月兎

宮成 亜枇

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 寒いのか、それとも他の理由なのか。朔夜の身体は小さく震えている。一真は制服のジャケットを脱ぎ、細い肩に掛けた。
「ほんっと、なさけない……」
 先ほどの言葉をもう一度呟く。それに
「何が?」と一真が聞いても、緩く首を振って答えない。そんな小さな動作も辛そうで、「はぁ……っ」と熱い息を吐いた。

 訪れた沈黙。
 一真も秀も、なんて言葉をかければいいのかわからなかった。朔夜は朔夜で、布団を握りしめ、情けなさで潰れそうな自身を何とか保っているような状態。しかし、
「わ……っ」
「! おいっ!!」
 グラッと大きく揺れた身体を一真は慌てて引っ張り、自らの腕に納めた。
「ごめ……っ」
 謝りはしたものの、朔夜は相変わらず。このままでは埒があかない。
「朔夜くん。いろいろ聞きたいことはあるけれど、今は休んで」
「でもっ、おれ、めいわ、く」
「それはいいよ。気にしてない。だけど、気を悪くしたらゴメンね。今の朔夜くん見てるのは、俺は、辛い……」
「秀っ!」
「一真だってそうでしょ? ……朔夜くん、何を抱え込んでるのかは今は聞かない。でも、言って? 言ってくれなきゃ俺、バカだから何もわかんない。辛そうにしてる朔夜くんを助けたいのに、助けられない。それは、イヤだ」
 正直に話す秀に、朔夜の表情がわずかに緩む。一真のように真っ正面からではないが、秀も思いをはっきりと伝える方だ。今更それを思い出したのだ。
「だけど、おれ……」
「オメガだから、って言いたいの? そんなの関係ないよ。朔夜くんだから。それだけ」
 さらにいいわけを重ねようとするのを遮り、秀は微笑む。
「一真もでしょ?」
「あ! もちろんっ!!」
「ふふっ。 だから今は休んで。でも、何でこうなったのかは、後で良いから必ず言って。一人で何でも抱え込むのは悪い癖だよ」
 柔らかく説教されたような気分になり、朔夜は「はい……」と言い、再び布団に身を沈める。
「帰ろう、一真」
「へっ?」
「俺たちがいたら、朔夜くんたぶん無茶するよ。話は後からいくらでも聞けるじゃん」
 言うが否や、秀はドアに向かって歩き出したため、急いで一真も追うことに。
「朔夜……」
 部屋を出る間際、一真は振り返る。よほど無理をしていたのか、朔夜はもう、眠っているように見えた。

「ふふっ。一真は本当に朔夜くんが好きなんだね」
「えっ? ……へっ??」
「隠さなくていいよ。好きがダダ漏れしてる、隠そうとするだけ無駄だから」

 多英に帰る旨を告げ、靴を履きながら秀が放った言葉は、一真をテンパらせるのには十分だった。
 
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