば料理はすっかり冷め、窓の外は夕焼けに染まっていた。
子どもの気持ちなんてすぐ変わる。
もしかしたら向こうの世界で忙しいのかもしれない。
そう思って料理を片付けようとした時、部屋が突然、光に包まれた。
――ガラガラッ! ドンッ!
クローゼットの扉が開き、風が吹き出す。
こうやってルシアンは来ていたのかと、非現実的なことに驚いた。
しかし、驚いたのはそれだけでない。
「ルシ……ルシアン!?」
ルシアンはその場で倒れたまま起き上がってこない。
すぐに抱き起こすと、服は血で濡れ、顔色は真っ青だった。
僕は震える手でハサミを掴み、服を慎重に切っていく。
無数の痣と裂傷が露わになり、息を呑んだ。
「なんで……なんでこんなに傷だらけなんだよ!」
慌てて救急ボックスを取り出し、ガーゼに軟膏を塗り、包帯を巻いて固定する。
ルシアンの手は冷たく、かすかに震えていた。
それでも、その小さな体は必死に呼吸をしていた。
それだけが、今の僕の支えだった。
処置を終えベッドに運ぶ。
ただ、一年経っているのに重くなったような気がしない。
僕はそっと毛布を掛けて、ルシアンが目覚めるのを待つことにした。
「大丈夫かな……」
少し大きくなった手を強く握る。
夜が更けても、ルシアンは目を開けることはない。
時計の針の音だけが、静かな部屋に響いていた。
もし、目を覚まさなければ病院に連れて行こう。
僕はそう決意して、朝が来るのを待った。
「うっ……」
やがて朝日が近づいた頃、布団の中で小さな手が動いた。
「……みにゃと……?」
「……ルシアン!? みなとだよ!」
目が覚めた嬉しさに僕はホッとした。
ルシアンの瞳には、まだ痛みが残っていたが、目が合うと安堵したように感じる。
「……ごめんなさい。おくれちゃった」
「それぐらい気にしてないよ」
起きようとするルシアンを再びベッドで寝かせる。
前よりも言葉が聞きやすくなっているのは、たくさん練習したからなんだろう。
手足は細いが、少しだけ背丈も高くなっている。
だが、そんなことよりも気になることがあった。
「ねぇ、何があったの?」
少しの沈黙のあと、ルシアンはゆっくりと口を動かす。
「ぼく、こうしゃくけのすえっこなんだ……。でも、おかあさんがへいみんだから、あにうえたちにきらわれてる」
公爵家って貴族のことだよね?
ってなるとルシアンは貴族の末っ子で兄がたくさんいることになる。
非現実的な言葉に混乱するが、世継ぎ争いで命まで狙われることって歴史的に珍しくもない。
「いちばんうえのあにうえはやさしいけど、なにもしてくれない。ほかのあにうえはいつもぼくを――」
言葉を飲み込んで、視線を落とした。
表情は抜け落ちるように消え去り、幼い子どもが抱えるにはあまりにも深い傷だった。
「他に助けてくれる人は?」
「みんなぼくをたすけるとおこられるから……」
思わずルシアンの手を握った。
冷たい指先が、少しずつ僕の手で暖かくなってくる。
「もう頑張らなくていいよ。ここでは誰も君を傷つけないから。なんならずっといてもいい!」
そう言って抱きしめると、ルシアンの体が小さく震えていた。
子ども一人ぐらい看護師の給料で養っていける。
身元に関しては、また自動相談所の担当者と相談すればいい。
あの人ならルシアンのことを知っている。
養子だってなんだって引き受けてやる。
「みにゃと……ぼく、よわいね……」
ルシアンの瞳から涙がポタポタと垂れている。
「弱くなんかない。ルシアンは強い! こんなに頑張っているんだからね!」
この間会った時が5歳なら、今は7歳ぐらいだろう。
小学生と変わらない。
そんな子どもがこんなに痛い思いをしているのに、頑張っていないはずがない。
「うん……ぼく……がんばってる……がんばっでいるよおおおおお!」
ルシアンは声を上げながら涙を流していく。
小さな子どもが現状を受け入れるには、早すぎるだろう。
せめて僕がルシアンの力になれたらいいが……。
「みにゃと……」
「どうしたの?」
しばらくして、泣き止んだルシアンが声をかけてきた。
「……おなか、すいた」
ルシアンは目を擦りながらかすかに笑った。
その言葉に、僕はふっと笑って立ち上がる。
たくさん泣いたらお腹も減ってくるよね。
「じゃあ、ホットケーキでも作ろうか」
「……ほんとに?」
「ルシアンが来たら作るって決めてたんだ」
テーブルにはたくさんの料理がそのまま置いてある。
それは明日食べればいいだろう。
今は優しくホッとするものを食べないとね!
フライパンの上で、生地がジュッと音を立てる。
甘い香りが広がると、ルシアンの顔が少し明るくなったような気がした。
「みにゃと」
「なーに? どうかした?」
ホットケーキを焼いている時にルシアンから声をかけられた。
「ぼく、もっとつよくなりたいの。もっと……かしこくなりたい」
あれだけ嫌な思いをしていたのに、それでもルシアンは立ち向かおうとする。
本当に強い子だ。これがルシアンの武器になるだろう。
「じゃあ、もっと勉強しないとね!」
優しく頭を撫でると、ルシアンは大きく頷いた。
「もう少しでできるから待っててね」
ホットケーキを焼きに戻ると、突然後ろからギュッと抱きしめられた。
いつのまにか僕の体に手が回るほど、ルシアンは大きくなっていた。
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