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第一章 少年との出会い
18.聖男、農業体験をする
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「本当に何もないね……」
「僕の世界はこんな感じに近いよ?」
秋の空はどこか澄んでいて、遠くの山々までくっきり見えた。
僕とルシアンは、駅から少し離れた畑の方へと歩いていく。
目的はさつまいもの苗とじゃがいもの種芋を分けてもらうためだ。
「みにゃと、ここが農家さんのお家?」
「いや、それはビニールハウスだよ」
農道の先にある古びたビニールハウス。
その前に腰を曲げたおばあさんがスコップを持っていた。
声をかけると顔を上げてニコッと笑う。
「あらまぁ、由香ちゃんのお友達がこんなにイケメンさんだったとはね」
今日は職場の同期である由香の祖父母の家にお邪魔することになっている。
あれからルシアンが会社に迎えにくるのが定着して、なぜか由香と仲良くなっていた。
ルシアンが野菜の話をしていた時に、由香の祖父母が作る野菜が美味しいと話題になり、僕の知らない間に遊びに行くことになっていた。
「お孫さんがいないのにすみません」
「あーいいのいいの! さつまいもの収穫とじゃがいも植えを手伝ってくれるんでしょ?」
僕とルシアンは顔を見合わせた。
どこか話に行き違いがあるような気がする。
「いえ、僕たちは――」
「あー、私たちもう腰が痛くてね……」
チラチラと見つめてくるおばあさんに僕たちは折れた。
せっかくだから農作業体験でもした方が、ルシアンの勉強にもなるだろう。
それに僕自身も農業体験ってあまりしたことがないからね。
「僕に任せて!」
「おっ、小僧元気がいいな!」
それにルシアンは思ったよりもやる気満々だった。
ビニールハウスから出てきたおじいさんも教える気満々なのか、僕たちは農作業体験をすることにした。
「さつまいもを掘るときはな、スコップで勢いよく突き刺すと中の芋まで切っちまうから注意するんだぞ」
「「はーい!」」
おじいさんが笑いながら、手本を見せてくれた。
「ほら、こうやって少し離れたところから、土を起こすように掘るんだ」
僕とルシアンは頷きながら、その手元をじっと見つめる。
おじいさんのスコップが土に差し込まれると、柔らかく盛り上がった部分の下から、赤紫の芋が少しだけ顔を出した。
「うわ! 本当に埋まってる!」
ルシアンの声が弾む。
さつまいもはスーパーで見たことあるけど、何も知らないと土から出てくることすら知らないもんね。
「さつまいも堀りなんて幼稚園でやった以来だ……」
僕も小さい頃にやった記憶はあるが、どうだったのかは全く覚えていない。
ただ、たくさん掘ってきたさつまいもを母親が蒸して食べさせてくれた時は本当に美味しかったな。
「掘り出した芋は無理に引っ張るなよ。折れると保存がきかねぇ。ツルの根元を手で持って、そっと持ち上げるんだ」
おじいさんの言葉通りにすると、ずるりと土の中からさつまいもが現れた。
「おぉ、出た! みにゃと見てみて!」
ルシアンは目を輝かせ、嬉しそうに僕の元まで持ってきた。
こういう表情を見ると、ルシアンは成長しても変わらない気がする。
屈託のない笑顔を見せてくれるからね。
「干すときは日陰で風通しのいいところに並べるんだぞ。直射日光に当てると皮がカサカサになっちまう」
「干すのにもコツがあるんだね」
「なんでも手間ひまが大事さ。しっかりやれば冬は越せるぞ」
ルシアンは感心したようにおじいさんを見上げた。
その横顔は土の香りに包まれながら、どこか真剣だった。
「今日はさつまいもの苗と種芋が欲しかったのよね?」
作業している合間におばあさんが声をかけてきた。
その姿はイタズラっ子のような表情をしている。
「ふふふ、ちゃんと由香ちゃんからは聞いているわよ」
「そうだったんですね……」
「腰が痛かったのは本当よ」
腰を叩きながらも、おばあさんは僕の隣で作業をする。
本当はこの農地も誰かに渡したいけど、中々受け継ぐ人がいないと嘆いていた。
「ねぇねぇ、うちの由香ちゃんと結婚する気ないかしら?」
「おばあさん、みにゃとは僕と結婚するんだからね?」
僕とおばあさんの間にルシアンが割り込んできた。
ここ最近ルシアンが露骨にベタベタしていたのが気になっていたけど、ここまではっきり結婚という言葉を口にするとは思いもしなかった。
「いや……結婚は――」
「それなら由香ちゃんの旦那さんにはならないわね。なんなら二人で私たちの畑を受け継いでもらってもいいのよ?」
またおばあさんはイタズラっ子のように笑っていた。
まさか肯定や否定されることもなく、ただ普通に受け入れていたことにびっくりした。
周囲を気にしていた自分が情けなく感じる。
「ほらほら、お前たちちゃんと働かんか!」
「はーい!」
ルシアンは急いでおじいさんの元へ戻って行った。
――ルシアンと結婚
そんなことは考えないようにしていた。
むしろ考えたらいけないと思っていた。
それでも魔性な男に成長しそうなルシアンに僕はドキドキしちゃいそうだな。
「これはうちで取れた“種芋”だ。春に植えると芽が出るから、冬の間は新聞紙で包んであったかいところに置くんだぞ!」
「このまま春まで寝かせるんですね」
「そうそう、寒いと腐っちゃうからね」
帰る頃、由香の祖父母からじゃがいもの種芋とさつまいもの蔓を大量に渡された。
まさか本当にもらえるとは思いもしなかった。
「あのー、由香ちゃんからは何て聞いてたんですか?」
「男の子二人が畑を始めたいから教えてあげてって聞いてたわよ」
「だからこんなにも多いんですね……」
明らかに持って帰るだけでも大変そうだが、こんなにもらってもいいのだろうか……。
僕の表情に気づいたのだろう。
「気にしなくていいさ。ちゃんと芽が出たらおばあちゃんに写真でも見せておくれ」
「「ありがとうございます!」」
僕たちはお礼を伝えて自宅に帰っていく。
ダンボール4つ分のじゃがいもの種芋とさつまいもの苗を持って帰るのは、想像以上に大変だった。
「僕の世界はこんな感じに近いよ?」
秋の空はどこか澄んでいて、遠くの山々までくっきり見えた。
僕とルシアンは、駅から少し離れた畑の方へと歩いていく。
目的はさつまいもの苗とじゃがいもの種芋を分けてもらうためだ。
「みにゃと、ここが農家さんのお家?」
「いや、それはビニールハウスだよ」
農道の先にある古びたビニールハウス。
その前に腰を曲げたおばあさんがスコップを持っていた。
声をかけると顔を上げてニコッと笑う。
「あらまぁ、由香ちゃんのお友達がこんなにイケメンさんだったとはね」
今日は職場の同期である由香の祖父母の家にお邪魔することになっている。
あれからルシアンが会社に迎えにくるのが定着して、なぜか由香と仲良くなっていた。
ルシアンが野菜の話をしていた時に、由香の祖父母が作る野菜が美味しいと話題になり、僕の知らない間に遊びに行くことになっていた。
「お孫さんがいないのにすみません」
「あーいいのいいの! さつまいもの収穫とじゃがいも植えを手伝ってくれるんでしょ?」
僕とルシアンは顔を見合わせた。
どこか話に行き違いがあるような気がする。
「いえ、僕たちは――」
「あー、私たちもう腰が痛くてね……」
チラチラと見つめてくるおばあさんに僕たちは折れた。
せっかくだから農作業体験でもした方が、ルシアンの勉強にもなるだろう。
それに僕自身も農業体験ってあまりしたことがないからね。
「僕に任せて!」
「おっ、小僧元気がいいな!」
それにルシアンは思ったよりもやる気満々だった。
ビニールハウスから出てきたおじいさんも教える気満々なのか、僕たちは農作業体験をすることにした。
「さつまいもを掘るときはな、スコップで勢いよく突き刺すと中の芋まで切っちまうから注意するんだぞ」
「「はーい!」」
おじいさんが笑いながら、手本を見せてくれた。
「ほら、こうやって少し離れたところから、土を起こすように掘るんだ」
僕とルシアンは頷きながら、その手元をじっと見つめる。
おじいさんのスコップが土に差し込まれると、柔らかく盛り上がった部分の下から、赤紫の芋が少しだけ顔を出した。
「うわ! 本当に埋まってる!」
ルシアンの声が弾む。
さつまいもはスーパーで見たことあるけど、何も知らないと土から出てくることすら知らないもんね。
「さつまいも堀りなんて幼稚園でやった以来だ……」
僕も小さい頃にやった記憶はあるが、どうだったのかは全く覚えていない。
ただ、たくさん掘ってきたさつまいもを母親が蒸して食べさせてくれた時は本当に美味しかったな。
「掘り出した芋は無理に引っ張るなよ。折れると保存がきかねぇ。ツルの根元を手で持って、そっと持ち上げるんだ」
おじいさんの言葉通りにすると、ずるりと土の中からさつまいもが現れた。
「おぉ、出た! みにゃと見てみて!」
ルシアンは目を輝かせ、嬉しそうに僕の元まで持ってきた。
こういう表情を見ると、ルシアンは成長しても変わらない気がする。
屈託のない笑顔を見せてくれるからね。
「干すときは日陰で風通しのいいところに並べるんだぞ。直射日光に当てると皮がカサカサになっちまう」
「干すのにもコツがあるんだね」
「なんでも手間ひまが大事さ。しっかりやれば冬は越せるぞ」
ルシアンは感心したようにおじいさんを見上げた。
その横顔は土の香りに包まれながら、どこか真剣だった。
「今日はさつまいもの苗と種芋が欲しかったのよね?」
作業している合間におばあさんが声をかけてきた。
その姿はイタズラっ子のような表情をしている。
「ふふふ、ちゃんと由香ちゃんからは聞いているわよ」
「そうだったんですね……」
「腰が痛かったのは本当よ」
腰を叩きながらも、おばあさんは僕の隣で作業をする。
本当はこの農地も誰かに渡したいけど、中々受け継ぐ人がいないと嘆いていた。
「ねぇねぇ、うちの由香ちゃんと結婚する気ないかしら?」
「おばあさん、みにゃとは僕と結婚するんだからね?」
僕とおばあさんの間にルシアンが割り込んできた。
ここ最近ルシアンが露骨にベタベタしていたのが気になっていたけど、ここまではっきり結婚という言葉を口にするとは思いもしなかった。
「いや……結婚は――」
「それなら由香ちゃんの旦那さんにはならないわね。なんなら二人で私たちの畑を受け継いでもらってもいいのよ?」
またおばあさんはイタズラっ子のように笑っていた。
まさか肯定や否定されることもなく、ただ普通に受け入れていたことにびっくりした。
周囲を気にしていた自分が情けなく感じる。
「ほらほら、お前たちちゃんと働かんか!」
「はーい!」
ルシアンは急いでおじいさんの元へ戻って行った。
――ルシアンと結婚
そんなことは考えないようにしていた。
むしろ考えたらいけないと思っていた。
それでも魔性な男に成長しそうなルシアンに僕はドキドキしちゃいそうだな。
「これはうちで取れた“種芋”だ。春に植えると芽が出るから、冬の間は新聞紙で包んであったかいところに置くんだぞ!」
「このまま春まで寝かせるんですね」
「そうそう、寒いと腐っちゃうからね」
帰る頃、由香の祖父母からじゃがいもの種芋とさつまいもの蔓を大量に渡された。
まさか本当にもらえるとは思いもしなかった。
「あのー、由香ちゃんからは何て聞いてたんですか?」
「男の子二人が畑を始めたいから教えてあげてって聞いてたわよ」
「だからこんなにも多いんですね……」
明らかに持って帰るだけでも大変そうだが、こんなにもらってもいいのだろうか……。
僕の表情に気づいたのだろう。
「気にしなくていいさ。ちゃんと芽が出たらおばあちゃんに写真でも見せておくれ」
「「ありがとうございます!」」
僕たちはお礼を伝えて自宅に帰っていく。
ダンボール4つ分のじゃがいもの種芋とさつまいもの苗を持って帰るのは、想像以上に大変だった。
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