【恋愛ミステリ】エンケージ! ーChildren in the bird cageー

至堂文斗

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十二章 ヒカル六日目

真実 ②'

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 僕らは十分ほど歩いて、黄地家に到着した。ガラリと戸を開け、

「おじゃましますー……」
「おじゃましまーす」

 二人で声を合わせて挨拶する。するとすぐに、リビングからタロウたちの両親、カズさんとユメさんが出てきた。

「ああ……こんにちは、ヒカルくん、クウちゃん」
「待ってたわ。……色々と迷惑をかけているみたいね」
「ああ、いえ。そんなことはないんですけど……」

 むしろ色々と詮索してきたのはこちら側なのだ。僕の方が、迷惑をかけているかもしれないと思っているのだが。

「まあ、とにかく子ども部屋に。そこで、タロウたちとコウさんが待っている」
「分かりました。ありがとうございます」
「それじゃ、失礼します」

 軽く頭を下げて、僕らは家に上がり込む。
 子供部屋の扉を開けると、灰色のカーペットが敷かれた部屋に、タロウとジロウくん、そしてコウさんの三人が座っていた。皆、待ってましたとばかりに、

「おう」
「おっ、二人とも来た来たー!」
「ああ、ヒカル、クウちゃん、待ってたよ」

 と、各々歓迎の言葉をくれた。

「こんにちは」
「どもども」

 空いている場所を見つけて、僕らが座り込むと、さて、とコウさんは咳払いをして、

「昨日は中途半端なところで切り上げて、すまなかったね。今日はちゃんと全部聞いてもらうよ。明日のために、そうしないといけないからね」
「中々寝付けませんでしたよ、昨日は」
「私はそうでもないけど……」
「まあ、クウは」
「やっぱり私も寝れなかったです」
「……はは」

 馬鹿にされたくないとばかりに、あっさり手のひらを反すクウに、コウさんは苦笑した。

「さて、名残惜しいが、俺たちはそろそろ出発しよう」
「はーい。ちょっとの間、お別れだね」

 タロウとジロウくんはそう言うと、ゆっくりと立ち上がる。そしてタロウは、勉強机に置かれていた大きな鍵を手に取り、ポケットへしまった。

「お別れ? どこ行くの?」

 クウが聞くのに、コウさんが答える。

「昨日、三人で話し合ったんだけどね。地の檻で見つけたあの男性を、島の外の病院に診せにいかないと、という結論に至ったんだ」
「俺は、黄地家の人間だから、村が島であることは結構前から知っていたし、交易にもときどき連れて行ってもらっていた。つまり……ボートに乗ったこともあるというわけだ」
「操縦したことあるんだよ、お兄ちゃん!」
「……マジ? ハイレベルすぎるでしょ」

 クウが驚きに、ポカンと口を開ける。僕もクウほどはいかずとも、同じように驚いた。

「だから、黄地家のボートで外の大病院まで運ぶ役目を任されたわけさ。ついでに、ジロウを危険から離しておいてやりたいしな」
「冒険は好きだけどねー」

 命を狙われていたことなど理解していないジロウくんは、終始ハイテンションだ。だが、それがこの場を和ませてくれる。

「この村から本州まではボートで二時間ほどだし、ボートも八人乗りくらいの小さなものだ。一時離脱するのは悪いが、あの人を何とか助けたいんでな」
「いや、そんなことは全然いいんだけど。……ほんと、タロウってすごいな」

 素直な思いを口にしたのだが、タロウはいやいや、と首を振り、

「お前の方がすごいよ。……まあ、それじゃ行ってくる」
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい、タロウ、ジロウくん」
「またねーっ」

 タロウは僕らに一礼し、ジロウくんはぶんぶんと力強く手を振ると、部屋から出て行った。
 そして、後には僕とクウ、そしてコウさんだけになる。

「……そういえば、ですけど。どうしてカズさんたちが行かないんです? ボートを操縦できる人なら、タロウたちの父親であるカズさんの方が、適任のような」
「……あの人たちにも、船を運転してもらわないといけなくなる予定なんだ。だから、今はいてもらわないとね」
「……はあ」

 コウさんの仄めかすことはまだ理解できなかったが、これから順を追って聞いていけば分かるのだろう。

「それじゃあ説明するとしようか。君たちにとっては、謎解きみたいなものかな」

 そう、コウさんの言う通り、これは謎解きだ。平穏に思われた世界に突如降りかかった、幾つもの不和を解き明かすための、道筋。

「この鴇島が、誰の意思によって、何のために出来上がり。そしてここで、何が起ころうとしてるのかを、君たちに見せよう」





「……で」

 コウさんが僕らを連れて来た場所。彼の言う、謎解きを行うための場所は。

「……なぜツバサちゃんの家」
「ここに、色々な証拠があるからね。それを探しながらの方がいいと思ったんだ」

 平然とそう言ってのけ、コウさんは扉に手をかける。

「まさか……入る気ですか?」
「それはもちろん。今ならワタルくんとツバサちゃんは、土管の所で話しこんでいるはずだし、その両親もまた、出かけているはずだからね」
「いや、そういう問題でもない気が……」
「非常事態なんだし、仕方ない。鍵を掛けない文化だったのが幸いだよ」
「……心が痛む……」

 そうは言いながらも、結局僕らはコウさんの後に続き、真白家に乗り込んだ。多少の罪悪感を心の奥へ押しやって。

「……とりあえず、奥にある和室へ向かってくれるかな。その部屋の先に、見てもらいたいものがあるから」
「もったいぶるなあー」
「行けば分かるよ。決して冗談で言っているわけじゃないんだ」

 はいはい、と諦めたように言い、クウは廊下をのしのしと歩いて和室の方へ向かった。
 襖を開くと、そこは懐かしい、八畳間の和室。あまり物を動かしたくないからか、最後に来たのは結構昔のはずなのに、記憶に残っているイメージと、殆ど変わっていなかった。

「カエデさんがいないときは、よくこの和室に来てのんびりしてたよねー」
「そうだね。今更だけど、カエデさんって、いないときはどこに行ってたんだろう」
「私の医院に来てたのかな。あの頃は全然、気にもとめてなかったや」

 まあ、友達の親のことなんて、そう気にはしないか。

「二人とも。そこにある襖の先が、目的地だ」
「え? 冗談だよね」

 さっき冗談ではないと口にしていたのに、早速クウに冗談だろうと突っ込まれる。だけどコウさんは譲らず、

「とにかく、開けてみてくれ」
「はーい」

 半信半疑、というか殆ど疑に傾きながらも、クウは襖を開く。
 そこには。

「え……」

 押し入れではなかった。
 そこにあったものは、想像を絶する光景。
 それは、

「……なんだ、これ……」
「ど、どういうこと? わけ分かんない。ここ、カエデさんの部屋の、奥だよね? これ、カエデさんが作った部屋ってこと……?」

 僕らは二人して忙しなく部屋を見回す。こんな機械だらけの光景を、村で見ることになるとは、思ってもみなかった。
 コウさんは、苦笑しながら口を開く。

「確かにこれは、カエデさん……でいいか。まあ、彼女のために作られたものではあるけれど、作ったのはカエデさんじゃない。そうだね……まずはこれの正体を見てもらおうか」

 コウさんは言い、近くにあったモニタの電源を点ける。
 すると、そこには。
 この村の幾つもの地点が、映し出されていた。
 つまり、これは。

……?」
「監視!? 私たち、これで見られてたの!?」

クウは仰天しながら、自分の体をぎゅっと抱く。お風呂を覗かれた女の子みたいに。
 流石にオーバーリアクションだと思ったが、それでも監視カメラという存在は、確かに驚くべきものだった。

「ヒカルくんの言ったように、これは監視カメラだ。村の至る所を、リアルタイムで見ることができるようになっている」
「でも……どうして?」
「それは、決まっているよ。この村で起きるあらゆることを、カエデさんに見せたかったからさ」
「いやいや……答えになってるようでなってないんですけど」

 クウがこれまた大げさに手を振る。

「……はは、鋭いご指摘だね。この村を作ったある人物は、どうしてもカエデさんに、鴇村の日常というものを見せたかったんだ。……馬鹿らしく聞こえるかもしれないけれど、この鴇村は全て、その一つの目的のために出来上がったものなんだよ」
「村がここにあることすら、カエデさんのため……?」

 駄目だ。理解が追いつかない。
 突拍子もない話すぎて、頭が理解するのを拒否しているようだ。
 でも……。

「その人物は、ここで毎日のように、鴇村の日々をカエデさんに見てもらった。特に、子どもたちがどんな風に遊び、仲良くなっていくのかを。……そして、いつか思い出してもらうために」
……?」

 ……そういえば。
 カエデさんに向かって、そんなことを言っていた人がいた。
 でも、その人は……。

「最初はただ、それだけだった。きっと、案外すぐに思い出してくれると楽観していたんじゃないかな。でも、何年経ってもカエデさんは、ただぼんやりモニターごしの光景を眺めているばかりだった。……やがて、その人物は。自分にもタイムリミットが出来てしまったことに気付くんだ。あまりにも皮肉な運命が繰り返されたことを、彼は知った」
「ねえ、その人って……」
「……想像は、ついているみたいだね」

 コウさんの言葉は、僕らが思い描いている人物が間違いでないことを、肯定するものだった。

「その人物は、時間がないことを知ってから、最終手段をとることに決めた。それは、六月九日を期限として、『限りなく近い』日常をカエデさんに見せるというもの。それまでは基本的な設定の下で、鴇村に自由なシナリオを書かせていたその人物も、いよいよその方法をとるしかなくなったんだ。そしてそれは、……実行された。というより、実行されている」

 また、設定という言葉だ。しかも、僕の思っていた意味合いとは、違ったニュアンスの。
 コウさんの口にした設定はむしろ、この鴇村そのものが、一つの設定だと言わんばかりのもので……。

「ねえ、コウさん。……そろそろ教えてください。設定って……どういう意味なんです」
「……うん、それについては、ハッキリ言ってしまったほうがいいだろう」

 コウさんは、腕組みをしながら何度か頷く。

「この村は、言ってしまえば。本物の鴇村と全く同じ舞台設定で作られた、コピーの鴇村なんだよ」
「……は?」

 その宣言に、僕は驚愕というか、むしろ怒りに似た感情が沸き上がってきた。
 馬鹿馬鹿しいにも程がある。それは僕たちに対して失礼だろうと感じたからだ。
 何故なら、それはある意味、僕らの人生の全てをコピーと言われたも同然なのだから。
 そんな異常な『設定』を、信じられるわけがない。

「……いや、そのリアクションは予想していたよ。私だって、信じたくはない現実なんだからね。タロウくんも割と物分りは良かったけれど、やっぱり第一声はそれだったな」

 参ったな、とばかりに苦笑し、コウさんは何度か自分の後ろ髪を撫でて、

「……じゃあ、ここはもう一つ、違うものを見てもらうとしようか。ツバサちゃんの部屋に行こう、二人とも」

 そう言うと、彼はさっさとこのモニタールームを出て行ってしまう。

「……どうして、ツバサちゃんの」
「さあ……」

 ツバサちゃんの部屋に入ると言われて、ものすごく抵抗があったが、ここで引き下がるわけにもいかず、僕らは渋々彼についていった。
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