断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの

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 嵐のようなお茶会から一夜明け、私は図書室のソファでぐったりと横たわっていた。
 
「……非効率ですわ。非常に非効率ですわ。なぜ私が、見ず知らずの令嬢たちに『正しい扇の仰ぎ方(初級編)』を三時間も講義しなければならないのですの?」
 
「お嬢様、お疲れ様です。おかげでベアトリス様から、最新の魔導触媒に使われる希少な鉱石が山ほど届きましたよ。受講料としては破格です」
 
 アンが差し出した目録を見て、私は片目だけを開けた。
 
「……あら。まあ、それなら許してあげなくもありませんわ。物質的な対価は、心の平穏よりも確実な報酬ですもの」
 
 私がようやく起き上がろうとした時、図書室の重厚な扉がノックもなしに……いえ、正確には私の決めた「三秒ルール」通りに開かれた。
 
「よう、カリスマ令嬢。昨日は随分と熱心な教育活動をしていたそうだな」
 
 入ってきたのは、相変わらず不敵な笑みを浮かべたシグルド様だ。
 
「シグルド様。教育活動ではありませんわ。私はただ、彼女たちの『存在そのものの無駄』を指摘して差し上げただけです」
 
「それが結果として、彼女たちの教祖になることにつながったわけか。お前の『悪役令嬢』としてのブランディングは、どうやら俺の想像を超えた方向に育っているらしい」
 
 シグルド様は私の向かい側の椅子に座り、身を乗り出した。
 その瞳に宿る知略の光が、嫌な予感を加速させる。
 
「ミモリ。お前に折り入って頼みたいことがある。……三日後に行われる、カスティル王国の王宮晩餐会に出席してほしい」
 
「……お断りいたしますわ」
 
 私は即答した。コンマ一秒の迷いもない。
 
「晩餐会? そんな、中身のない世間話と、冷めかけた料理をちびちび食べるだけの苦行に、私の貴重なリソースを割くなんて、国家的な損失ですわ」
 
「まあ待て。ただの晩餐会じゃない。今回は、我が国の魔導研究の成果を発表する場でもあるんだ。……つまり、お前が弄くり回したあの魔導具たちのお披露目だ」
 
「……ほう?」
 
 少しだけ興味が湧いた。
 私が効率化した魔導具が、何も知らない貴族たちの前でどのような反応を引き起こすか。
 それは一種の実験データとして価値がある。
 
「それに、お前を『ただの居候』として置いておくのも、そろそろ限界でな。保守派の連中が、お前の出自を理由にネチネチと攻撃してきている。……ここで一発、お前の実力と、ベアトリスたちを味方につけた影響力を見せつけてやりたいんだ」
 
「なるほど。私を盾にして、ご自分の政敵を黙らせようというわけですわね?」
 
「人聞きの悪い言い方をするな。協力(ギブ・アンド・テイク)だ。お前が晩餐会で『圧倒的な悪役令嬢』として君臨してくれれば、今後、この国でお前の研究を邪魔する者はいなくなる。……これは、お前にとっても効率的な提案だと思わないか?」
 
 シグルド様は、私が一番弱い「効率」という言葉を巧みに織り交ぜてきた。
 この男、本当に私の扱いを理解し始めている。
 
「……いいでしょう。シグルド様のその卑怯な策略、乗って差し上げますわ。ただし、会場での私の振る舞いに、一切の口出しはさせませんわよ?」
 
「ああ、好きにしろ。むしろ、手加減なしでやってくれ」
 
「ふふ、後悔なさっても知りませんわよ? ……アン、準備なさい! 三日で仕上げますわよ」
 
「かしこまりました。王宮を戦慄させる『最凶のドレス』の選定に入ります」
 
 アンが即座に動き出すのを見て、シグルド様が満足げに立ち上がった。
 
「期待しているぞ、ミモリ。……それから、当日は俺がエスコートする。お前の『悪のパートナー』としてな」
 
「……エスコート? シグルド様、あなたはただ、会場の入り口で私を放流してくだされば結構ですわ。私は私のペースで悪を為しますもの」
 
「そうはいかない。お前が暴走して王宮を解体し始めたら、俺が止めなきゃいけないからな」
 
 シグルド様はそう言い残すと、颯爽と部屋を出て行った。
 
 独り残された私は、扇で顔を仰ぎながら、晩餐会のシミュレーションを開始した。
 
(王宮晩餐会……。カスティル王国の権力者たちが集まる場所。そこで私が圧倒的な『悪』を見せつければ、誰もが私を恐れ、二度と無駄な干渉をしてこなくなるはず)
 
 それは、究極の効率化。
 
「……見ていなさい。パルマ王国のバカ王子が見逃した、本物の『悪役令嬢』の価値を、この国に刻み込んで差し上げますわ!」
 
 三日後。
 カスティル王国の歴史に、もっとも美しく、もっとも傲慢な「追放者」の名前が刻まれることになる。
 
 ……はずだった。
 
 私の計算には、一つだけ大きな抜け漏れがあった。
 
 シグルド様という男が、晩餐会の場でどれほど「本気」で私を自分のものだと主張するつもりなのかを、私は完全に見誤っていたのである。
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