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カスティル王立魔導研究所、私の専用執務室。
そこには、眉間に深いシワを寄せ、何やら深刻な表情で震えているユリア様の姿があった。
「……お姉様。私、……私、とんでもないものを手にしてしまいましたわ……」
彼女が震える手で差し出したのは、パルマ王家の極秘印が押された一通の親書。
私はそれを指先でつまみ上げ、鼻を鳴らした。
「あら、ユリア様。そんなに震えていたら、あなたのその可愛らしいあざとさが台無しですわよ。……どれ、『ミモリを毒殺、あるいは魔導核を破壊して連れ戻せ。成功の暁には、パルマ王国の聖女として迎え入れる』……?」
私は内容を読み上げると、思わずお腹を抱えて笑ってしまった。
「おーっほっほっほ! 聖女ですって! あのアリオス殿下、私の助手をしているあなたに、そんな非効率な命令を下すなんて。彼の脳細胞は、ついに自律機能を失ったのかしら?」
「笑い事ではありませんわ、お姉様! これ、本気ですわよ! 毒薬まで同封されていたんですから!」
ユリア様が机の上に置いたのは、毒々しい紫色の液体が入った小さな小瓶。
私はそれをルーペで観察し、呆れたようにため息をついた。
「……遅効性の神経毒ですわね。これを私の紅茶に混ぜろと? 抽出温度の変化で変色する安物ですわ。こんなもの、アンの淹れる完璧なお茶に混ぜたら、一秒でバレてしまいますわよ」
「そんなの分かってますわ! だから私、お姉様に報告しに来たんですもの! 私をこんなに効率的に働かせてくれるお姉様を殺すなんて、私の人生にとって最大の損失ですわ!」
ユリア様は私の机に身を乗り出し、目を輝かせた。
「お姉様! これを逆手に取って、パルマ王国を木っ端微塵にして差し上げましょう! 私、『裏切り者のフリ』をする練習、もう鏡の前で百回はやりましたわよ!」
「あら、流石は私の助手。準備に無駄がありませんわね」
私は扇で口元を隠し、不敵な笑みを深くした。
ちょうど、パルマ王国がライセンス料の支払いを渋り始めているという報告を受けていたところだ。
この「ノイズ」を、最高の「ブースト」に変えて差し上げなくては。
「いいでしょう。ユリア様、あなたの『裏切り劇』、私がプロデュースして差し上げますわ。……アン、劇薬のような見た目の『超高濃度・美容ドリンク』を用意してちょうだい」
「かしこまりました、お嬢様。見た目だけは地獄の業火のように禍々しく、中身は肌がプルプルになる魔法薬を調合いたします」
「完璧ですわ。……さて、シグルド様にも一肌脱いでいただきましょうかしら。彼、『婚約者が毒殺された悲劇の王子』の役なんて、きっとノリノリで演じてくださるわよ」
作戦会議は、わずか五分で終了した。
三日後。
パルマ王国の使節団が滞在する迎賓館へ、一通の悲報が届けられた。
『ミモリ・フォン・ラングレイ、助手ユリアの手による毒茶を飲み、危篤』。
報告を聞いたアリオス殿下(の側近)は狂喜乱舞したことだろう。
だが、彼らが研究所の地下室に「遺体」を引き取りにやってきた時、待ち構えていたのは。
「――ようこそ、愚か者の皆様。私の『死体』を拝みにいらしたのかしら?」
純白の死装束……をイメージした、最新の魔導防御ドレスに身を包んだ私が、祭壇(に見せかけた実験台)の上で脚を組んで座っていた。
「な……み、ミモリ!? 生きているのか!?」
「失礼ね。死ぬなんて非効率なこと、私がするはずないでしょう? それよりユリア様、例のブツを」
私の隣で、ボロボロと嘘の涙を流していたユリア様が、スッと表情を消した。
「はい、お姉様。パルマ王家からの『殺人依頼書』の原本、および支給された毒物の成分解析表。すべてカスティル王国の法務局へ転送済みですわ。……これにて、パルマ王国は『国際指名手配国家』に格下げですわね」
「ユ、ユリア……貴様、私を裏切ったのか!?」
アリオス殿下の代理として来ていた使節の男が、顔を真っ青にして絶叫した。
「裏切る? 心外ですわ。私は最初から、お姉様の『効率』の信徒ですのよ。……さあ、シグルド様。出番ですわよ」
地下室の影から、抜身の剣よりも鋭い殺気を放つシグルド様が現れた。
「我が婚約者に毒を盛ろうとした罪、万死に値する。……パルマ王国には、ライセンス料の十倍の『慰謝料』を請求させてもらうぞ。……拒否するなら、今すぐこの国を魔導砲の射程に収めてもいい」
「ひ、ひえぇぇぇ!」
使節団は腰を抜かし、逃げるように去っていった。
私は祭壇から飛び降りると、満足げに髪を整えた。
「お見事でしたわ、ユリア様。あなたの泣き真似、少し過剰でしたが、観客の感情を揺さぶるには最適でしたわ」
「ふふ、お姉様に褒められるなんて光栄ですわ! これでパルマからの仕送りも止まりますし、私、正式にカスティルに帰化しますわね!」
「ええ、手続きは私が一秒で終わらせておきましたわ」
カスティル王国の王宮に、今日も平和な(?)爆笑が響き渡る。
悪役令嬢と、その元ヒロインの助手。
この最強の「効率的コンビ」を敵に回したパルマ王国の不運を、私は心の底から嘲笑って差し上げた。
そこには、眉間に深いシワを寄せ、何やら深刻な表情で震えているユリア様の姿があった。
「……お姉様。私、……私、とんでもないものを手にしてしまいましたわ……」
彼女が震える手で差し出したのは、パルマ王家の極秘印が押された一通の親書。
私はそれを指先でつまみ上げ、鼻を鳴らした。
「あら、ユリア様。そんなに震えていたら、あなたのその可愛らしいあざとさが台無しですわよ。……どれ、『ミモリを毒殺、あるいは魔導核を破壊して連れ戻せ。成功の暁には、パルマ王国の聖女として迎え入れる』……?」
私は内容を読み上げると、思わずお腹を抱えて笑ってしまった。
「おーっほっほっほ! 聖女ですって! あのアリオス殿下、私の助手をしているあなたに、そんな非効率な命令を下すなんて。彼の脳細胞は、ついに自律機能を失ったのかしら?」
「笑い事ではありませんわ、お姉様! これ、本気ですわよ! 毒薬まで同封されていたんですから!」
ユリア様が机の上に置いたのは、毒々しい紫色の液体が入った小さな小瓶。
私はそれをルーペで観察し、呆れたようにため息をついた。
「……遅効性の神経毒ですわね。これを私の紅茶に混ぜろと? 抽出温度の変化で変色する安物ですわ。こんなもの、アンの淹れる完璧なお茶に混ぜたら、一秒でバレてしまいますわよ」
「そんなの分かってますわ! だから私、お姉様に報告しに来たんですもの! 私をこんなに効率的に働かせてくれるお姉様を殺すなんて、私の人生にとって最大の損失ですわ!」
ユリア様は私の机に身を乗り出し、目を輝かせた。
「お姉様! これを逆手に取って、パルマ王国を木っ端微塵にして差し上げましょう! 私、『裏切り者のフリ』をする練習、もう鏡の前で百回はやりましたわよ!」
「あら、流石は私の助手。準備に無駄がありませんわね」
私は扇で口元を隠し、不敵な笑みを深くした。
ちょうど、パルマ王国がライセンス料の支払いを渋り始めているという報告を受けていたところだ。
この「ノイズ」を、最高の「ブースト」に変えて差し上げなくては。
「いいでしょう。ユリア様、あなたの『裏切り劇』、私がプロデュースして差し上げますわ。……アン、劇薬のような見た目の『超高濃度・美容ドリンク』を用意してちょうだい」
「かしこまりました、お嬢様。見た目だけは地獄の業火のように禍々しく、中身は肌がプルプルになる魔法薬を調合いたします」
「完璧ですわ。……さて、シグルド様にも一肌脱いでいただきましょうかしら。彼、『婚約者が毒殺された悲劇の王子』の役なんて、きっとノリノリで演じてくださるわよ」
作戦会議は、わずか五分で終了した。
三日後。
パルマ王国の使節団が滞在する迎賓館へ、一通の悲報が届けられた。
『ミモリ・フォン・ラングレイ、助手ユリアの手による毒茶を飲み、危篤』。
報告を聞いたアリオス殿下(の側近)は狂喜乱舞したことだろう。
だが、彼らが研究所の地下室に「遺体」を引き取りにやってきた時、待ち構えていたのは。
「――ようこそ、愚か者の皆様。私の『死体』を拝みにいらしたのかしら?」
純白の死装束……をイメージした、最新の魔導防御ドレスに身を包んだ私が、祭壇(に見せかけた実験台)の上で脚を組んで座っていた。
「な……み、ミモリ!? 生きているのか!?」
「失礼ね。死ぬなんて非効率なこと、私がするはずないでしょう? それよりユリア様、例のブツを」
私の隣で、ボロボロと嘘の涙を流していたユリア様が、スッと表情を消した。
「はい、お姉様。パルマ王家からの『殺人依頼書』の原本、および支給された毒物の成分解析表。すべてカスティル王国の法務局へ転送済みですわ。……これにて、パルマ王国は『国際指名手配国家』に格下げですわね」
「ユ、ユリア……貴様、私を裏切ったのか!?」
アリオス殿下の代理として来ていた使節の男が、顔を真っ青にして絶叫した。
「裏切る? 心外ですわ。私は最初から、お姉様の『効率』の信徒ですのよ。……さあ、シグルド様。出番ですわよ」
地下室の影から、抜身の剣よりも鋭い殺気を放つシグルド様が現れた。
「我が婚約者に毒を盛ろうとした罪、万死に値する。……パルマ王国には、ライセンス料の十倍の『慰謝料』を請求させてもらうぞ。……拒否するなら、今すぐこの国を魔導砲の射程に収めてもいい」
「ひ、ひえぇぇぇ!」
使節団は腰を抜かし、逃げるように去っていった。
私は祭壇から飛び降りると、満足げに髪を整えた。
「お見事でしたわ、ユリア様。あなたの泣き真似、少し過剰でしたが、観客の感情を揺さぶるには最適でしたわ」
「ふふ、お姉様に褒められるなんて光栄ですわ! これでパルマからの仕送りも止まりますし、私、正式にカスティルに帰化しますわね!」
「ええ、手続きは私が一秒で終わらせておきましたわ」
カスティル王国の王宮に、今日も平和な(?)爆笑が響き渡る。
悪役令嬢と、その元ヒロインの助手。
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