断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの

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 パルマ王国の王宮会議室。
 かつては重厚な静寂が守られていたその場所は、今や阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

「殿下! 隣国との通商条約の更新期限が昨日で切れております! 自動更新の魔法契約書、どこにやったのですか!」

「知らん! そんなものはミモリがいつも勝手に処理していただろう! 私は愛を語るのに忙しかったのだ!」

 アリオス殿下は、書類の山に埋もれながら、子供のように地団駄を踏んだ。
 彼の自慢だった金髪は、ストレスのせいか心なしかパサついている。

「ミモリ様は勝手に処理していたのではありません。期限の一ヶ月前に相手国と交渉を終え、殿下のサインをもらうだけの状態にして机に置いていたのです! それを殿下が『愛の邪魔だ』と言って暖炉に投げ捨てたのでしょう!」

「……ぐっ。そ、そうだっけか? あはは、そんなこともあったかな……」

 宰相の追求に、アリオスは引きつった笑いを浮かべた。
 しかし、笑い事では済まされない。
 物流は滞り、役人の残業代は跳ね上がり、王宮の財政はかつてないほどの赤字を叩き出していた。

「ええい、もういい! こうなったら、ミモリを連れ戻すしかない!」

 アリオスが机を叩いて立ち上がると、会議室にいた全員の視線が彼に集中した。

「連れ戻す? どの口がそれを言うのです。殿下は全校生徒の前で彼女に『国外追放』を言い渡したのですよ?」

「情状酌量というやつだ! 彼女も今頃、隣国の厳しい環境でボロボロになり、私の慈悲を待っているに違いない。私が直接迎えに行き、『お前の有能さに免じて、特別に許してやる』と言えば、あいつは泣いて喜んで戻ってくるはずだ!」

(……この男、救いようのないバカだわ)

 部屋の隅でその様子を見ていたユリアは、心の中で深くため息をついた。
 彼女の元には、すでにミモリからの隠密通信(ミモリが開発した新型通信機の試作機)が届いていた。
 そこには『カスティルのスイーツは最高よ。こっちに来るなら、逃走ルートは確保してあげるわ』という、輝かしい招待状が添えられていたのだ。

「殿下、名案ですわ! ぜひ、私もその『連れ戻し隊』に同行させてくださいまし!」

 ユリアは、わざとらしく可憐な微笑みを浮かべて身を乗り出した。

「おお、ユリア! お前もそう思うか! やはりお前は私の理解者だ!」

「ええ、もちろんですわ。ミモリ様が戻ってこないと、私のドレスの手配も進みませんもの。……あ、いえ、お姉様が心配で夜も眠れませんの(棒読み)」

「よし! では直ちに『ミモリ救出・連れ戻し特別使節団』を結成する! メンバーは私とユリア、そして護衛の騎士数名だ!」

 アリオスは意気揚々と拳を突き上げた。
 しかし、宰相は冷ややかな目で彼を見つめた。

「殿下。カスティル王国は現在、ミモリ様を『国賓級の研究員』として扱っているとの報告があります。下手に無礼を働けば、戦争になりかねませんぞ」

「ふん、国賓だと? どうせあの女のことだ、効率化だ何だと言って相手の王子を脅しているに決まっている。私が正義の鉄槌を下し、彼女を『正しい道』に引き戻してやるのだ!」

 アリオスの脳内では、自分はすでに「迷える婚約者を救い出す英雄」になっていた。
 ミモリが隣国の王子に虐げられ、自分を求めて手を伸ばしている……そんな都合の良い幻影が見えているらしい。

「準備を急げ! 一刻も早くカスティルへ乗り込み、ミモリを奪還するのだ!」

「……了解いたしました、殿下(あばよ、パルマ王国。私はお姉様の元へ行くわ!)」

 ユリアは密かにガッツポーズをした。
 
 こうして、史上稀に見る「おめでたい勘違い集団」による連れ戻し隊が結成された。
 
 彼らがカスティル王国に足を踏み入れた時、待ち構えているのが「慈悲を乞う元婚約者」ではなく、「自分たちの存在をゴミを見るような目で見る、世界一効率的な悪役令嬢」であることに、アリオスはまだ一ミリも気づいていなかった。

「……あ、そうだ。ミモリを驚かせるために、特大のバラの花束も用意しておけよ! あいつ、ああいう非実用的なものが一番嫌いだったからな、嫌がらせに丁度いい!」

「…………」

 宰相は、もはや何も言わずに会議室を去っていった。
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