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第二章 君は宰相になっていた
33.聖男、マヨネーズ問題を解決する
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「二人とも手の消毒はちゃんとしておいてね」
洗った手を出したルシアンとアシュレイに持ってきてもらった酒を振りかけようとしたが、ルシアンはなぜかアシュレイは睨んでいた。
「くくく、嫉妬心剥き出しのルシアン様は初めて見ましたよ」
そう言って、アシュレイは手を戻す。
「アルコール消毒は必須だからね」
かなりアルコール度数が高いものを持ってきてもらったが、何も消毒しないよりはマシだろう。
僕はルシアンにアルコールをかけると、すぐにアシュレイの手を掴んでアルコールをかける。
「なんでお前までみにゃとにかけてもらうんだ?」
「みんなもかけてもらってますよ?」
その後もメイドや執事にもかけていく。
窓も開けているから空気の入れ替えもできているし、僕のマネをして布をマスクみたいにしているから、よほどのことがなければ問題ない。
チラッとルシアンを見ると、どこか心配そうな顔をしていた。
これでも看護師だから、そんなに心配しなくても大丈夫なのに……。
僕もアルコール消毒して、すぐに騎士が嘔吐物で誤嚥しないように体の向きを変えていく。
「オェ……」
「気持ち悪いものは全て吐き出してくださいね」
優しく背中を撫でると、少しホッとしたのか落ち着いた顔をしていた。
桶に吐いた嘔吐物はすぐに捨てて、洗ってから消毒して乾かす。
その間に違う桶を持ってすぐに騎士に駆け寄る。
「大丈夫ですか。経口補水液もすぐに完成するので、待っててくださいね」
経口補水液は材料を持ってきたアシュレイたちに任せている。
水にレモンなどの柑橘類と砂糖や塩を入れれば簡易的なものが作れる。
回復薬というものを飲ませるぐらいなら、経口補水液で水分摂取だけを済ませればきっと落ち着くだろう。
騎士の話では、マヨネーズを食べてからそこまで時間は経っていないから、重症になる人も少ないはず。
僕は優しく騎士の背中を摩っていると、突然手が止められる。
「そこまでしなくても大丈夫だ。こいつらそんなにひ弱じゃない」
ルシアンが僕の腕を握っていた。
前に会った時にはすでに大きかった手が、さらに大きくなっている。
僕の腕なんて一捻りだ。
それなのに痛みを全く感じないのは、ルシアンが優しく掴んでくれているからだろう。
「相変わらず優しいね。でも、看護は僕の仕事だから大丈夫」
僕は優しく微笑むと、すぐに違う騎士へと駆け寄る。
桶を持ってきて、洗っては桶を運んで……何度も繰り返すと、アシュレイが瓶に経口補水液を作って持ってきた。
「言われた通りに作ってみました」
アシュレイから経口補水液を受け取ると、一口飲んでみる。
少しだけ甘い気もするが、今は仕方がないだろう。
「これを飲んで――」
「それは俺がやる」
ルシアンが僕の手からコップを奪い、別のコップに移して騎士に差し出した。
どうやら、飲ませるのを止めたいわけではないらしい
「一口で良いので飲んでくださいね」
「あぁ……」
騎士は一口飲むと、またすぐに吐いてしまった。
どうやらまだ、嘔吐反射が働いているようだ。
「おい、お前――」
「ルシアン!」
ルシアンが不穏な言葉を口にしようとしたので、慌てて止める。
だが、名前を呼んだらルシアンはどこか嬉しそうに笑っていた。
その顔を見ると、全身の力が抜けてしまいそうだ。
「置いておくので、また飲めそうなら少しだけでもいいのでお願いします」
すべての騎士に補水液を配り終えた頃には、嘔吐の声も止まり、部屋に静けさが戻っていた。
だが今度は、周囲からの視線が僕に集まる。
「あの人は誰なんだ……」
「聖職者を冒涜する者に違いない」
「ルシアン様がいなければ……」
そのほとんどが白い服を着た者たちから聞こえてくる。
ルシアンが「彼の指示に従え」と声を張ってくれなければ、誰も動かなかっただろう。
結局、協力してくれたのはアシュレイとメイドや執事たちだけ。
この世界の医療者は、僕をただ異質な存在として見ていた。
きっと僕に対してあまり良い印象がないのだろう。
突然知らない人が来て、その人に従えって言われたら僕もそうなってもおかしくない。
「無事にどうにかなってよかったね」
「みにゃとのおかげだな」
僕はルシアンの顔を見ると、全身の力がふっと抜ける。
そのままよろけた僕をルシアンがしっかりと抱きとめた。
「おっと……みにゃと小さくなったな」
「ふふふ、ルシアンが大きくなっただけだよ」
その笑顔はあの頃と変わらない。
ただ、今は僕よりもずっと高い位置にある。
肩に感じる腕は逞しく、彼の成長を痛いほどに実感させられる。
身長は頭一つ分は違うから、190センチメートルぐらいはあるのだろう。
そもそもこの世界の人は大きい人が多いからね。
「もしかして、僕って子どもだと思われてる……?」
「んー、みにゃとの見た目なら……否定はできないな」
軽く笑い合うと、ようやく緊張が解けていった。
やっぱり僕の指示に従えなかったのは、そこが問題なんだろう。
ルシアンが最後に来た時は確か10歳前後だった。
今は僕もそれぐらいの歳の子どもだと思われていそうだな。
「えーっと……ルシアンも僕のこと子どもだと思ってない?」
ルシアンはいつになったら離してくれるのだろうか。
そのまま抱きかかえて運ぶつもりだろうか。
「足がケガしたらいけないからな」
そういえば、靴を履いていなかったのを忘れていた。
「じゃあ、お願いするね」
「へへへ、任せておけ!」
笑った顔はやっぱり子どものルシアンと同じ笑顔だった。
ただ、ルシアンが笑うたびにアシュレイ以外は震えていた。
洗った手を出したルシアンとアシュレイに持ってきてもらった酒を振りかけようとしたが、ルシアンはなぜかアシュレイは睨んでいた。
「くくく、嫉妬心剥き出しのルシアン様は初めて見ましたよ」
そう言って、アシュレイは手を戻す。
「アルコール消毒は必須だからね」
かなりアルコール度数が高いものを持ってきてもらったが、何も消毒しないよりはマシだろう。
僕はルシアンにアルコールをかけると、すぐにアシュレイの手を掴んでアルコールをかける。
「なんでお前までみにゃとにかけてもらうんだ?」
「みんなもかけてもらってますよ?」
その後もメイドや執事にもかけていく。
窓も開けているから空気の入れ替えもできているし、僕のマネをして布をマスクみたいにしているから、よほどのことがなければ問題ない。
チラッとルシアンを見ると、どこか心配そうな顔をしていた。
これでも看護師だから、そんなに心配しなくても大丈夫なのに……。
僕もアルコール消毒して、すぐに騎士が嘔吐物で誤嚥しないように体の向きを変えていく。
「オェ……」
「気持ち悪いものは全て吐き出してくださいね」
優しく背中を撫でると、少しホッとしたのか落ち着いた顔をしていた。
桶に吐いた嘔吐物はすぐに捨てて、洗ってから消毒して乾かす。
その間に違う桶を持ってすぐに騎士に駆け寄る。
「大丈夫ですか。経口補水液もすぐに完成するので、待っててくださいね」
経口補水液は材料を持ってきたアシュレイたちに任せている。
水にレモンなどの柑橘類と砂糖や塩を入れれば簡易的なものが作れる。
回復薬というものを飲ませるぐらいなら、経口補水液で水分摂取だけを済ませればきっと落ち着くだろう。
騎士の話では、マヨネーズを食べてからそこまで時間は経っていないから、重症になる人も少ないはず。
僕は優しく騎士の背中を摩っていると、突然手が止められる。
「そこまでしなくても大丈夫だ。こいつらそんなにひ弱じゃない」
ルシアンが僕の腕を握っていた。
前に会った時にはすでに大きかった手が、さらに大きくなっている。
僕の腕なんて一捻りだ。
それなのに痛みを全く感じないのは、ルシアンが優しく掴んでくれているからだろう。
「相変わらず優しいね。でも、看護は僕の仕事だから大丈夫」
僕は優しく微笑むと、すぐに違う騎士へと駆け寄る。
桶を持ってきて、洗っては桶を運んで……何度も繰り返すと、アシュレイが瓶に経口補水液を作って持ってきた。
「言われた通りに作ってみました」
アシュレイから経口補水液を受け取ると、一口飲んでみる。
少しだけ甘い気もするが、今は仕方がないだろう。
「これを飲んで――」
「それは俺がやる」
ルシアンが僕の手からコップを奪い、別のコップに移して騎士に差し出した。
どうやら、飲ませるのを止めたいわけではないらしい
「一口で良いので飲んでくださいね」
「あぁ……」
騎士は一口飲むと、またすぐに吐いてしまった。
どうやらまだ、嘔吐反射が働いているようだ。
「おい、お前――」
「ルシアン!」
ルシアンが不穏な言葉を口にしようとしたので、慌てて止める。
だが、名前を呼んだらルシアンはどこか嬉しそうに笑っていた。
その顔を見ると、全身の力が抜けてしまいそうだ。
「置いておくので、また飲めそうなら少しだけでもいいのでお願いします」
すべての騎士に補水液を配り終えた頃には、嘔吐の声も止まり、部屋に静けさが戻っていた。
だが今度は、周囲からの視線が僕に集まる。
「あの人は誰なんだ……」
「聖職者を冒涜する者に違いない」
「ルシアン様がいなければ……」
そのほとんどが白い服を着た者たちから聞こえてくる。
ルシアンが「彼の指示に従え」と声を張ってくれなければ、誰も動かなかっただろう。
結局、協力してくれたのはアシュレイとメイドや執事たちだけ。
この世界の医療者は、僕をただ異質な存在として見ていた。
きっと僕に対してあまり良い印象がないのだろう。
突然知らない人が来て、その人に従えって言われたら僕もそうなってもおかしくない。
「無事にどうにかなってよかったね」
「みにゃとのおかげだな」
僕はルシアンの顔を見ると、全身の力がふっと抜ける。
そのままよろけた僕をルシアンがしっかりと抱きとめた。
「おっと……みにゃと小さくなったな」
「ふふふ、ルシアンが大きくなっただけだよ」
その笑顔はあの頃と変わらない。
ただ、今は僕よりもずっと高い位置にある。
肩に感じる腕は逞しく、彼の成長を痛いほどに実感させられる。
身長は頭一つ分は違うから、190センチメートルぐらいはあるのだろう。
そもそもこの世界の人は大きい人が多いからね。
「もしかして、僕って子どもだと思われてる……?」
「んー、みにゃとの見た目なら……否定はできないな」
軽く笑い合うと、ようやく緊張が解けていった。
やっぱり僕の指示に従えなかったのは、そこが問題なんだろう。
ルシアンが最後に来た時は確か10歳前後だった。
今は僕もそれぐらいの歳の子どもだと思われていそうだな。
「えーっと……ルシアンも僕のこと子どもだと思ってない?」
ルシアンはいつになったら離してくれるのだろうか。
そのまま抱きかかえて運ぶつもりだろうか。
「足がケガしたらいけないからな」
そういえば、靴を履いていなかったのを忘れていた。
「じゃあ、お願いするね」
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笑った顔はやっぱり子どものルシアンと同じ笑顔だった。
ただ、ルシアンが笑うたびにアシュレイ以外は震えていた。
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