異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

文字の大きさ
25 / 53
第一章 少年との出会い

25.聖男、相談する

しおりを挟む
「ルシアン、行ってくるね」
「いってらっしゃい!」

 翌日、仕事に向かう僕をルシアンは玄関まで送ってくれた。
 ただ、どこか気まずい雰囲気が流れる。
 昨晩寝る時もそうだったけど、前のような関わりが今の僕にはできないと思った。
 一緒に寝るのも緊張してしまうし、ハグをするのもどこか戸惑ってしまう。
 それはルシアンも同じなんだろう。
 今日は抱きついてくることもなく、優しく笑顔で手を振るだけだった。

 病院に着くと何事もなかったかのように仕事を始めていく。
 あんなに一人で留守番させるのが怖かったのに、今はそんな気持ちを微塵も感じない。
 むしろ今はルシアンのことを考えなくても良いほど、忙しいことにホッとする。

「ねぇ、ルシアンくんって元気なの?」
「えっ!?」

 お昼の休憩中、同期の由香が突然ルシアンについて聞いてきた。
 そういえば、ここ最近ルシアンが帰っていたため、話すことはなかったな。

「今家にいるんでしょ? 今日迎えにくるの?」
「えっ……いやー、なんでわかったの?」

 まだルシアンが家に来ることは話していない。
 もしかしたら、ルシアンは由香に話しているのだろうか。

「顔を見たらわかるよ。ルシアンくんがいる時だけ心配そうな顔をしているし……。でも、今日は迷っている感じだね?」

 やっぱり由香にはバレちゃうようだ。

「迷ってる……っていうか、どう接したらいいのかわからなくてね」

 由香の前だと、つい本音が出てしまう。
 昨日まで子どもだと思っていた相手が、気づけば背も伸びて表情まで大人びていた。
 その変化に僕の方が追いつけていない。

「この前まで寝癖だらけで僕の後ろにべったりとついてきてたのに、今は落ち着いてるというか……」
「えっ……と成長したってこと?」

 僕はそのまま頷く。

「久々に会ったらかなり成長していてさ」
「それでも一カ月ぐらいでしょ?」
「そうだよね。普通はそうなんだけどね」

 きっと由香もルシアンを見たら驚くだろう。
 それぐらい驚くほど成長しているからね。 

「子どもは急に成長するだろうし、ルシアンくんは海外の子だから」

 ルシアンは海外の子だと思われているようだ。
 確かに日本人顔じゃないからね。

「でも、なんか違うんだよね」
「違う?」

 由香が首を傾げる。
 僕は手に持った紙コップのコーヒーを見つめながら、少し考えてから言葉を選んだ。

「前は子どもって感じだったのに今は……なんか、僕よりも落ち着いてるというか。ふとした時に、あぁもう〝守る〟対象じゃないんだなって思っちゃってね」
「へぇー、なんか寂しそうな言い方だね」
「いや、寂しいっていうより……どっちかというと戸惑いかな」

 由香はふふっと小さく笑った。
 それがまるで全部見透かされているような気がして、僕は慌てて視線をそらす。

「まさかドキッとしたとか?」
「えっ、そ、そんなことは……」

 口ごもった僕を見て、由香がニヤリと笑う。

「やっぱりそれかー! きっと恋の始まりってやつじゃない?」
「ちょ、やめてよ! そういうのじゃないって!」

 慌てて否定したのに、由香はケラケラと笑っていた。
 その笑い声につられて、僕もつい笑ってしまう。

「まぁ冗談だけど、でもいいことじゃない? ちゃんと一人の人として見てる証拠でしょ。子ども扱いしなくなったってことだよ」
「そうかな?」
「それに私は大歓迎だよ。ミナルシでもルシミナでも受け入れる!」

 由香がそう言ってくれて少し安心した。
 ただ、途中から呪文のようなことを言っていたけど、僕にはわからなかった。
 笑って誤魔化したけれど、あの〝ドキッ〟とした瞬間が、まだ心のどこかに残っている。
 それが勘違いだと信じたい。
 きっと急に成長したからびっくりしただけ。
 僕は自分に言い聞かせて、仕事に戻ることにした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

処理中です...