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カスティル王宮、シグルド様の私的な執務室。
そこには、一国の予算書よりも分厚い、純白の羊皮紙の束が積み上げられていた。
「……あり得ませんわ。結婚式の儀式に三時間? そのうち、神官の祝詞だけで四十五分? シグルド様、これは神に対する冒涜ではなく、私の時間に対する暴力ですわよ」
私は羽ペンを剣のように振るい、次々と「非効率」な項目を線で消していく。
隣で優雅にコーヒーを飲んでいたシグルド様が、くすりと笑った。
「伝統っていうのは、得てして無駄を楽しむためにあるもんだ。……だが、お前がそこまで言うなら、祝詞は三分にまとめさせよう。神も、お前に睨まれるよりは早く終わらせたいだろうしな」
「当然ですわ。三分のスピーチで伝えられない神の愛なんて、言語化能力が欠如していますもの。……それから、この披露宴のメニュー! 品数が多すぎて、招待客の血糖値が乱高下してしまいますわ。もっと吸収効率の良い、高タンパクな構成に変えるべきですわね」
「……お前、自分の結婚式を『アスリートの合宿』か何かにするつもりか?」
シグルド様は呆れたように肩をすくめたが、その瞳には隠しきれない慈しみが宿っている。
パルマ王国を追い出され、この国に来てから数ヶ月。
私の世界は、驚くほどの速さで書き換えられていった。
「悪役令嬢」という名の防壁の中に閉じこもっていた私を、強引に連れ出し、その不器用な正体ごと抱きしめた男。
私は、手に持っていたペンを置き、真剣な表情で彼に向き直った。
「シグルド様。……あらためて、確認させていただきますわ」
「なんだ? 今さら『やっぱり効率が悪いから結婚はやめる』なんて言うなよ?」
「まさか。……その逆ですわ。……私を王妃にするということは、この国が私の『演算』の下に置かれるということ。……あなたが守ってきた伝統も、古い慣習も、私がすべて効率的に破壊し、再構築してしまいますわよ? それでも、よろしいのですか?」
私は、あえて挑戦的な笑みを浮かべた。
これは、私なりの最後の「確認」であり、彼への最大級の信頼の証。
シグルド様は、迷うことなく私の手を取り、指先に深く、誓いを立てるような口づけを落とした。
「望むところだ、ミモリ。……お前が壊すなら、俺が土台を支えてやる。お前が再構築するなら、俺がそのための剣になろう。……俺が求めたのは、ただの『王妃』じゃない。俺の人生という難解な数式を、一緒に解き明かしてくれる『相棒』なんだからな」
「……っ、……シグルド様、あなた。……本当に、ずるい男ですわね」
私は顔を伏せ、熱くなる頬を隠した。
論理では勝てない。
効率では測れない。
この男が私に向ける、あまりに真っ直ぐで、あまりに過剰な熱。
「……いいでしょう。新たな『契約』、締結ですわ。……あなたの隣で、この国を世界で一番効率的で、……そして、ほんの少しだけ騒がしい、幸せな国にして差し上げますわ」
「ああ、期待しているよ。……さて、契約成立の印に、もう少し『非効率な語らい』をしようか」
シグルド様が私を引き寄せ、その腕の中に閉じ込めた。
彼の鼓動が、私の背中に伝わってくる。
それは、どんな魔導メトロノームよりも正確に、私の幸せな未来のリズムを刻んでいた。
「……あ、シグルド様。抱擁の時間は十五秒以内と定めたはず……」
「契約違反だ。今日は、夜が明けるまで離さないと決めている」
「……非効率、すぎますわ……」
私は不満を口にしながらも、その温もりに身を委ね、小さく微笑んだ。
国外追放された悪役令嬢、ミモリ。
彼女の選んだ新しい道は、もはや「ごっこ」ではない。
愛という名の、最強のエネルギー源を手に入れた彼女の覇道は。
今、ここから本当のスタートを切ったのだ。
そこには、一国の予算書よりも分厚い、純白の羊皮紙の束が積み上げられていた。
「……あり得ませんわ。結婚式の儀式に三時間? そのうち、神官の祝詞だけで四十五分? シグルド様、これは神に対する冒涜ではなく、私の時間に対する暴力ですわよ」
私は羽ペンを剣のように振るい、次々と「非効率」な項目を線で消していく。
隣で優雅にコーヒーを飲んでいたシグルド様が、くすりと笑った。
「伝統っていうのは、得てして無駄を楽しむためにあるもんだ。……だが、お前がそこまで言うなら、祝詞は三分にまとめさせよう。神も、お前に睨まれるよりは早く終わらせたいだろうしな」
「当然ですわ。三分のスピーチで伝えられない神の愛なんて、言語化能力が欠如していますもの。……それから、この披露宴のメニュー! 品数が多すぎて、招待客の血糖値が乱高下してしまいますわ。もっと吸収効率の良い、高タンパクな構成に変えるべきですわね」
「……お前、自分の結婚式を『アスリートの合宿』か何かにするつもりか?」
シグルド様は呆れたように肩をすくめたが、その瞳には隠しきれない慈しみが宿っている。
パルマ王国を追い出され、この国に来てから数ヶ月。
私の世界は、驚くほどの速さで書き換えられていった。
「悪役令嬢」という名の防壁の中に閉じこもっていた私を、強引に連れ出し、その不器用な正体ごと抱きしめた男。
私は、手に持っていたペンを置き、真剣な表情で彼に向き直った。
「シグルド様。……あらためて、確認させていただきますわ」
「なんだ? 今さら『やっぱり効率が悪いから結婚はやめる』なんて言うなよ?」
「まさか。……その逆ですわ。……私を王妃にするということは、この国が私の『演算』の下に置かれるということ。……あなたが守ってきた伝統も、古い慣習も、私がすべて効率的に破壊し、再構築してしまいますわよ? それでも、よろしいのですか?」
私は、あえて挑戦的な笑みを浮かべた。
これは、私なりの最後の「確認」であり、彼への最大級の信頼の証。
シグルド様は、迷うことなく私の手を取り、指先に深く、誓いを立てるような口づけを落とした。
「望むところだ、ミモリ。……お前が壊すなら、俺が土台を支えてやる。お前が再構築するなら、俺がそのための剣になろう。……俺が求めたのは、ただの『王妃』じゃない。俺の人生という難解な数式を、一緒に解き明かしてくれる『相棒』なんだからな」
「……っ、……シグルド様、あなた。……本当に、ずるい男ですわね」
私は顔を伏せ、熱くなる頬を隠した。
論理では勝てない。
効率では測れない。
この男が私に向ける、あまりに真っ直ぐで、あまりに過剰な熱。
「……いいでしょう。新たな『契約』、締結ですわ。……あなたの隣で、この国を世界で一番効率的で、……そして、ほんの少しだけ騒がしい、幸せな国にして差し上げますわ」
「ああ、期待しているよ。……さて、契約成立の印に、もう少し『非効率な語らい』をしようか」
シグルド様が私を引き寄せ、その腕の中に閉じ込めた。
彼の鼓動が、私の背中に伝わってくる。
それは、どんな魔導メトロノームよりも正確に、私の幸せな未来のリズムを刻んでいた。
「……あ、シグルド様。抱擁の時間は十五秒以内と定めたはず……」
「契約違反だ。今日は、夜が明けるまで離さないと決めている」
「……非効率、すぎますわ……」
私は不満を口にしながらも、その温もりに身を委ね、小さく微笑んだ。
国外追放された悪役令嬢、ミモリ。
彼女の選んだ新しい道は、もはや「ごっこ」ではない。
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今、ここから本当のスタートを切ったのだ。
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