異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第二章 君は宰相になっていた

51.聖男、見知らぬ人に出会う

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 僕はそのままルシアンに運ばれていく。
 まさか本当にお風呂に連れていく気だろうか。

「ルシアン、仕事は?」
「うっ……」 
「休憩って言ってるぐらいだから終わってないんだよね?」
「いや……今日は別に仕事を休んでも――」

 その場でルシアンは止まり狼狽えていた。
 やっぱり抜け出してきたようだ。

「アシュレイさーん! ルシアンここにいます!」
「ちょ……みにゃ――」
「やっぱりミナトさんのところにいましたか」
「うぉ!?」
「わっ!?」

 どこからともなく姿を現し、いつのまにか僕たちの目の前にアシュレイさんが立っていた。
 本当に忍者みたいで一瞬で出てくるから驚いてしまう。

「ルシアン様、仕事に戻りますよ」
「死んでも俺は戻らんぞ!」
「「はぁー」」

 僕とアシュレイさんはお互いにため息をつく。
 宰相になるぐらいだから、きっと僕が来る前はちゃんと仕事をしていたのだろう。
 僕と会ったからか昔のルシアンに戻ったのかもしれない。

「ミナトさんの好みの人はどんな人ですか?」
「僕ですか……?」

 アシュレイさんは僕の方を見て好みのタイプを聞いてきた。
 きっと僕の回答次第ではルシアンが仕事に戻るかどうかがかかっているのだろう。
 チラッとルシアンの方を見ると、ジーッと僕を見つめていた。

「僕は仕事ができる人が好き――」
「アシュレイ、戻るぞ!」

 そう言って、ルシアンは僕を置いてその場を去っていく。
 アシュレイさんは深々とお辞儀をして、ルシアンを追いかけていった。

「さぁ、僕も戻って……ここどこだ?」

 周囲を見渡してみるが、今どこにいるのだろうか。
 同じ道を通っていたからルシアンの執務室や食堂は覚えてはいる。
 ただ、お風呂場には行ったことがないため、今いる廊下の位置関係がわからない。
 来た方に戻るか、ルシアンたちを追いかけるか――。

「とりあえず、ルシアンたちが歩いた方に行ってみるか」

 後ろを振り返ると、すでに道が複雑になっていたため、僕もルシアンたちが歩いた方に向かっていく。

「なんか……人もいないし、扉も減ってきたな……」

 しばらく歩くと見慣れた光景になるかと思ったが、全く知らない場所に来ていた。
 窓から外を覗くと、おじいさんがベンチに腰掛けていた。
 きれいな庭園でも見ているのだろう。
 僕は道を聞こうとゆっくりと近づく。

「わしに何のようかね?」
「へっ!?」

 僕が声をかける前に気づいたのか、声をかけてきた。
 ただ、振り返ることもなく、気づいたことに驚いた。

「迷子になってしまって……ルシアン……宰相の執務室か食堂の場所を教えてもらえませんか?」
「んっ? 宰相と食堂……?」
「僕が知ってるのはその二つなので……」

 おじいさんはしばらく黙り込むと、ベンチをトントンと手で叩いた。

「道が聞きたければ、少しばかりわしの話に付き合ってくれないか?」

 すでに昼食の準備はしているし、騎士たちも訓練に行っているぐらいだから、僕の仕事は特にないだろう。
 それに急いでも帰り道がわからないしね。

「いいですよ!」

 僕はゆっくりと隣に座る。
 ただ、話すこともなく静かな空気が流れていく。

「ふわぁー」

 花の香りが心地好く、ついついあくびが出てしまった。

「眠たくなったんか?」
「久しぶりにゆっくりしました」

 何も考えずに、ただボーッと息だけをする。
 この世界に来てこんなに何も考えない日はあっただろうか。
 毎日ドタバタしているし、ルシアンの成長にドキドキしっぱなしだしね。

「そうか……。君は少し珍しい子だね」
「珍しいですか?」

 僕は見られている気がして、チラッと視線を向けると柔らかな笑みを浮かべておじいさんはこっちを見ていた。
 おじいさんというには少し若いだろう。
 ただ、僕はおじいさんの瞳の色が気になった。

「おじいさんは……目が見えないんですか?」
「なんでわかるんだい?」
「いや……目の水晶体が濁っているので……」

 僕が近づいた時も、こっちを見ないためまるで気配を感じていたような気がした。
 話す時も僕の方を見るわけでもなく、ただ一点をずっと見つめている。
 正確にいえば見えないから、同じところを見るしかなかったのだろう。

「君は物知りだね」
「それぐらいはわかりますよ」

 白内障といえば高齢になれば、大体の人が発症する病気だ。
 早い人は40代でも手術したりする。
 おじいさんが見えないままで生活しているってことは、治療方法がないのだろう。
 麻酔があるのかもわからない中で目に傷を入れて水晶体を除去したり、退かしたりはできない。
 魔法があっても、目だけは繊細すぎて手が出せないのかもしれない。

「でもどうやって僕がくるのがわかったんですか?」
「風が教えてくれるからね」

 おじいさんはそう言うと、冷たい風が全身を優しく包んでいく。
 風の流れで僕の居場所に気づいたのだろう。
 さすが魔法がある世界は常識が全く違うね。

「話に付き合ってくれてありがとう。きっと道は風が教えてくれるだろう」

 僕の体がふわりと浮くと、そのまま風に乗るように足が動いていく。
 お礼を伝えようと振り返るが、そこにはすでに誰もいなかった。
 あの人は誰なんだろうか。
 ルシアンに会った時にまた聞いてみよう。

 


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