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第二章 君は宰相になっていた
52.聖男、役目を終える
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風に身を任せて、背中を押されるように歩いていると治療室の前に戻ってきていた。
チラッと覗くと見習い治療士の彼の姿はなく、誰もいなくなっていた。
「騎士たちを見に行こうかと思ったんだけどな……」
食堂かルシアンの執務室……いや、ルシアンの仕事を邪魔したらいけないな。
「おい、お前こんなところで何してるんだ?」
「あっ、いた!」
背後から声が聞こえ振り向くと、そこには治療士の少年が立っていた。
彼なら騎士たちの訓練場なら知っているだろう。
だが、僕はすぐに腕を掴んで袖をまくり、気になっていたことを確認する。
「ななななんだ!?」
「ふー、傷が残らなくてよかったね」
あれだけ深く傷をつけていたが、魔法のおかげか傷口は綺麗に消えていた。
血が出ている様子もなくホッとした。
ルシアンに連れて行かれた時に、チラッと見えただけでしっかり止血できているのか心配だった。
「ああ、俺もこんなに綺麗になってびっくりした」
「……へっ?」
言っている意味がわからず僕は首を傾げる。
「普段なら多少は傷跡が残るんだけどな。応急処置が早かった――」
「君はバカですか?」
「なっ……」
「傷跡が残ることをあんなにしないでください! もっと自分の体を大事にしないとダメですよ」
今回はしっかり止血したから魔法の効果がうまく作用したのかもしれない。
結果的にはよかったが、僕がこの世界の医療が気になったからって腕に大きな傷跡を残されたら、たまったもんじゃない。
「わっ……わかったよ!」
少年は僕の腕を振り払うようにして、どこかへ歩いていく。
「どこに行くんですか?」
「訓練場に行くんだろ!」
振り返った顔はなぜか赤くなっていた。
どうやら僕の独り言を聞いていたのだろう。
治療士の少年について行きながら、訓練場を目指す。
「自分を大事にか……」
ただ、声をかけても静かに呟いており、何も反応がない。
「そんなこと考えたことも――」
「おーい!」
「ななな、なんだよ!」
大きな声で話しかけるとやっと反応した。
ずっと考えごとをしていたのだろう。
「ここまでありがとうございます!」
僕は彼にお礼を伝えて走り出す。
目的地の訓練場に到着したのだ。
廊下にいても騎士たちのかけ声が響いてくる。
「本当に元気なんだ……」
騎士たちは剣を片手に素振りをしていた。
先頭には騎士団長であるヴォルフラムさんが厳しい目つきで太刀筋を見ていた。
「お前ら弛んでいるぞ!」
「「「はい!」」」
訓練場に騎士たちの声が響く。
やはり騎士と言われているだけのことはある。
パッと見た感じでは、全員問題なく元気そうだ。
「ほら、元気だって言っただろ?」
「仕事だから自分の目で確かめないわけにはいかないからね」
しばらく訓練を眺めていると、騎士たちも僕の存在に気づいたのだろう。
手を振ったりとやたら反応が返ってくる。
そんなことをしていたら――。
「お前らサボるな!」
「「「はい!」」」
僕のせいで怒られてしまった。
周囲を見ても見学しているのは僕たちだけだからね。
だけど、元気そうな姿を見て一安心した。
これで僕の仕事も解放されるだろう。
訓練場を離れ、城内の廊下を歩いていると、前の方から治療士たちが並んで歩いてくるのが見えた。
白い法衣を揺らしながら、迷いのない足取りで進むその姿に見習い治療士の少年が僕の手を掴み廊下の端に移動する。
「やっぱりかっこいいな」
前を通っていく治療士に少年は目を輝かせていた。
治療士に憧れているのがすぐにわかる。
きっと医者に憧れる子どもみたいなものなんだろう。
そんなふうに思った直後、治療士は立ち止まり、視線が僕に向いた。
少しずつ近づいてくると、空気がわずかに硬くなる。
「治療士様、こんにちは!」
「ああ、こんにちは!」
胡散臭い笑顔で会話をしているが、視線はまだ僕に向いたままだ。
それに気づいたのか少年は僕を軽く突く。
きっと挨拶をしろと言いたいのだろう。
僕は軽く頭を下げると、治療士は蔑むような目で僕を見ていた。
「偶然騎士が治ってよかったな」
淡々とした口調だったが、その言葉には棘があった。
褒めているようで評価していない。
まるで僕が間違ったことをしていると言っているようなものだ。
「偶然……ですか?」
思わず僕はそう返していた。
治療士は口元だけをわずかに歪める。
「ああ。正規の治療でもない、記録にも残らない方法でな」
「それは単に勉強が足りないだけではないですか?」
これでもちゃんと勉強はしてきたし、国家資格は持っている。
しかも、魔法がない国だからこそ、ちゃんとした科学的根拠で学んでいる。
「ふん、結果が出たから許されただけだ。次も同じとは限らない」
さっきまで輝いていた目をした治療士見習いの少年の瞳が少しだけ揺らぐ。
「宰相に気に入られているからって余計なことをするな」
そう言い残し、彼は他の治療士たちとともに歩き去っていった。
白い法衣が遠ざかっていくなか、コツコツと靴が地面を蹴る音だけが残る。
「……」
見習い治療士の少年は、しばらくその背中を見つめていた。
「お前は何をしたんだ?」
「気にしなくていいよ!」
治療士を目指している少年の邪魔をするつもりはない。
彼は彼なりに治療士になりたくて勉強している。
それを異世界から来た僕が邪魔をするわけにはいかないからね。
「じゃあ、僕は戻るね!」
そう伝えて僕は歩き出す。
今後、治療士とは関わらない方が良いだろう。
騎士も治っているから、僕が何かすることはないからね。
「……おい!」
僕はそれ以上話すことなく、ルシアンの執務室に戻ることにした。
チラッと覗くと見習い治療士の彼の姿はなく、誰もいなくなっていた。
「騎士たちを見に行こうかと思ったんだけどな……」
食堂かルシアンの執務室……いや、ルシアンの仕事を邪魔したらいけないな。
「おい、お前こんなところで何してるんだ?」
「あっ、いた!」
背後から声が聞こえ振り向くと、そこには治療士の少年が立っていた。
彼なら騎士たちの訓練場なら知っているだろう。
だが、僕はすぐに腕を掴んで袖をまくり、気になっていたことを確認する。
「ななななんだ!?」
「ふー、傷が残らなくてよかったね」
あれだけ深く傷をつけていたが、魔法のおかげか傷口は綺麗に消えていた。
血が出ている様子もなくホッとした。
ルシアンに連れて行かれた時に、チラッと見えただけでしっかり止血できているのか心配だった。
「ああ、俺もこんなに綺麗になってびっくりした」
「……へっ?」
言っている意味がわからず僕は首を傾げる。
「普段なら多少は傷跡が残るんだけどな。応急処置が早かった――」
「君はバカですか?」
「なっ……」
「傷跡が残ることをあんなにしないでください! もっと自分の体を大事にしないとダメですよ」
今回はしっかり止血したから魔法の効果がうまく作用したのかもしれない。
結果的にはよかったが、僕がこの世界の医療が気になったからって腕に大きな傷跡を残されたら、たまったもんじゃない。
「わっ……わかったよ!」
少年は僕の腕を振り払うようにして、どこかへ歩いていく。
「どこに行くんですか?」
「訓練場に行くんだろ!」
振り返った顔はなぜか赤くなっていた。
どうやら僕の独り言を聞いていたのだろう。
治療士の少年について行きながら、訓練場を目指す。
「自分を大事にか……」
ただ、声をかけても静かに呟いており、何も反応がない。
「そんなこと考えたことも――」
「おーい!」
「ななな、なんだよ!」
大きな声で話しかけるとやっと反応した。
ずっと考えごとをしていたのだろう。
「ここまでありがとうございます!」
僕は彼にお礼を伝えて走り出す。
目的地の訓練場に到着したのだ。
廊下にいても騎士たちのかけ声が響いてくる。
「本当に元気なんだ……」
騎士たちは剣を片手に素振りをしていた。
先頭には騎士団長であるヴォルフラムさんが厳しい目つきで太刀筋を見ていた。
「お前ら弛んでいるぞ!」
「「「はい!」」」
訓練場に騎士たちの声が響く。
やはり騎士と言われているだけのことはある。
パッと見た感じでは、全員問題なく元気そうだ。
「ほら、元気だって言っただろ?」
「仕事だから自分の目で確かめないわけにはいかないからね」
しばらく訓練を眺めていると、騎士たちも僕の存在に気づいたのだろう。
手を振ったりとやたら反応が返ってくる。
そんなことをしていたら――。
「お前らサボるな!」
「「「はい!」」」
僕のせいで怒られてしまった。
周囲を見ても見学しているのは僕たちだけだからね。
だけど、元気そうな姿を見て一安心した。
これで僕の仕事も解放されるだろう。
訓練場を離れ、城内の廊下を歩いていると、前の方から治療士たちが並んで歩いてくるのが見えた。
白い法衣を揺らしながら、迷いのない足取りで進むその姿に見習い治療士の少年が僕の手を掴み廊下の端に移動する。
「やっぱりかっこいいな」
前を通っていく治療士に少年は目を輝かせていた。
治療士に憧れているのがすぐにわかる。
きっと医者に憧れる子どもみたいなものなんだろう。
そんなふうに思った直後、治療士は立ち止まり、視線が僕に向いた。
少しずつ近づいてくると、空気がわずかに硬くなる。
「治療士様、こんにちは!」
「ああ、こんにちは!」
胡散臭い笑顔で会話をしているが、視線はまだ僕に向いたままだ。
それに気づいたのか少年は僕を軽く突く。
きっと挨拶をしろと言いたいのだろう。
僕は軽く頭を下げると、治療士は蔑むような目で僕を見ていた。
「偶然騎士が治ってよかったな」
淡々とした口調だったが、その言葉には棘があった。
褒めているようで評価していない。
まるで僕が間違ったことをしていると言っているようなものだ。
「偶然……ですか?」
思わず僕はそう返していた。
治療士は口元だけをわずかに歪める。
「ああ。正規の治療でもない、記録にも残らない方法でな」
「それは単に勉強が足りないだけではないですか?」
これでもちゃんと勉強はしてきたし、国家資格は持っている。
しかも、魔法がない国だからこそ、ちゃんとした科学的根拠で学んでいる。
「ふん、結果が出たから許されただけだ。次も同じとは限らない」
さっきまで輝いていた目をした治療士見習いの少年の瞳が少しだけ揺らぐ。
「宰相に気に入られているからって余計なことをするな」
そう言い残し、彼は他の治療士たちとともに歩き去っていった。
白い法衣が遠ざかっていくなか、コツコツと靴が地面を蹴る音だけが残る。
「……」
見習い治療士の少年は、しばらくその背中を見つめていた。
「お前は何をしたんだ?」
「気にしなくていいよ!」
治療士を目指している少年の邪魔をするつもりはない。
彼は彼なりに治療士になりたくて勉強している。
それを異世界から来た僕が邪魔をするわけにはいかないからね。
「じゃあ、僕は戻るね!」
そう伝えて僕は歩き出す。
今後、治療士とは関わらない方が良いだろう。
騎士も治っているから、僕が何かすることはないからね。
「……おい!」
僕はそれ以上話すことなく、ルシアンの執務室に戻ることにした。
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