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オメガのための法人は今までもいくつかあったが、ほぼすべてが活動を停止しているような状態だった。理由は、立ち上げたのが大抵がベータかオメガ。そのために一部のアルファから抑圧されてしまうのだ。
その点、年若いとは言え一真はアルファ、しかも『鷲尾』。彼自身は家の名を使う気はなかったが、良くも悪くも名前の効力は絶大。法人を設立し多数ヶ月後にはマスコミにも取り上げられ、活動範囲も大きくなった。
両親にもすぐにこの事が伝わってしまい、どうなるかとヒヤヒヤしたが、意外にも両親はこの活動を賛成してくれた。経費についても一時期多英が負担した分まで出費してくれている。どうしてなのか、初めのうちはよくわからなかったが、しばらくして判明した。
『鷲尾』は、オメガを優遇している企業。その息子がこのような法人を立ち上げたとなればそれだけで有益な話題になる。よって、事業も有利に進める事ができた。
それがわかり、結局利用されているのかと歯がゆい思いをしたが、「利用できるものはするべき。お互い様ですよ」と佐伯に言われ、モヤモヤしたものをなんとか押さえつける事ができた。
だが、高等部に進学した一真は多忙を極め、体力に自信があるとは言えさすがに疲れの色は隠せないでいた。秀に少しペースを落とせと言われても、聞く耳を持たない。そして、活動の方はますます一真を表に出させようとする。このままでは、倒れるのも時間の問題ではないかと、彼に関わりの深い誰もが思っていた。
一真の様子を秀はただ傍観していた。何か言われれば協力せざるを得ないと思っていたがそれもない。だが、さすがに心配になる。
だからといって、積極的に関わる気にはなれなかった。それもそのはずで、水無瀬という財閥は昔からオメガを蔑んで来た。秀自身はそのこと自体はバカらしいと思っているが、水無瀬を名乗っている以上、同類だと思われても仕方がない。
今日も、一真と同時に学校から出たが、車に乗った彼は佐伯と何かを話し、車は自宅と反対方向へ進んだ。何か予定があるのだろう。
秀は自宅に戻り出されていた課題もすべてこなした後、ボンヤリと窓の外を見つめていた。いつもなら趣味の絵を描いたり軽く身体を動かしたりするのだが、そんな気も起きなかった。
すると。机の上に置きっぱなしだった携帯が鳴る。誰かと思って画面を見つめると意外と言えば意外、当然と言えば当然と言える人物からだった。
「はい」
『あ。えっと。朔夜です。あのっ、秀くん。今……、大丈夫?』
何と言う歯切れの悪さだろう。らしくない。戸惑いながらかけてきたのが手に取るようにわかる。
「うん、大丈夫だよ。……何?」
『あ、あのね。えっとぉ……』
何を聞きたいのかはわかっていたがあえて尋ねる。それでも朔夜は相変わらず。無理矢理聞き出してもいいのだが、それを後で一真が知ったら何と言われるか。容易に想像できてしまい、苦笑しながら秀は答える。
「……今のところは大丈夫だよ。でも、たぶんあのまま放っておいたら倒れるんじゃない?」
『えっ!?』
「俺が何言っても聞いてくれないしねぇ……。止められるのは朔夜くんだけだと思うけれど?」
なんて、意地悪なのだろう。しかし、これは秀の本音。両親は息子にもっと活動して欲しいと願っている、そして、それに呼応するように一真を求める声がかかる。彼はこのチャンスを逃したくないと無理をしてでも行動する。今の一真をもし止める事ができるのなら朔夜だけだ。
『でも、あの……っ』
朔夜の気持ちもわかる。が、いつもなら相談する前に自ら考え行動を起こしているだろう。なのにそれをしないという事は。
このまま電話越しに話をしていても話が進まない。そう思った秀は。
「朔夜くん。遊びに行ってもいい? 俺暇しててさ」
と、本題には全く触れずにアポを取る。朔夜はしばらく考えたうちに、
「うん……、わかった。待ってる」
そう答えた。
乗り気じゃない空気は多大に感じたが、許可を得る事ができた。そうとなったら事は早いほうがいい。秀は使用人の一人を捕まえ、手土産となるお菓子を用意してもらい、朔夜の家に向かった。
その点、年若いとは言え一真はアルファ、しかも『鷲尾』。彼自身は家の名を使う気はなかったが、良くも悪くも名前の効力は絶大。法人を設立し多数ヶ月後にはマスコミにも取り上げられ、活動範囲も大きくなった。
両親にもすぐにこの事が伝わってしまい、どうなるかとヒヤヒヤしたが、意外にも両親はこの活動を賛成してくれた。経費についても一時期多英が負担した分まで出費してくれている。どうしてなのか、初めのうちはよくわからなかったが、しばらくして判明した。
『鷲尾』は、オメガを優遇している企業。その息子がこのような法人を立ち上げたとなればそれだけで有益な話題になる。よって、事業も有利に進める事ができた。
それがわかり、結局利用されているのかと歯がゆい思いをしたが、「利用できるものはするべき。お互い様ですよ」と佐伯に言われ、モヤモヤしたものをなんとか押さえつける事ができた。
だが、高等部に進学した一真は多忙を極め、体力に自信があるとは言えさすがに疲れの色は隠せないでいた。秀に少しペースを落とせと言われても、聞く耳を持たない。そして、活動の方はますます一真を表に出させようとする。このままでは、倒れるのも時間の問題ではないかと、彼に関わりの深い誰もが思っていた。
一真の様子を秀はただ傍観していた。何か言われれば協力せざるを得ないと思っていたがそれもない。だが、さすがに心配になる。
だからといって、積極的に関わる気にはなれなかった。それもそのはずで、水無瀬という財閥は昔からオメガを蔑んで来た。秀自身はそのこと自体はバカらしいと思っているが、水無瀬を名乗っている以上、同類だと思われても仕方がない。
今日も、一真と同時に学校から出たが、車に乗った彼は佐伯と何かを話し、車は自宅と反対方向へ進んだ。何か予定があるのだろう。
秀は自宅に戻り出されていた課題もすべてこなした後、ボンヤリと窓の外を見つめていた。いつもなら趣味の絵を描いたり軽く身体を動かしたりするのだが、そんな気も起きなかった。
すると。机の上に置きっぱなしだった携帯が鳴る。誰かと思って画面を見つめると意外と言えば意外、当然と言えば当然と言える人物からだった。
「はい」
『あ。えっと。朔夜です。あのっ、秀くん。今……、大丈夫?』
何と言う歯切れの悪さだろう。らしくない。戸惑いながらかけてきたのが手に取るようにわかる。
「うん、大丈夫だよ。……何?」
『あ、あのね。えっとぉ……』
何を聞きたいのかはわかっていたがあえて尋ねる。それでも朔夜は相変わらず。無理矢理聞き出してもいいのだが、それを後で一真が知ったら何と言われるか。容易に想像できてしまい、苦笑しながら秀は答える。
「……今のところは大丈夫だよ。でも、たぶんあのまま放っておいたら倒れるんじゃない?」
『えっ!?』
「俺が何言っても聞いてくれないしねぇ……。止められるのは朔夜くんだけだと思うけれど?」
なんて、意地悪なのだろう。しかし、これは秀の本音。両親は息子にもっと活動して欲しいと願っている、そして、それに呼応するように一真を求める声がかかる。彼はこのチャンスを逃したくないと無理をしてでも行動する。今の一真をもし止める事ができるのなら朔夜だけだ。
『でも、あの……っ』
朔夜の気持ちもわかる。が、いつもなら相談する前に自ら考え行動を起こしているだろう。なのにそれをしないという事は。
このまま電話越しに話をしていても話が進まない。そう思った秀は。
「朔夜くん。遊びに行ってもいい? 俺暇しててさ」
と、本題には全く触れずにアポを取る。朔夜はしばらく考えたうちに、
「うん……、わかった。待ってる」
そう答えた。
乗り気じゃない空気は多大に感じたが、許可を得る事ができた。そうとなったら事は早いほうがいい。秀は使用人の一人を捕まえ、手土産となるお菓子を用意してもらい、朔夜の家に向かった。
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