月兎

宮成 亜枇

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 二人で協力して朔夜を着替えさせ、ベッドに横たえる。時折「ごめ……っ」と言う声が聞こえていたことから、多少は状況を把握しているようだが、それでも意識が混濁していることには変わりなく、朔夜はされるがままだった。
「うわっ、マジかぁ……」
「高いね……」
 多英から預かった体温計は、かなりの高さをたたき出す。
「いったいいつから?」
「わっかんねぇ。少なくても今朝は熱はなかったと思う。俺、ずっと隣にいたから」
 今朝の様子を必死で思い出すが、体調の悪さには気づいていたが、もし発熱していればさすがに気づく、その時点で学校に行くのを止めたはずだ。
「最近、ずっと怠そうにしていたのは気づいてたんだけどさ」
「そっか」
 そこまでを確認し、秀は朔夜に、そして部屋全体に視線を送る。相当疲れていたのか、朔夜はもう眠りについたようだ。やや苦しそうではあるが、眠れているのならそのままにしてあげたい。一真はずっと、泣きそうな顔で朔夜を見ている。ずっと兄のように慕っている彼が辛そうにしているのが、一真も辛いのだろう。
 ……と。
「えっ?」
 秀は、机に何かあるのに気づいた。そのまま歩いていき、見つめる。
 几帳面な朔夜にしては、やや乱雑に置かれていたのは、
「くすり?」
「へっ??」
「これ、そうだよね。なんで飲んでるんだろう? 風邪ひいてたのかな??」
 二人とも、勝手に人の机の物に触れるようなことはしない。どれだけ失礼に当たるかわかっているからだ。ただ、何錠か零れていた薬と、残りが入っているだろうと思われる袋。その二つを照合して、一真にはある答えが浮かんだ。
「抑制剤……」
「えっ? なに、それ……っ」
「多分そうだ」
「ちょっと待って! 何でそんなのがここにあるの? なんでそれを朔夜くんが持ってるの?? ……ねえっ!?」
 抑制剤が何のためにあるのかは、中学生ともなれば理解できる。突然出てきた単語に戸惑いながらも、秀は自身で答えを出す。
「もしかして。……朔夜くんは、『オメガ』だって、こと……?」
 秀の言葉に、一真は苦々しく頷く。もちろん否定することもできたが、それは全く無意味なこと。朔夜本人が秀に伝えると言っていたのにこんな事になってしまい、申し訳ない思いで一真はいっぱいだ。
「そう、だよ……」
「朔夜くんっ」
 その時届いた声に、二人は慌ててベッドに戻る。
「ごめ、ね。……いつか、いわ、な、っと、って。……った。……けどっ」
『いつか言わないとって思った』。苦しげに吐く言葉一つ一つが、秀に刺さる。先ほどの様子から、おそらく一真はすでに知っている。なのになんで教えてくれなかったんだ! と文句を言いたい感情と、朔夜はアルファであって当然、それが覆された思いと。そのため、どう返していいのか、言葉が見つからなかった。
「ははっ。……なっさけ、ない……っ」
 無理矢理身体を起こそうとするので、素早く一真がサポートに入る。
「こんな、ちっちゃなこと、で。……ね」
 
 自虐的に微笑みながら呟く彼は、とても痛々しい印象を二人に与えた。
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