月兎

宮成 亜枇

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 今までにも身体を重ねた事はあった。しかし、それはすべて発情期のせいで。そうでない時の行為は、恥ずかしくてどうしていいかわからなくなる。それでも、
「はっ。あ……っ」
 与えられる刺激は、とても甘美で。もっと欲しいと、心が次を求める。
「朔夜、綺麗……」
 先ほどまで、舌っ足らずで子供のような態度でいたクセに、気づけばギラついた視線で一真は見つめていた。
「かず、ま……?」
 どうせ忘れてしまうだろうから、今の気持ちに素直に従った。抱かれたい、と思ったのだ。しかし、今の彼はもう。
「ちょっ、一真、待って!」
「やだ、待たない」
「ダメっ、だって多英さんいるし」
「今までだって、多英さんがいたって関係なかったじゃん。それに、多英さんは俺達の事認めてくれてる。大丈夫」
 ああ、もう……。これは完全にいつもの一真だ。朔夜に負担がかからない、それでも抵抗が厳しい程度の力で拘束し、ニッと笑う。発情期の際は、朔夜の方が殆ど思考が飛んでしまっている、だから何をしたのかも覚えてない。しかし今は、状況をしっかり記憶できるほど理性は残っている。これは、恥ずかしいという言葉では言い表せなくて、もどかしい。
「本当は、これ外して欲しいんだけどね」
 朔夜の首に巻き付く帯を指でなぞり、
「でも、今日はいいや。……ね? 俺、マジで朔夜不足で死にそうなんだ。だから、癒やしてよ」
 そう告げると、固くなり始めた尖りを口に含み、舌で転がす。
「やぁ、あっ」
「嫌? 違うよね。だって、ここ、もう苦しそうだよ」
「いわ、ないでっ」
 両手で顔を隠し、朔夜は訴えたが。それは聞き入れて貰えなそうだ。実際に、与えられ続けた快楽は欲望に火をつけ、首をもたげ始め苦しそうにしている。それは、見なくても触れなくてもわかる。わかっているが、口にされるといろいろな意味で泣きたくなる。
 顔を隠している事を良い事に、一真は朔夜のズボンを下着ごと下ろし、脱がせてしまう。そうして、主張を始めたモノに触れ、扱き始める。
「いやっ、ああっ!」
「ったく、素直じゃないなぁ」
 嬉しそうに告げる一真に、この状況でも必死で考え、たどり着いた答えを彼に投げつける。「ひょっとして、騙した?」と。
「んー……。意識飛んだのはマジ。気づいたらここにいた。でもゴメン。ガキのようにしたのはわざと。だって、そうでもしないとすぐに追い返されると思ったから。だけど良かったよ。お陰で朔夜の本音、聞けたんだもん」
 とても嬉しそうにネタばらしをする一真に、一瞬ムッとしたが、それよりも強い快楽を与えられてしまうため、怒りたくても怒れない。
「朔夜、好きだ。誰よりも好きだ」
 何度も、そう言いながら一真は愛撫を続け。次第に身を預けるようになった彼の秘部に指を忍ばせる。
「うぁっ、いた……っ」
「力抜いて、ね?」
 長い間触れていなかったそこは窄まり、指一本受け入れるのにも痛みと不快感を覚える。が、いち早く気づいた一真に諭され、重なる唇や、大きな手が与えるものに委ねるようにすれば。指は奥に侵入し、朔夜がもっとも感じる場所へと到達する。
「んっ! んんっ!!」
 声は塞いでしまっているから、呻き声しか届かない。それでも感じてくれているのがわかる。これを、ずっと待っていた、望んでいた。
 そうなると、もっと欲しい。今まで離れていた時間をすべて取り戻したい。
 倒れるほど疲れている身体の事を考えると、明らかに間違っている。しかし、これ以上心が満たされる事はない。

 今の一真には。そして、朔夜にとっても。この行為こそが必要だったのだ。
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