異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第二章 君は宰相になっていた

50.聖男、勘違いが生む誤解に戸惑う

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「そういえば治癒士ってどんな仕事をするの?」

 僕は少年に治癒士のことを聞くことにした。
 この世界の医療がどこまで発展しているのか聞くためにも、関わっている人の方がよく知っているからね。

「お前……そんなことも知らないのか?」

 不思議そうな顔で見つめ返されてしまった。
 ここは治療室だから……病院にきて医者って何をするのか聞いているようなものだもんね。

「こんなこと聞いてごめんね」
「あっ……いや、治療士は治癒魔法で治すのが仕事だな」
「治癒魔法?」
「むしろそれしか考えられないだろ」

 聞いたこともない言葉に僕は首を傾げる。
 この世界に魔法があるのは気づいてはいるが、治癒魔法というものが存在しているのだろう。

「治癒魔法ってどうやって使うの?」
「ああ、俺が見せてやるよ」

 そう言って、少年は机の引き出しからナイフを取り出して自身の腕を勢いよく斬りつけた。

「くっ……」

 なんでそんなところからナイフが出てきたのか驚く隙もなく、目の前の衝撃的な光景に息を呑んだ。
 ただ、そんな自傷行為を僕が許すわけがない。

「何してるの!」
「えっ……お前が治癒魔法が見たいって――」
「誰も自分を傷つける人なんて見たくないよ! 大事な体なんだからそんなことしないで!」
「大事な体……」

 僕はすぐに服を脱いで止血圧迫をする。
 それでも中々血が止まらないから、腕を上げてベッドの上に押さえつける。

「大丈夫? 気持ち悪くなったり、フワッとする感覚はない?」

 血を見たり、急激な痛みによって迷走神経反射で心拍数や血圧が急激に下がることがある。
 そのまま気絶することってよくあるからね。
 ただ、少年と目が合うと顔を真っ赤にしていた。

「大丈夫……。むしろドキドキしてる」
「ドキドキ!?」

 脈に触れると確かに脈拍は速くなっていた。
 強い痛みで交感神経が優位になっているのかな? 
 ただ、不整脈があるわけでもないし、少しだけ息が荒くなっている程度だ。
 段々と少年は僕に顔を近づけてくる。

「みにゃと、休憩に――」

 そんな中、扉が開く音とともに誰かが部屋に入ってきた。
 チラッと振り返ると、そこにはルシアンが立っていた。
 ちょうど良かった。
 止血するにも自傷行為をする人を押さえつけるにも一人では大変だからね。

「ルシアン助け――」
「おい、みにゃとに何をしたんだ!」

 急に体がふわりと浮くと少年から引き剥がされていた。
 ルシアンは少年の首を押さえつける。

「うっ……」

 次から次へと起こることに僕の頭もついていけない。
 僕はルシアンに手伝ってもらえるように助けを求めただけだ。
 それにことの始まりは治癒士について聞いただけなのに、なんでこんなことになるのだろうか。

「ルシアンストップ! その人はケガ人だよ!」
「ああ、ケガ人か。それならそのまま死ねばいい」

 あれ? ルシアンってこんな野蛮な子だったっけ?
 ルシアンの目から、いつもの理性がすっと消えるのがわかった。
 いつものようなルシアンの優しさはなくなり、人の温度を失った目をしていた。
 それに少年は息もできないのか苦しそうにしている。
 このままだと止血どころか死んでしまうだろう。
 ひょっとしたら止血したことで、僕の手にも少し血がついたことで、ケガをしたと思っているのかもしれない。

「ルシアンダメだって! ほら、僕を見て! ケガはしてないよ!」

 僕はルシアンに手を見せる。
 うん、うまいこと血液曝露もしていない。
 血液って感染リスクも高いから、なるべく素手では触りたくないもんね。
 これならルシアンも普段のように戻るだろう。
 ただ、ルシアンは僕の手を超えて、僕の方を見ていた。

「乳首……」
「ん? どうした?」

 僕は自分の体を見ると、服を着ていないことに気づいた。
 そういえば、自分の服を使って止血していたもんね。

「やっぱりこいつを殺す!」
「ええ!? ちょっと待った!」

 やっと感情が戻った目をしたと思ったら、その感情は怒りを超えて、明確な殺意になった。
 さっきまでとは異なり、理性は戻ってきたがよほど危険に見える。

「ルシアンストップ!」

 どうすることもできず、僕は少年とルシアンの間にそのまま入った。
 もう止めるには体で受け止めるしかない。
 こんなにすぐに頭に血が上る人が宰相をやっていたこの国は問題ないのだろうか。
 小さい頃からルシアンを知っているからこそ、もっと心配になってくる。
 それに僕よりも大きな体に潰されるこっちの気持ちも考えて欲しいものだ。

「これ以上するならルシアンのこと嫌いになるよ!」
「えっ……」

 その言葉にルシアンはやっと止まった。
 ゆっくり視線を上げると、なぜかルシアンは悲しそうな顔をしてこっちを見ている。

「みにゃと……俺のこと嫌いにならないで?」

 急に出会った時のようなルシアンに戻り僕も驚いた。
 少年を押さえつけていた手は今度は僕をギュッと抱きしめる。

「俺はみにゃとに嫌われると生きていけない」

 まさかそこまで思っているとは気づかなかった。
 さすがに僕も自惚れていいのだろうか。
 そう思いながら僕も抱きしめ返そうかと思ったが、手を洗っていないことに気づいた。
 目に見えていないだけで、どこかに血がついているかもしれないからね。

「みにゃとが抱きしめてくれない……」
「ルシアン離して!」
「嫌だ! 俺はみにゃとを離さない!」

 大きくなってもルシアンは全く変わらないね。
 呆れるを通り越して、もはや可愛く見えてくるのは僕だけだろうか。

「ルシアン、聞いて。僕は今彼の血で汚れているから、ルシアンも汚れちゃうでしょ?」
「なら俺の血で汚せばいいか?」
「いやいや! とりあえず剣は鞘に戻そうね!」

 剣を抜いた時は僕がヒヤッとしたわ。
 今のルシアンなら本当に自分を斬りそうな勢いだからね。

「血はあまり綺麗って言われてないからね。まずは洗い流した方が――」
「それなら今から風呂に連れていく」
「へっ……?」

 そう言ってルシアンは僕をどこかに運んでいく。
 チラッと少年の方を見ると彼も驚いて目を丸くしていた。
 ただ、彼の時間とともに腕の血も止まっているようで少し安心した。

✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
【あとがき】

気づいたら50話になっていました。
どこまで続くのだろうか……早くくっついてイチャコラしてくれよ!笑
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