月兎

宮成 亜枇

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 もう一つの性を知ってからと言うもの、あまりにたくさんの変化があり、朔夜自身が追いつかない。学校に行く時もそうだ。歩いていくつもりだったのに、実際は毎日迎えに来る一真の車に乗り、帰りもここまで送ってもらっている。朔夜は何度も断ったのだが、一真だけでなく運転手の佐伯にまで「私が心配になるので乗ってください」と言われて、結局折れてしまう。
 そうなると、周りから不思議がられるのは当然のことで、あちこちから理由を尋ねられたが、「いいだろっ、別にっ!!」と一真が一蹴したため、それ以上問われることはなかった。
 授業中は今までと変わらない、と言いたいところだったが。朔夜を見る周りの視線が変わったような気がする。朔夜自身も気を張っているせいでそう感じているだけだと思いたかったが、どうも違うようだ。はっきり言えないが、今まで全く関わりのなかった同級生から突然話しかけられたり、身体を密着させられたりする。その度に平然を装いはするのだが、正直、気持ちが悪い。それでますます気を張るようになり、帰りの車で毎回グッタリしてしまうほどに。そのせいで、一真に余計な心配をかけている。
「このままじゃあ、ダメだよなぁ」
 帰宅後、制服から着替えた直後にベッドにダイブし、思う。この行動自体が朔夜らしくないのだが、そうしたくなるほどに心身共に疲れ切っていた。多英からは病院に行くことを勧められている。抑制剤を使えば、普通に生活ができるのは朔夜もわかりきっているのだが、どうしても気が向かない。今までアルファだと思っていたからこそ、まだ、オメガだと認めたくない部分があった。
 しかし、猶予がないことも自覚している。急にスキンシップ過多になった同級生は皆、アルファだと判定を受けている。彼らがやってくるという事は、もう……、フェロモンが発せられ始めているのだろう。オメガの起こす『ヒート』によって、彼らは『ラット』と呼ばれるアルファ独特の発情を起こす。そうなってしまったらもう、どうにもならない。どんなに拒否しても、アルファはオメガに食らいつく。欲情のすべてを吐き捨てるまで。肉体的なダメージはオメガの方が遙かに大きいのに、加害者とされるのはいつもオメガ。アルファを誘う方が悪い。それですべて片付けられる。
 そして、もう一つ。朔夜には心配の種があった。
 オメガだという事を知っても変わらずの付き合いをしてくれる一真。彼が最近、朔夜を色のある目で見つめていることに気づいた。呼べば普通に会話を交わすことからおそらくは無意識。それに、朔夜は戸惑い、焦った。彼はまだ十三歳。検査を受けるにはまだ二年ある。しかし、小学生がオメガのヒートに誘発されてラットを起こした。慌てて検査をし、小学生はアルファであることが判明した、と言う例も報告されている。
(たぶん、一真も……)
 携帯で検索をかけながら考える。秀だけでなく、一真もアルファで間違いないだろうと。そうでなければ、あんな目で見つめられる意味がわからない。
「くそ……っ」
 検索をやめ、腕を瞼に乗せる。シャットダウンされた視界で今までのことを思いだし、纏める。
 病院に行くのは屈辱的だ。更に言えば、オメガとして医者に厄介になった途端に、両親や兄弟に迷惑をかける可能性もある。こんな形で隔離されても、両親には恩がある、顔に泥を塗るようなことはしたくない。しかし、このままでは己が危険に晒される。後々考えると、その方が両親のプライドを傷つけるのではないか。……それなら。

 腕を外し、朔夜はもう一度検索を始める。
 できるだけ、遠く。誰にも迷惑のかからないところを。

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