異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第一章 少年との出会い

27.聖男、胸の苦しみは……

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 僕が着替えて戻ってくると、ルシアンは楽しそうに由香と話していた。
 さっきまで真っ青な顔をして泣いていたのに……。

「お待たせ!」
「あっ、湊! ルシアンくんが狭心症と――」
「おい、言うなよ!」

 ルシアンは由香の口元を押さえていた。
 その光景にほんの少し胸の奥がチクリとした。

「……仲良いな」

 思わずそんなことを小声で口走ってしまう。いや、別に変な意味じゃない。
 どことなく複雑な気持ちになるだけだ。
 僕以外の人と仲良くしているところを見たことがなかったからね。

「ふふっ、二人とも仲良くなったね!」

 冗談めかして言うと由香は嬉しそうに笑った。

「ルシアンくんって反応が素直で可愛いよね」
「……うん、そうだね」

 そう答えながらも、胸の中でざらついた感情が広がっていく。
 僕だけが知っていたことなのに……。

「ルシアンくん、顔真っ赤だよ。あっ、まさか――」
「だから言うなって言ってるだろ!」

 由香が話すたびにルシアンは怒りながら、由香に触れる。
 なぜか落ち着かないし、少しこの場から離れたいとも思ってしまう。

「ごめんごめん。冗談も言いたくなるじゃん。じゃあ、また今度教えてあげるね」
「ああ!」

 彼女はにこやかに手を振って去っていった。
 その背中を見送りながら、僕はルシアンの横顔をちらりと見る。
 頬を赤くしたまま、少し落ち着かない様子の彼。
 僕が見ているのがわかったのか、ルシアンと目が合う。

「……由香と楽しそうだったね」
「えっ!? あっ……うん。別に普通に話してただけだよ」

 焦って否定するその仕草がまたなんだか気になる。
 自分でも驚くほど胸の奥がざわついていた。
 やっぱりルシアンは女性の方が好きだよね。
 どこかで僕は勘違いしていたようだ。

「そっか……。じゃあ、帰ろうか」
「みにゃと……怒ってる?」

 笑ってみせたつもりだったけど、どこかぎこちなかったのだろう。
 胸の奥に残ったざらつきが、うまく消えてくれない。

「え? 別に?」
「なんか顔が怖いよ」
「気のせいだよ」

 すぐに視線を逸らす。
 自分でもこの感情の正体がわからない。
 ただ、どうしようもなく落ち着かない。
 息が詰まるような、胸の奥が締めつけられるようなそんな感覚だ。

 ルシアンが他の誰かと笑っているだけで、こんなに胸がざわつくなんてね。
 しかも、相手が職場の同期である由香だ。
 僕は子どもみたいに何を気にしているんだろう。

 僕たちは帰り道にスーパーに寄ることにした。


「やっぱりみにゃと怒ってるよね?」
「そんなことないよ。むしろ、それ以上言ったら怒るよ」

 何度もルシアンが僕に怒っているのか聞いてくるが、別に怒っているわけではない。
 ただ、胸の奥がどうしようもなく重かった。
 まるで喉の奥に言葉が引っかかって、何も出てこないような感覚。

 スーパーの自動ドアが開くと、冷たい空気が頬をなでた。
 ルシアンはいつものようにカゴを持ち、何事もなかったように中へ入っていく。
 その背中を見ているだけで、なんだか遠く感じた。

「みにゃと、今日はホットケーキミックスいる?」
「……うん、そうだね。そういえば、材料から作ったことないよね?」
「へっ? あれが材料じゃないのか?」

 驚くルシアンを見て僕はクスリと笑う。
 いつもはホットケーキミックスを使っていたもんね。

「ホットケーキミックスってプレミックスって言って、簡単に調理できるように混ぜ合わせた粉なんだ」

 僕は小麦粉とベーキングパウダーをカゴに入れる。
 その他の材料は家にあるから問題ないだろう。

「この世界にはこんなに便利なものがたくさんあるんだね」
「それだけ発展しているんだよ」
「もっと良くしないとみにゃと来てくれないか……」

 何気ないやりとりなのに、僕の心はどこか落ち着かない。
 さっきまであんなに楽しそうに笑っていた顔が、頭から離れなかった。
 由香と話していた時のルシアンの表情。
 あんな笑い方、僕の前でもしたことあったっけ。

「みにゃと? どうかした?」
「え? あ、ううん……何でもない」

 慌てて笑顔を作る。ルシアンが話していたことも聞いていなかった。

 ほんと……何やってるんだろう。

 レジの列に並んだとき、ルシアンが僕の横に顔を寄せてきた。
 少し心配そうに眉を寄せながら、声を潜める。

「ねぇ、俺なんか変なことした?」
「……してないよ」
「じゃあ、なんでそんな顔してるの?」
「そんな顔って?」
「泣きそうな顔」

 思わず息が止まる。
 その一言が、胸の奥のざらつきを見透かされたような気がした。

「泣いてなんかないよ」
「うそ。みにゃとは嘘つくと声が少し震えるよ?」
「……っそんなこと気づかなくていいの!」

 顔をそむけると、ルシアンが小さく笑った。
 その笑顔がまた胸を締めつける。
 僕の異変に気づくなんて、嬉しいけど嬉しくない。
 ルシアンだけどんどん成長していく。

「俺、みにゃとが笑ってくれないと落ち着かないんだ」
「……そんなの僕の台詞だよ」

 思わず口から漏れた言葉に自分でも驚いた。
 ルシアンは一瞬目を瞬かせて、ふっと微笑んだ。

「じゃあ、おあいこだね」

 レジの音が鳴る。
 いつもの日常のはずなのに、心の中では何かが静かに崩れ落ちていくような感覚がした。
 僕は財布からお金を出しながら、そっとルシアンの横顔を見た。
 無邪気に笑うその姿が少しだけ遠く感じた。

 こんなのただのやきもちだ。
 そう言い聞かせないと胸が苦しくなる。
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