異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第二章 君は宰相になっていた

30.聖男、心と体の異変

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「湊、相変わらず目の下が真っ黒だよ?」
「ははは、中々寝付けなくてね……」

 僕はいつものように仕事に行き、いつものように看護をする。
 今の僕にしたら、これが一番気持ちが落ち着いて、楽になれているような気がした。

「またルシアンくんのこと考えてたの?」
「ははは、もう何も考えてないよ。さぁ、仕事に戻ろ!」

 口では元気に強がっていても、心と体は正直だ。
 あの日、ルシアンが帰ってから、すでに一年以上が過ぎた。
 学園に通うと言っていたから、しばらく来れないのはわかっている。
 でも、半年が経ち……一年が経っても、ルシアンが姿を現すことはなかった。

 僕の片想いは、伝えることもなく終わってしまった。
 別にそれはそれで構わない。
 ルシアンが元気に生きているのがわかればね。
 毎日ケガばかりしていた姿を見ていたから、心配になってしまう。

「橘さん、ちょっといいかし――」

 誰かが僕を呼んでいる気がする。
 ゆっくり振り向いたはずだが、体が言うことを聞かずにその場に倒れていく。

「橘さん!」

 僕はそのまま動けずに倒れてしまった。
 手足を動かそうとしてもうまく動かない。
 まるで電池が切れたおもちゃのようだ。
 すぐに担架が来て、僕は運ばれていく。
 意識はあるのに頭がボーッとする。
 次第に病棟の看護師が集まり、医師がかけつけた。

「ただの過労だから点滴を処方しておくよ。橘くんを働かせすぎじゃない?」
「いや、しっかり休みはとってもらってますし……」

 ベテランの看護師は医師に問い詰められているようだ。

「橘くんはしばらく休んでから帰りなよ。しばらく体調が戻らないなら、心の問題もあるから気をつけてね」

 そう言って、優しい言葉をかけてくれた医師は仕事に戻った。
 僕の腕には点滴が繋がれて、ゆっくりと体を潤していく。
 そういえば、しばらくご飯を食べていなかったし、水分すらも摂っていなかった。
 それで寝ていなかったら、倒れるのも仕方ない。
 医師は心の問題もあると言っていたが、心の問題しかないのは僕もわかっている。

「湊、大丈夫……?」

 寝ている僕を心配して、由香が顔を出した。
 僕が笑いながら手を振ると、なぜか由香の顔は辛そうにしていた。

「ねぇ、しばらく仕事を休んだらどう? リフレッシュしたら気持ちも変わるよ?」
「そうだね……」

 由香は僕がルシアンをどう思っているのか、きっと気づいているだろう。
 ただ、自分から何か言うわけでもなく、話をずっと聞いてくれている。
 さすが看護師だね。傾聴のプロだ。
 僕はそのまま由香の提案を受け入れて、しばらく休職することにした。



「いただきます」

 僕はホットケーキを作って、一人でゆっくりと食べていく。
 あれから少しずつ元気になってきた。
 だけど、ぽっかり空いた気持ちは塞がらないままだ。

「今日……帰る日だったのか……」

 パソコンのカレンダーにはルシアンの予定が書いてあった。
 映画でも見ようかとつけたパソコンにも、ルシアンとの思い出が詰まっていた。

「はぁー、今日で考えるのは終わりにしよう」

 僕はそう思い、ふとルシアンが唱えていた呪文を口ずさむ。

「セレノア・ヴェルン・ラグナ・フィオーレ……だったかな?」

 なぜか最後に帰っていくときだけ、はっきり言葉が聞こえたんだよね。
 まぁ、こんなことを言っても、何かが起こるわけでも――。

 周囲にふわりと風が舞い上がり、僕の周りに集まっている。

「まさかこれって……」

 その瞬間、眩い光が僕を襲う。
 思わずグッと目をつぶって、しばらくその場で待ってみる。
 ルシアンの世界に行く。
 それはどこかで夢見ていたことでもある。
 ただ、絶対に叶うことのない夢。
 今だけでもそんな気分を味わいたかった。

「ルシアンは元気なのかな……」
「ルシアン様のお知り合いですか?」
「へっ……!?」

 突然、声をかけられて僕は驚いた。
 だって自分の部屋には誰一人もいないはず。
 ゆっくり目を開けると、黒い髪に糸目の男性が立っていた。

「誰ですか……?」

 どことなく危なそうな、でもどこか優しさを感じるような笑みを男性は浮かべていた。
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