断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの

文字の大きさ
23 / 28

23

しおりを挟む
 カスティル王立魔導研究所、私の専用執務室。
 そこには、眉間に深いシワを寄せ、何やら深刻な表情で震えているユリア様の姿があった。

「……お姉様。私、……私、とんでもないものを手にしてしまいましたわ……」

 彼女が震える手で差し出したのは、パルマ王家の極秘印が押された一通の親書。
 私はそれを指先でつまみ上げ、鼻を鳴らした。

「あら、ユリア様。そんなに震えていたら、あなたのその可愛らしいあざとさが台無しですわよ。……どれ、『ミモリを毒殺、あるいは魔導核を破壊して連れ戻せ。成功の暁には、パルマ王国の聖女として迎え入れる』……?」

 私は内容を読み上げると、思わずお腹を抱えて笑ってしまった。

「おーっほっほっほ! 聖女ですって! あのアリオス殿下、私の助手をしているあなたに、そんな非効率な命令を下すなんて。彼の脳細胞は、ついに自律機能を失ったのかしら?」

「笑い事ではありませんわ、お姉様! これ、本気ですわよ! 毒薬まで同封されていたんですから!」

 ユリア様が机の上に置いたのは、毒々しい紫色の液体が入った小さな小瓶。
 私はそれをルーペで観察し、呆れたようにため息をついた。

「……遅効性の神経毒ですわね。これを私の紅茶に混ぜろと? 抽出温度の変化で変色する安物ですわ。こんなもの、アンの淹れる完璧なお茶に混ぜたら、一秒でバレてしまいますわよ」

「そんなの分かってますわ! だから私、お姉様に報告しに来たんですもの! 私をこんなに効率的に働かせてくれるお姉様を殺すなんて、私の人生にとって最大の損失ですわ!」

 ユリア様は私の机に身を乗り出し、目を輝かせた。

「お姉様! これを逆手に取って、パルマ王国を木っ端微塵にして差し上げましょう! 私、『裏切り者のフリ』をする練習、もう鏡の前で百回はやりましたわよ!」

「あら、流石は私の助手。準備に無駄がありませんわね」

 私は扇で口元を隠し、不敵な笑みを深くした。
 ちょうど、パルマ王国がライセンス料の支払いを渋り始めているという報告を受けていたところだ。
 この「ノイズ」を、最高の「ブースト」に変えて差し上げなくては。

「いいでしょう。ユリア様、あなたの『裏切り劇』、私がプロデュースして差し上げますわ。……アン、劇薬のような見た目の『超高濃度・美容ドリンク』を用意してちょうだい」

「かしこまりました、お嬢様。見た目だけは地獄の業火のように禍々しく、中身は肌がプルプルになる魔法薬を調合いたします」

「完璧ですわ。……さて、シグルド様にも一肌脱いでいただきましょうかしら。彼、『婚約者が毒殺された悲劇の王子』の役なんて、きっとノリノリで演じてくださるわよ」

 作戦会議は、わずか五分で終了した。
 
 三日後。
 パルマ王国の使節団が滞在する迎賓館へ、一通の悲報が届けられた。
 『ミモリ・フォン・ラングレイ、助手ユリアの手による毒茶を飲み、危篤』。

 報告を聞いたアリオス殿下(の側近)は狂喜乱舞したことだろう。
 だが、彼らが研究所の地下室に「遺体」を引き取りにやってきた時、待ち構えていたのは。

「――ようこそ、愚か者の皆様。私の『死体』を拝みにいらしたのかしら?」

 純白の死装束……をイメージした、最新の魔導防御ドレスに身を包んだ私が、祭壇(に見せかけた実験台)の上で脚を組んで座っていた。

「な……み、ミモリ!? 生きているのか!?」

「失礼ね。死ぬなんて非効率なこと、私がするはずないでしょう? それよりユリア様、例のブツを」

 私の隣で、ボロボロと嘘の涙を流していたユリア様が、スッと表情を消した。

「はい、お姉様。パルマ王家からの『殺人依頼書』の原本、および支給された毒物の成分解析表。すべてカスティル王国の法務局へ転送済みですわ。……これにて、パルマ王国は『国際指名手配国家』に格下げですわね」

「ユ、ユリア……貴様、私を裏切ったのか!?」

 アリオス殿下の代理として来ていた使節の男が、顔を真っ青にして絶叫した。

「裏切る? 心外ですわ。私は最初から、お姉様の『効率』の信徒ですのよ。……さあ、シグルド様。出番ですわよ」

 地下室の影から、抜身の剣よりも鋭い殺気を放つシグルド様が現れた。

「我が婚約者に毒を盛ろうとした罪、万死に値する。……パルマ王国には、ライセンス料の十倍の『慰謝料』を請求させてもらうぞ。……拒否するなら、今すぐこの国を魔導砲の射程に収めてもいい」

「ひ、ひえぇぇぇ!」

 使節団は腰を抜かし、逃げるように去っていった。
 
 私は祭壇から飛び降りると、満足げに髪を整えた。

「お見事でしたわ、ユリア様。あなたの泣き真似、少し過剰でしたが、観客の感情を揺さぶるには最適でしたわ」

「ふふ、お姉様に褒められるなんて光栄ですわ! これでパルマからの仕送りも止まりますし、私、正式にカスティルに帰化しますわね!」

「ええ、手続きは私が一秒で終わらせておきましたわ」

 カスティル王国の王宮に、今日も平和な(?)爆笑が響き渡る。
 
 悪役令嬢と、その元ヒロインの助手。
 この最強の「効率的コンビ」を敵に回したパルマ王国の不運を、私は心の底から嘲笑って差し上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!

冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。 しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。 話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。 スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。 そこから、話しは急展開を迎える……。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

処理中です...