断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの

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 カスティル王立魔導研究所。
 そこは本来、この国の英知が集結し、厳かな静寂が支配する場所……のはずだった。

「――却下ですわ! こんな無駄の多い術式、トイレットペーパーの裏に書いた落書きの方がまだマシですわよ!」

 私の怒声が、高い天井に反響した。
 目の前では、カスティル王国が誇る一級魔導師たちが、借りてきた猫のように小さくなって震えている。

「で、ですがミモリ様。この多重結界は安全性を最優先に設計されておりまして、どうしても魔力のロスが発生して……」

「安全、安全って、あなたたちは石橋を叩きすぎて壊すおつもり? この回路の第3分岐を統合して、余剰魔力をフィードバック回路に回せば、安全性はそのままで出力が四割上がりますわ。……いいですか、五分で書き直しなさい。できないのなら、あなたたちの給料を効率的にゼロにして差し上げますわよ!」

「ひ、ひえぇぇ! やります、やりますから!」

 魔導師たちが、必死の形相で羊皮紙にペンを走らせる。
 私はそれを見下ろし、冷たく鼻で笑いながら、手元の紅茶を一口啜った。

「お嬢様。その言い草、完璧に悪の女幹部です。非常に素晴らしい仕上がりですよ」

 背後に控えるアンが、無表情に拍手を送る。

「当然ですわ。私は国外追放された悪女。有能な研究員たちを恐怖で支配し、自分のために働かせる……。これぞ悪役令嬢の醍醐味ではありませんこと?」

「そうですね。……ただ、彼らが『ミモリ様の罵倒には愛がある』『指摘が的確すぎて、徹夜続きの脳がシャキッとする』と喜んでいる点を除けば、ですが」

「……何ですって? あの方たち、もしかして全員バカなのかしら?」

 私は怪訝な顔で研究員たちを眺めた。
 確かに、以前は私を蔑んでいたはずの彼らの目が、最近ではキラキラとした、崇拝に近い光を帯び始めている。
 効率的に絶望させているはずが、効率的にモチベーションを上げてしまっているようだ。
 これは悪役としての計算ミスかもしれない。

「よう、魔導の女王陛下。今日も順調に部下をいびっているな」

 三秒ルールを守って入ってきたシグルド様が、私の机にどっかと腰を下ろした。

「シグルド様。いびるだなんて失礼な。私は彼らに『真の効率』を伝授しているだけですわ」

「そうか。おかげで、王都の魔導ランプの燃費が劇的に改善した。浮いた予算をどこに回すか、父上が嬉しそうに悩んでいるぞ。……ミモリ、お前、自分が何をしたか分かっているのか?」

「ええ、もちろん。これで夜道の視認性が向上し、私が深夜にこっそりスイーツを買いに行く際の安全性が確保されましたわ。すべては私の私欲のためです」

「お前がそう言うなら、そういうことにしておいてやるよ」

 シグルド様はクスクスと笑い、私の手元にある設計図を覗き込んだ。

「……これは、新型の通信機か?」

「ええ。パルマ王国の通信機は、高価な魔石を大量消費するくせに、雨が降るだけでノイズが乗る非効率の極みでしたわ。だから、大気中の微弱な魔力を利用して、音声ではなく『思考の断片』を直接送るプロトタイプを組んでみましたの」

「思考の断片? ……それ、軍事的に転用したら世界が変わるぞ」

「軍事? そんな物騒なことに使う暇があったら、アンと今日の夕食の献立を相談するのに使いますわ。……いいですか、シグルド様。技術の進化は、人間の怠惰と強欲を叶えるためにあるべきなのですわよ」

 私は傲慢に言い放った。
 これこそが悪の哲学。
 利便性を追求するあまり、人間をダメにする……。
 そんな文明崩壊の序曲を、私は奏でているつもりなのだ。

「……お前の『強欲』の使い道が、夕飯の献立だっていうのが、この国にとっての救いだな」

 シグルド様は感心したように私の頭を撫でようとして――私が扇でその手を叩き落とした。

「馴れ馴れしく触れないでくださいまし。私の髪に一ミリでも静電気が発生したら、その分の整髪にかかる時間が無駄になりますわ」

「ははっ、相変わらずだな。……だがミモリ、お前の『有能さ』が広まるにつれて、パルマ王国側の動きがキナ臭くなってきた」

 シグルド様の目が、一瞬だけ鋭くなる。

「アリオスの奴、自分が追い出した女がどれほどの価値を持っていたか、ようやく思い知ったらしい。……親善大使の名目で、こちらに視察団を送ってくるそうだ」

「……あら。あのお花畑王子が、わざわざ私の顔を拝みに?」

「ああ。噂によれば、お前を『連れ戻す』ための口実を探しているらしいぞ。今さら、国が回らなくて困っているんだろうさ」

 私は、手に持っていたティーカップをソーサーに置いた。
 陶器が触れ合う高い音が、静かな室内に響く。

「……連れ戻す? 片腹痛いですわ。一度捨てたゴミを拾いに来るなんて、リサイクルの概念を履き違えていますわね」

 私は立ち上がり、窓の外に広がるカスティルの街並みを見下ろした。
 パルマよりも遥かに効率的で、そして少しだけ騒がしい、私の新しい居場所。

「シグルド様。私を連れ戻そうとするなら、相応の覚悟をしていただく必要がありますわ。……私の時間は、過去の清算に使うほど安くありませんのよ」

「……そう言うと思ったよ。よし、パルマの使節団が来たら、最高に『効率的』な歓迎をしてやろうじゃないか」

 シグルド様が、私の隣で不敵な笑みを浮かべる。
 
 有能すぎた悪役令嬢。
 その力は、今や一国の存亡を左右するほどの巨大利権となっていた。
 
 そして、それを取り戻そうとする愚か者たち。
 彼らがこの国に足を踏み入れた瞬間、どのような「洗礼」を受けることになるのか……。
 
 私は、次に導入する予定の「嘘発見器(魔導式)」の設計図を眺めながら、不敵な笑みを深くした。
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