異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第一章 少年との出会い

24.聖男、あの時の少年はもういない

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「さぁ、お風呂でも入ろうか」
「俺は後で入る」
「へっ……?」

 あれだけ前回は一緒にお風呂に入るって言ってきたのに、今回に限っては入りたくないと……。
 ひょっとして今話題のお風呂スキップ系ってやつだろうか。

「ちゃんとお風呂に入るんだよ?」
「わかってる!」

 いや、これはスキップ系っていうよりは、ただの反抗期なのかもしれない。
 お風呂に入るタイミングって各々あるもんね。
 あれだけルシアンとのことを迷っていたけど、急な成長は戸惑いを感じる。

「ルシアンも反抗期か……」

 脱衣所に移動した僕は服を脱いでいく。
 ただ、どことなく視線を感じるし、扉が少しだけ開いている。

「ルシアン?」

 扉を開けると、ルシアンが立っていた。

「ななな!?」

 なぜか驚いてその場であたふたとしていた。
 やっぱり一緒にお風呂に入りたかったのだろうか。

「せっかくなら一緒に入ればいいじゃん!」

 僕はルシアンを脱衣所に引っ張り、服を脱がしていく。

「ちょ、みにゃと強引だって!」

 どこかお風呂に入りたくない犬を無理やり風呂場に連れて行くような感じがして、楽しくなってきた。

「そこはダメだ!」

 パンツも脱がそうとしたら、力強く止められてしまった。
 反抗期の少年のパンツを無理やり脱がす……。
 完全に犯罪者の一歩手前だ。

「ルシアン、ありがとう」
「ん?」

 犯罪者にならないように止めてくれたルシアンにお礼を伝える。
 ただ、当の本人は何のお礼かはわからず首を傾げていた。

「じゃあ、先に入るね」

 そう告げて僕は先にお風呂に入って行く。

「はぁー、ルシアンの筋肉すごかったな。みんな魅了されちゃうね……」

 成長したルシアンの姿は想像以上に筋肉が発達していた。
 きっと数年後にはモテモテになりそうだ。
 僕なんて脂肪すらついてないペラペラな男だ。

――ガチャ!

「みにゃとは筋肉が好きなのか!」

 僕の独り言を聞いていたのか、勢いよくルシアンは浴室に入ってきた。

「好きかどうかと言ったら……あった方がいいかもね?」

 筋肉があった方が仕事の時に介助がやりやすいからね。
 女性ばかりの職場だと男性に頼ってくることが多いが、僕が声をかけられることは少ない。

「これでみにゃとを魅了させるぞ!」

 ルシアンも何かを呟いていたが、うまく聞き取れなかった。

「ルシアン風邪引くから、早く入りなよ!」
「いや、俺は入らない!」

 浴室まで来たのにまさかのお風呂に入らない宣言。
 服まで脱いだから、あともう少しだ。

「ほら!」

 僕は必死に抵抗するルシアンを引っ張った。

「うわっ……!?」

 浴槽の縁に腰掛けていたルシアンはそのまま姿勢を崩し、倒れるように浴槽に入った。

「へへへ、これでお風呂に入りたくないとは言わせな……」
 
 言いかけたところで、浴槽の中のルシアンが顔を上げた。
 濡れた髪が額に張りつき、肩から滴る水が光を反射している。
 その姿を見た瞬間、僕は思わず息を呑んだ。
 まるで知らない誰かを見ているような、そんな錯覚に囚われた。
 もう子どものルシアンはここにはいない。

「みにゃと、どうした?」
「あ、いや……びっくりしただけ」

 慌てて笑ってみせる。
 でも、胸の奥で何かがざわついているのを誤魔化せなかった。
 まっすぐな瞳に見つめられて、妙に息が詰まる。

「……風邪、引かないようにね」
「うん……」

 ルシアンはその場で向きを変えて、僕の前に重なるように肩まで沈んだ。
 体から伝わるルシアンの体温に僕の鼓動は速くなる。
 ほんの少し前までは、守るべき存在だと思っていたのに。
 いつの間に、あんな表情をするようになったのだろう。
 僕は小さく息を吐いて少しだけルシアンから距離を取る。
 それでも狭い湯船の中では、体は自然と密着していた。
 お湯の温かさよりも、胸の鼓動の方が強く、落ち着くまでに少し時間がかかった。

「みにゃと、気持ちいいね!」

 見上げた顔のルシアンと目が合う。

「……うん、そうだね」

 湯気の向こうで笑う顔は、あの日と同じだった。
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