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担当者さんが途中経過を見て、ダメだししてきました。
9.反対の立場。(8回目)
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今世のあたしは‥
ハヅキ・ランバートル
頭の上を確認する。
耳なし。
人間のようだ。
‥当たり前だろ。
つい前々回の転生までそう思ってた。
名前、「あの顔」とそして、女で人間だってことは前々回まで当たり前に変わらなかったから。
でも、
今まで「当たり前」って思ってたことが変わることもある‥らしい。でも、それは思ったより不思議なことでもなかった。あたしはそれをびっくりするほど柔軟に受け入れた。
知ってることだけが総てじゃない。
ってか‥きっとあたしが知ってることの方が少ないんだろうな。
前回の世界ではそれを知ることが出来た‥のが収穫かな。
あたしは‥普通の魂じゃないからか‥酷くゆっくりしか‥「魂を成長させる」ことが出来ないらしい。あと、普通の魂なら当たり前に「知っている」ことを知らなかったりもする。(「普通」とか「当たり前」ってなんだろうね)
ま。
それはそうと状況確認。(落ち込んでも仕方がないからね)
あたしは人間。女、そしていつも通り3歳。
平民のランバートル家の末っ子。
今回のあたしは現在3人家族。
というのも、二人の兄は学校に通っていて学生寮で生活しているらしく今は家にはいないからだ。(つまり、ほんとは5人家族なんだな)
兄たち二人は今度の秋の長期休暇に帰って来るらしく
「学校まで二人を迎えに行こうか」
って嬉しそうに父親が言った。
おお、兄たち「始めまして」だな!
(見掛け)3歳のあたしが大きく頷くと、(きっと顔はにっこにこなはずだ)
「ハヅキは街に出るのは初めてね。楽しみね」
って母親が言った。
特徴のない、平凡な顔をした両親。(なんと、今回は‥転生人生初めて「家族の顔が似ている」のだ! )
この顔。あたし的にはもはや御馴染みで「親近感持てるわ~」って顔だけど、「この世界」的にはどんな感じなんだろ?
可もなく不可もなく‥で「美人でも不美人でもない」ってポジションだったらいいな。
あたしを美人に生まれさせることが出来ないならば‥「あたしが美人な国」に生まれさせてくれたらいいのに。そんな国はないのかな? 獣人がいる国があるならそんな国あってもおかしくないって思うのに、揃いも揃って‥あたしを良くて平凡、悪くて「不細工」っいう国ばかり‥。
万能でいらっしゃる神様がなんで「そこだけ」は変えられないのかなって思うが‥そこはあたしの顔同様「変えられない部分」なのかもしれない。(勿論真実は分からないけど)
つまり、
変えられる部分(多分)
家族(私の魂の受け入れ先、元からある家族の中にあたしを入れるのだからあたしだけ他の家族と違う顔でも仕方がない)
時代、国その他生活環境
変えられない部分(多分)
あたしの顔。
美醜感覚
だと予測している。
‥多分間違ってはいないだろう。(※ あくまでハヅキの予想であり、勿論間違っている)
確認の為予測しただけで‥ホントどうでもいいことなんだけどね。
事実を受け入れるだけだ。
私は私のすべきこと‥できることをして精一杯生きるだけで、他の人のことの言うことは基本関係ない。‥というか、今の今まで必死過ぎて周りの意見なんて耳に入ってこなかった。ってか‥気にしてなかったんだよ。だけど、「恋愛しなきゃ」‥って思って他人に目を向けた時、他人があたしをどう見ているかってことが初めて分かった。
あたしがあたしを「地味でつまんない顔」って思ってるみたいに、周りもあたしの顔を地味でつまんない顔だって思っている様だ‥ってこと。
自分で思ってることでも、人に口に出して言われるのは‥思っていた以上に嫌だった。特に前回のあたしは「初めから下に見られている異種族」だったからそれはもう‥酷いものだった(と思う)。勿論どんなこと言われた、とか覚えてるわけじゃないけど「嫌だった」ってことは覚えてる。それはもう‥トラウマ級で‥。
‥アレはもう勘弁してほしいな。
人間なんて信じられないって思う位の‥嫌悪感。
否、嫌なのは‥「悪意のある人間」。
あたしは絶対、「意識して」「あんな人間」にはならないようにしたい。
きっとそれをあたしに教える為に、前回神様はあんな極端な世界にあたしを転生させたのだろう。
顔や身分以前に種族で虐げられる存在がいる世界。そんな「普通」ではない極端な世界で、生まれつき差別される種族に生まれ、実際に自分が「あからさまな」差別を受けることで、「実体験をして」「差別がいかに悪いことか」を知る‥。
人にされたからといって、自分もしてもいいって人間には絶対ならない。
荒療法だが、意味はあった‥と思う。
世の中には「自分より下の人間(と決めつけた人間)を虐げ、ねじ伏せることでかろうじて自分の心の安泰を保つような‥そんな「ヤバい奴」がいる」それは人間性の問題で、倫理観のある人間は「そんなことはおかしい」って分かっている。だけど‥種族の問題は、それとは別の問題だ。
力で劣っていることを認めることは、即ち人間側の敗北で、最悪の場合服従を意味する。それをするわけにはいかない。好戦的ではない獣人がそんなことを考えるわけがないのだが、懐疑的な人間としてはそう考えずにいられない。自衛の為、そして出来れば優位な立場でいたい。「種としての優越性」といおうか‥「人間としての立場」を確立する為‥力で‥精神的に洗脳する。
自分たちの方が「種として優秀な民族である」と‥精神的に洗脳して、従わせる。そして、それは悪意ではなく‥自衛本能から来た行動なのだ。
あんな極端な例じゃなくても、人はズルいし臆病だ。金がある者は無い者を屈服させようとするし、権力がある者も然りだ。
金や権力があれば、なんでも思い通りになると思いあがることもあるだろう。今までは幸いあたしはそんなことをしたことはなかったが‥過去に金持ちだったことも貴族だったこともあった。
もしかしたら、そんなことをしていたかもしれない過去もあったかもしれないってことなんだ。
「あたしは絶対そんなことしない」
あたしは今日もこころの中で強くそう誓って起床した。
あれから季節は過ぎ、今日は、(会ったことない)兄さんたちを迎えに始めて街に出る日だ。(あたしの記憶がないだけで、会ったことはホントはあるのだろうが‥)
乗り合い馬車に乗り、初めて連れて行ってもらった街は、思った以上に発展していた。
街の入り口に市場があり、地方から集まった商品が売られている。舗装はされていないが大勢の人々に踏み固められた街道を進むと、様々な店が軒を連ねている「市街地」に到着する。
ここの店は全部二階建ての細長いつくりになっている。どうやら、一階が店舗で二階が居住スペースという感じらしい。ここの店は全部店舗兼住居になっている様だ。
「村から売りに来た野菜や肉、薪なんかは全部市場で売買される。店舗で売買されているものの材料も市場で仕入れるんだよ」
父さんが教えてくれた。
服屋、靴屋、パン屋。
成程店は市場の商品を加工したものらしい。
あたしが頷くと、父さんは続けて
「村から来た人たちは市場で商品を売り、そのお金でここで買い物をしていくんだ」
と教えてくれた。
「勿論市場の商品を買うこともあるけどね」
と付け加える。母さんはニコニコとあたしを見ている。あたしたちは、今日はお出かけするからいつもよりお洒落な格好をしているが、勿論貴族の「それ」とはくらべものにはならない。だけど、我が家はそんなに貧乏ではないらしい。その服は華美ではないがさらっとした着心地で、丈夫でしっかりした布地を使っている。
馬車は市街地を抜け、学校がある丘に向かう。
途中、路地裏で力仕事をさせられている獣人の姿を見た。意識して目を凝らさないと見えないが、多分あたしは前世の記憶が断片的にだがあるからだろう。普通の人よりずっと目ざとく‥あたしはそのことに気付いた。
もはや見慣れた(耳を隠すための)大きな帽子、見覚えのある粗末な布地で作られた簡易な服を着た‥以前と何ら変わらない獣人の姿。
あたしの視線の先に気付いた父さんが
「怖いかい? ‥怖くなんかないよ。彼らは‥可哀そうな人たちなんだ」
って言った。
あたしは「怖くない」って言って首を振った。
怖くなんかない。でも、「可哀そう」も違う‥。
だけど‥自分の父親が他の人(大部分の愚かな人)のように獣人を差別していない人間だってことに安心した。
あれは‥前回の自分だ。自分は獣人ではあったが比較的恵まれていた為、人間に使役されていなかったが、差別されていることに違いはなかった。あたしのことを許容してくれていた‥あたしの雇い主はちょうど今世の父さんと同じような感覚だったのかもしれない。「種族による差別を理不尽に思ってはいるが、抗議するまではしない」そんな‥消極的ではあるが善良な市民。あたしは‥でも、取り敢えずはそれで構わないと思っている。
差別を悪いと思ってさえいない‥気付いていない人間よりずっといい。
気付くことが第一歩じゃない?
って思うから。
気付くことって‥案外難しいよ。だって‥あたしの7回目までの人生で、あたしが他の人について‥何らかの感情を持ったことは前回が初めてだったから。
差別する人間に対する憤り、
差別されている自分に対する不満感、
(あたしよりずっとひどい目にあっている)他人に対しての憐情。
自分が辛い、悲しい‥って感情は今までも思ってた。でも、「なんでそんなことするんだ。あたしたちだってあんたら人間同様、辛いとか悲しいとか思う気持ちはあるんだぞ!? なんで、それが分からないんだ? 」って思ったのは初めてだった。
人の気持ちになって物を考えることが出来た。
その時、この頃では結構「御馴染み」になってた‥黒い時間が突如来た。寝ている時ではない‥昼間だというのに、だ。
担当者が椅子に座って、あたしを見て
「それを、共感っていう」
って言った。
「不遇な状況にある人を見て
可哀そうって思うのは、同情。
アレは辛いよね、って思うのが、共感」
「共感? 」
あたしが聞き返すと、担当者が頷いた。
「そ。
凄く簡単なことに見えるけど、人の気持ちになって物を考えることが‥君を見てて、ホントに難しいことなんだなって分かった。
共感して、「あたしも同じことがあったら嫌だろうな」って思って「だから‥彼は可哀そうだって思う」って同情する。それは‥正義の第一歩だ」
「同情するだけ? 見て、かわいそがってるだけじゃ何にもならんじゃない」
あたしが首を傾げると、
「じゃあ一歩勇気を出そう。例えば、転んで大怪我をしてる人を見掛けて「可哀そう」って思いました。その次の一歩は? 」
担当者がふふっと‥ちょっと楽しそうに笑って聞いて来た。あたしは首を傾げたまま
「病院に連れて行ってあげましょうって言う」
って言うと、担当者はもっと嬉しそうな顔で
「イイね! でも、「お金がないので病院はちょっと」「そこまででもないですし‥」って言われました」
って更に質問を重ねる。あたしはもっと首を傾げる。
どうしよ。
そうだなあ‥じゃあ‥
「とにかく、傷口を洗ってあげる? だって、汚れたままだとよくない‥」
あたしが考え考え言うと、担当者は今まで見たどんな時より優しい表情で
「イイね。‥いっぱい考えるといい」
って言った。
あってるとも間違ってるとも言わなかった。‥きっと、「これが正解」ってのはないのだろう。
そう思って顔を上げたら、ぱあっと周りが明るくなった。
「眠ってた? もうすぐ学校に着くよ。学校でお兄ちゃん達と合流したら、街でご飯を食べて行こう」
両親が優しく微笑んだ。
夜寝る前にあたしは初めて担当者を呼んだ。
来てくれると思ってなかったけど、担当者は案外あっさりと現れて
「何」
ってあたしの話を聞いてくれた。
「確かに、他人の気持ち分かってないヤバい奴もいるなって‥実感した。
街でご飯を食べてる店に、帽子をかぶった獣人さんが居たんだよね。獣人さんは大人しく奥でご飯を食べてただけなのに、後から入って来た人間の客が「何だこの店は! 獣人がいるじゃないか! 」って大騒ぎして‥凄い腹が立った。結局獣人さんは困ったような顔をして、お金を払って出て行ったんだ。ご飯が途中なのにだよ!? 信じられないよ。お店の人が獣人さんに「ごめんな」ってこそって言ってたのにはちょっとほっとしたけど‥」
担当者は「ふんふん」と頷きながらあたしの話を聞いていた。
「両親と兄たちも「同じ人間として恥ずかしいよ」って後で言ってた。あたしもそう思った。
ったく、そいつ顔がぶっさいくだったから、イケメンの獣人さんに嫉妬してたんじゃないかな! 」
あたしがぷんぷん怒りながら言うと、
ん?
って顔で担当者があたしを見た。
「ん? 」
あたしが首を傾げると、担当者は
「初めてハヅキが男の顔のこと言ったから驚いた」
って言った。
顔のこと? そりゃあ‥貴方にそんなこと言ったことなかったですけど‥あたしにも好みぐらいありますよ? あたしが変な顔をしたのだろう。
「いや、アンタ「自分はこんな顔になりたい」とはずっと言ってたけど、「こういう顔が好き」ってのは言ったことなかったじゃん? 」
‥そういえば? でも、ありましたよ。‥少なくとも前回は「自分の好みの顔のイケメン」と結婚した‥
そういえば‥今までそんなことなかったね。
そういえばそうかも? おお‥。ちょっと感動だね‥。あたしが密かに一人で感動しているのを、微笑ましいって顔で見て、「もう時間だから、また明日話そう」って穏やかな顔の担当者が言った。
今日もまた、新しい朝が来た。
ハヅキ・ランバートル
頭の上を確認する。
耳なし。
人間のようだ。
‥当たり前だろ。
つい前々回の転生までそう思ってた。
名前、「あの顔」とそして、女で人間だってことは前々回まで当たり前に変わらなかったから。
でも、
今まで「当たり前」って思ってたことが変わることもある‥らしい。でも、それは思ったより不思議なことでもなかった。あたしはそれをびっくりするほど柔軟に受け入れた。
知ってることだけが総てじゃない。
ってか‥きっとあたしが知ってることの方が少ないんだろうな。
前回の世界ではそれを知ることが出来た‥のが収穫かな。
あたしは‥普通の魂じゃないからか‥酷くゆっくりしか‥「魂を成長させる」ことが出来ないらしい。あと、普通の魂なら当たり前に「知っている」ことを知らなかったりもする。(「普通」とか「当たり前」ってなんだろうね)
ま。
それはそうと状況確認。(落ち込んでも仕方がないからね)
あたしは人間。女、そしていつも通り3歳。
平民のランバートル家の末っ子。
今回のあたしは現在3人家族。
というのも、二人の兄は学校に通っていて学生寮で生活しているらしく今は家にはいないからだ。(つまり、ほんとは5人家族なんだな)
兄たち二人は今度の秋の長期休暇に帰って来るらしく
「学校まで二人を迎えに行こうか」
って嬉しそうに父親が言った。
おお、兄たち「始めまして」だな!
(見掛け)3歳のあたしが大きく頷くと、(きっと顔はにっこにこなはずだ)
「ハヅキは街に出るのは初めてね。楽しみね」
って母親が言った。
特徴のない、平凡な顔をした両親。(なんと、今回は‥転生人生初めて「家族の顔が似ている」のだ! )
この顔。あたし的にはもはや御馴染みで「親近感持てるわ~」って顔だけど、「この世界」的にはどんな感じなんだろ?
可もなく不可もなく‥で「美人でも不美人でもない」ってポジションだったらいいな。
あたしを美人に生まれさせることが出来ないならば‥「あたしが美人な国」に生まれさせてくれたらいいのに。そんな国はないのかな? 獣人がいる国があるならそんな国あってもおかしくないって思うのに、揃いも揃って‥あたしを良くて平凡、悪くて「不細工」っいう国ばかり‥。
万能でいらっしゃる神様がなんで「そこだけ」は変えられないのかなって思うが‥そこはあたしの顔同様「変えられない部分」なのかもしれない。(勿論真実は分からないけど)
つまり、
変えられる部分(多分)
家族(私の魂の受け入れ先、元からある家族の中にあたしを入れるのだからあたしだけ他の家族と違う顔でも仕方がない)
時代、国その他生活環境
変えられない部分(多分)
あたしの顔。
美醜感覚
だと予測している。
‥多分間違ってはいないだろう。(※ あくまでハヅキの予想であり、勿論間違っている)
確認の為予測しただけで‥ホントどうでもいいことなんだけどね。
事実を受け入れるだけだ。
私は私のすべきこと‥できることをして精一杯生きるだけで、他の人のことの言うことは基本関係ない。‥というか、今の今まで必死過ぎて周りの意見なんて耳に入ってこなかった。ってか‥気にしてなかったんだよ。だけど、「恋愛しなきゃ」‥って思って他人に目を向けた時、他人があたしをどう見ているかってことが初めて分かった。
あたしがあたしを「地味でつまんない顔」って思ってるみたいに、周りもあたしの顔を地味でつまんない顔だって思っている様だ‥ってこと。
自分で思ってることでも、人に口に出して言われるのは‥思っていた以上に嫌だった。特に前回のあたしは「初めから下に見られている異種族」だったからそれはもう‥酷いものだった(と思う)。勿論どんなこと言われた、とか覚えてるわけじゃないけど「嫌だった」ってことは覚えてる。それはもう‥トラウマ級で‥。
‥アレはもう勘弁してほしいな。
人間なんて信じられないって思う位の‥嫌悪感。
否、嫌なのは‥「悪意のある人間」。
あたしは絶対、「意識して」「あんな人間」にはならないようにしたい。
きっとそれをあたしに教える為に、前回神様はあんな極端な世界にあたしを転生させたのだろう。
顔や身分以前に種族で虐げられる存在がいる世界。そんな「普通」ではない極端な世界で、生まれつき差別される種族に生まれ、実際に自分が「あからさまな」差別を受けることで、「実体験をして」「差別がいかに悪いことか」を知る‥。
人にされたからといって、自分もしてもいいって人間には絶対ならない。
荒療法だが、意味はあった‥と思う。
世の中には「自分より下の人間(と決めつけた人間)を虐げ、ねじ伏せることでかろうじて自分の心の安泰を保つような‥そんな「ヤバい奴」がいる」それは人間性の問題で、倫理観のある人間は「そんなことはおかしい」って分かっている。だけど‥種族の問題は、それとは別の問題だ。
力で劣っていることを認めることは、即ち人間側の敗北で、最悪の場合服従を意味する。それをするわけにはいかない。好戦的ではない獣人がそんなことを考えるわけがないのだが、懐疑的な人間としてはそう考えずにいられない。自衛の為、そして出来れば優位な立場でいたい。「種としての優越性」といおうか‥「人間としての立場」を確立する為‥力で‥精神的に洗脳する。
自分たちの方が「種として優秀な民族である」と‥精神的に洗脳して、従わせる。そして、それは悪意ではなく‥自衛本能から来た行動なのだ。
あんな極端な例じゃなくても、人はズルいし臆病だ。金がある者は無い者を屈服させようとするし、権力がある者も然りだ。
金や権力があれば、なんでも思い通りになると思いあがることもあるだろう。今までは幸いあたしはそんなことをしたことはなかったが‥過去に金持ちだったことも貴族だったこともあった。
もしかしたら、そんなことをしていたかもしれない過去もあったかもしれないってことなんだ。
「あたしは絶対そんなことしない」
あたしは今日もこころの中で強くそう誓って起床した。
あれから季節は過ぎ、今日は、(会ったことない)兄さんたちを迎えに始めて街に出る日だ。(あたしの記憶がないだけで、会ったことはホントはあるのだろうが‥)
乗り合い馬車に乗り、初めて連れて行ってもらった街は、思った以上に発展していた。
街の入り口に市場があり、地方から集まった商品が売られている。舗装はされていないが大勢の人々に踏み固められた街道を進むと、様々な店が軒を連ねている「市街地」に到着する。
ここの店は全部二階建ての細長いつくりになっている。どうやら、一階が店舗で二階が居住スペースという感じらしい。ここの店は全部店舗兼住居になっている様だ。
「村から売りに来た野菜や肉、薪なんかは全部市場で売買される。店舗で売買されているものの材料も市場で仕入れるんだよ」
父さんが教えてくれた。
服屋、靴屋、パン屋。
成程店は市場の商品を加工したものらしい。
あたしが頷くと、父さんは続けて
「村から来た人たちは市場で商品を売り、そのお金でここで買い物をしていくんだ」
と教えてくれた。
「勿論市場の商品を買うこともあるけどね」
と付け加える。母さんはニコニコとあたしを見ている。あたしたちは、今日はお出かけするからいつもよりお洒落な格好をしているが、勿論貴族の「それ」とはくらべものにはならない。だけど、我が家はそんなに貧乏ではないらしい。その服は華美ではないがさらっとした着心地で、丈夫でしっかりした布地を使っている。
馬車は市街地を抜け、学校がある丘に向かう。
途中、路地裏で力仕事をさせられている獣人の姿を見た。意識して目を凝らさないと見えないが、多分あたしは前世の記憶が断片的にだがあるからだろう。普通の人よりずっと目ざとく‥あたしはそのことに気付いた。
もはや見慣れた(耳を隠すための)大きな帽子、見覚えのある粗末な布地で作られた簡易な服を着た‥以前と何ら変わらない獣人の姿。
あたしの視線の先に気付いた父さんが
「怖いかい? ‥怖くなんかないよ。彼らは‥可哀そうな人たちなんだ」
って言った。
あたしは「怖くない」って言って首を振った。
怖くなんかない。でも、「可哀そう」も違う‥。
だけど‥自分の父親が他の人(大部分の愚かな人)のように獣人を差別していない人間だってことに安心した。
あれは‥前回の自分だ。自分は獣人ではあったが比較的恵まれていた為、人間に使役されていなかったが、差別されていることに違いはなかった。あたしのことを許容してくれていた‥あたしの雇い主はちょうど今世の父さんと同じような感覚だったのかもしれない。「種族による差別を理不尽に思ってはいるが、抗議するまではしない」そんな‥消極的ではあるが善良な市民。あたしは‥でも、取り敢えずはそれで構わないと思っている。
差別を悪いと思ってさえいない‥気付いていない人間よりずっといい。
気付くことが第一歩じゃない?
って思うから。
気付くことって‥案外難しいよ。だって‥あたしの7回目までの人生で、あたしが他の人について‥何らかの感情を持ったことは前回が初めてだったから。
差別する人間に対する憤り、
差別されている自分に対する不満感、
(あたしよりずっとひどい目にあっている)他人に対しての憐情。
自分が辛い、悲しい‥って感情は今までも思ってた。でも、「なんでそんなことするんだ。あたしたちだってあんたら人間同様、辛いとか悲しいとか思う気持ちはあるんだぞ!? なんで、それが分からないんだ? 」って思ったのは初めてだった。
人の気持ちになって物を考えることが出来た。
その時、この頃では結構「御馴染み」になってた‥黒い時間が突如来た。寝ている時ではない‥昼間だというのに、だ。
担当者が椅子に座って、あたしを見て
「それを、共感っていう」
って言った。
「不遇な状況にある人を見て
可哀そうって思うのは、同情。
アレは辛いよね、って思うのが、共感」
「共感? 」
あたしが聞き返すと、担当者が頷いた。
「そ。
凄く簡単なことに見えるけど、人の気持ちになって物を考えることが‥君を見てて、ホントに難しいことなんだなって分かった。
共感して、「あたしも同じことがあったら嫌だろうな」って思って「だから‥彼は可哀そうだって思う」って同情する。それは‥正義の第一歩だ」
「同情するだけ? 見て、かわいそがってるだけじゃ何にもならんじゃない」
あたしが首を傾げると、
「じゃあ一歩勇気を出そう。例えば、転んで大怪我をしてる人を見掛けて「可哀そう」って思いました。その次の一歩は? 」
担当者がふふっと‥ちょっと楽しそうに笑って聞いて来た。あたしは首を傾げたまま
「病院に連れて行ってあげましょうって言う」
って言うと、担当者はもっと嬉しそうな顔で
「イイね! でも、「お金がないので病院はちょっと」「そこまででもないですし‥」って言われました」
って更に質問を重ねる。あたしはもっと首を傾げる。
どうしよ。
そうだなあ‥じゃあ‥
「とにかく、傷口を洗ってあげる? だって、汚れたままだとよくない‥」
あたしが考え考え言うと、担当者は今まで見たどんな時より優しい表情で
「イイね。‥いっぱい考えるといい」
って言った。
あってるとも間違ってるとも言わなかった。‥きっと、「これが正解」ってのはないのだろう。
そう思って顔を上げたら、ぱあっと周りが明るくなった。
「眠ってた? もうすぐ学校に着くよ。学校でお兄ちゃん達と合流したら、街でご飯を食べて行こう」
両親が優しく微笑んだ。
夜寝る前にあたしは初めて担当者を呼んだ。
来てくれると思ってなかったけど、担当者は案外あっさりと現れて
「何」
ってあたしの話を聞いてくれた。
「確かに、他人の気持ち分かってないヤバい奴もいるなって‥実感した。
街でご飯を食べてる店に、帽子をかぶった獣人さんが居たんだよね。獣人さんは大人しく奥でご飯を食べてただけなのに、後から入って来た人間の客が「何だこの店は! 獣人がいるじゃないか! 」って大騒ぎして‥凄い腹が立った。結局獣人さんは困ったような顔をして、お金を払って出て行ったんだ。ご飯が途中なのにだよ!? 信じられないよ。お店の人が獣人さんに「ごめんな」ってこそって言ってたのにはちょっとほっとしたけど‥」
担当者は「ふんふん」と頷きながらあたしの話を聞いていた。
「両親と兄たちも「同じ人間として恥ずかしいよ」って後で言ってた。あたしもそう思った。
ったく、そいつ顔がぶっさいくだったから、イケメンの獣人さんに嫉妬してたんじゃないかな! 」
あたしがぷんぷん怒りながら言うと、
ん?
って顔で担当者があたしを見た。
「ん? 」
あたしが首を傾げると、担当者は
「初めてハヅキが男の顔のこと言ったから驚いた」
って言った。
顔のこと? そりゃあ‥貴方にそんなこと言ったことなかったですけど‥あたしにも好みぐらいありますよ? あたしが変な顔をしたのだろう。
「いや、アンタ「自分はこんな顔になりたい」とはずっと言ってたけど、「こういう顔が好き」ってのは言ったことなかったじゃん? 」
‥そういえば? でも、ありましたよ。‥少なくとも前回は「自分の好みの顔のイケメン」と結婚した‥
そういえば‥今までそんなことなかったね。
そういえばそうかも? おお‥。ちょっと感動だね‥。あたしが密かに一人で感動しているのを、微笑ましいって顔で見て、「もう時間だから、また明日話そう」って穏やかな顔の担当者が言った。
今日もまた、新しい朝が来た。
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