月兎

宮成 亜枇

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 食らいつくだけ食らいつくし、ようやく満足した彼らは、精も根も尽き果てたように裸のまま微睡む。
「取って……」
「ん?」
「ケース、取って」
 言われて、ああ、と納得した一真はケースを手に取り、何を思ったのか避妊薬ピルを舌に乗せ、朔夜に口うつしで飲ませた。本来、薬は水で飲むものだが今はそんなものはない。錠剤を送り込んだのは、一真の唾液だ。
「ぷはっ。……んもうっ」
「くははっ。それでも飲めただろ?」
 顔を真っ赤にして拗ねる朔夜に対し、楽しそうに一真は笑う。そうして、くっきりと残る噛んだ跡に触れ、指でなぞった。
「やっと、番になれた……」
 ゆっくりと、何度もその動作を繰り返す彼を、申し訳なく思う。一真はずっと、一途な想いを貫き、伝えてくれた。朔夜はそれを拒否し続けた。彼の将来を思って。だが、言葉は少なくても、痛いほどに伝わる。ここまでの強い愛情を、かつて受けたことがあったか。そう考えると、感情の整理がもうつかない。嬉しさと、申し訳なさと、これからの不安が混じり合い、勝手に涙が溢れ出す。
「朔夜、泣くな」
「だ、って……」
「大丈夫。何とかなる。何とかする。朔夜は何があっても、俺が守る」
「だったら……」
 まだ、涙は止まらないが。しっかりと一真と向き合い、瞳を見つめ、朔夜は告げた。

「俺にも、一真を守らせて」


 今まで、こんな事は言えなかった。守る力なんてないと思っていたからだ。だが、いつまでも守られてばかりはいられない。一真はすでに矢面に立っている。彼に対して何ができるかわからないが、守りたい。そう思ったのだ。
「……朔夜は、俺を守らなくていいよ。だって、そのために自ら火に飛び込みそうなんだもん」
「でも」
「それなら」
 反論しようとする朔夜の唇に指を当て、一真は告げる。
「俺がもっとも安心できる場所。それを作って欲しいんだ」
 その意味がわからず小首をかしげた朔夜だったが、「んー……、例えるならあったかい家みたいなもんかな?」という言葉で理解できた。アルファの中でも上位に属する一真は、今の法人も大きなものにしていくだろう。そうなると当然反感も買う。ストレスも溜まる。その時に安心する、傷ついた心と身体を癒やせる場所が欲しいと。
「それで、いいの?」
「ああ、もちろん」
 不安そうに尋ねれば、笑顔で応えられる。つられて、朔夜も小さな笑みを作った。
「じゃあ、まずは風呂に行くか。……歩ける?」
「ごめん、無理……っ」
「だろうな。じゃあ、準備してくるからもう少しここにいて。やらなきゃならないことはスゲぇあるけれど、まずはそこからだよなぁ」
 くははっ、と豪快に笑う一真に朔夜はまた恥ずかしくなったが、それもそうだ、まずは何とかしてここを原状復帰しないといけない。
 機嫌がいいのか、鼻歌を歌いながら一真は行動を開始する。全裸のまま、と言うのがある意味笑えるがこんな時間も幸せ。

 親に何と言えばいいのか、一真の両親に何と詫びを入れればいいのか。問題は山積みであったが、今は考えることをすべて放棄した。

 ただ、幸福なひとときを噛みしめていたかった。
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