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9.計画
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「一言で申し上げます。お金が必要なのです」
あまりに単刀直入な言葉に、レオニダスもオスカーも息を呑んだ。
マルグリットは、資料をまとめる前に地図を広げた。
「これは首都に続く橋です。この橋が壊されていたので、わたくしどもはこの道を迂回したのですが、こちらも壊れておりました」
「申し訳ない――」
「そして、この道は現在補修の手配をしていただいておりますわね?」
「はい。奥様に言い渡されたその日に手配を行っております。すでに人手も集めて工事に着手していると報告を受けております」
オスカーが言うと、マルグリットは満足して頷いた。
「橋の再建にかかる費用は1箇所でおおよそ金貨100枚と聞いております。橋は3箇所――つまり金貨300枚が必要になります。それ以外にも道路や農業用水路――すべてを合わせると金貨1500枚は下りません」
具体的な数字を突きつけられて、レオニダスは言葉が出なかった。
「もちろん、一気に手掛けるわけではございませんが」
マルグリットはそう言うと、ゆっくりと息を吸った。
「別問題としまして、領地には失業者が溢れています。彼らはみな住む家もなく路上で生活して、そのまま亡くなる者もおります。今はまだ領地の警備兵や有志の者たちが死体を処理してくれていますが、処理しきれなくなると病の元となります。この問題も早急に対処しなければなりません」
「ああ。だから復旧の作業に彼らを使うつもりでいた」
「そのおつもりは、いつ実行されるご予定なのでしょうか」
レオニダスが負けじと言い返したが、マルグリットに一蹴されてしまった。
レオニダスが言葉に詰まっていると、マルグリットは続けた。
「閣下――旦那様がこれまで何もなさってこなかったわけではないことは存じております。屋敷の備蓄の小麦や薪を領民に分け与えたりしていたことは、視察の間に色々な村で耳にいたしました。ですが、施しは一時的なものでしかありません。必要なのは継続した経済活動です」
マルグリットはそう言うと、紙の束から数枚の紙を取り出した。
視察の間、オスカーに書き記すよう伝えた覚え書きだった。
「冬になる前に、この水路と、この道路と橋を修復します」
マルグリットが提示したものは、レオニダスとオスカーも優先順位が高いものだと理解している場所だった。
「確かに、その橋と道路を修復すれば、他の領との運行は格段に楽になる――だが、工事をしたところで一時的な雇用は生まれるが工事が終われば……」
レオニダスの脳裏に戦争で栄えていた頃の領地が浮かんでいることは、マルグリットにも理解できた。
「そうです。いくら道を作ろうが橋を架けようが、売る商品も買う資金もないような所に商人は来ません。だから、お金が必要なのです」
レオニダスにもオスカーにも、マルグリットの理屈はわかるようでわからなかった。
「この水路ですわ」
マルグリットは地図に青いインクでバツが書かれた場所を指さした。
「この水路は、ここと、ここの農地に給水しておりました。つまり、この水路が復旧するとこれらの農地が使えるようになるのです」
「その通りです。ですが――」
オスカーは語尾を濁しながら、腕を組んで眉間にシワを寄せているレオニダスを見た。
だが、水路の補修には技術者が必要になる。この領地にいるだろうか。
レオニダスは言葉に出さなかったが、マルグリットには心の声が聞こえていたのだろうが。
「イングリッド伯爵に技術者の貸し出しを要請しておりますわ。喜んで貸し出してくださるとお返事をいただいております」
「あの手紙――」
オスカーが声を上げると、レオニダスが眉根を寄せた。
自分よりも長い時間を主従として共に過ごしているのだ。二人にしかわからない仕事の話もあるだろう。
だが、レオニダスの胸には、重苦しい何かが詰め込まれたような感じになっていた。
「これらの工事の資金はわたくしの持参金からお支払いしますわ」
沈黙は否定と思ったのだろうか。
マルグリットは毅然と言い放った。
「いけない。それはあなたの資産だ」
レオニダスが言うと、マルグリットは首を傾げた。
「旦那様は、オスカーと同じ事をおっしゃるのですね。二人とも時期が来ればわたくしを追い出すおつもりなのかしら」
「そんなはずはないだろう。俺は少なくとも、そんな相手を抱いたりはしない」
口走ってから、レオニダスはしまったと思ったが遅かった。
マルグリットは唖然とした表情を次第に真っ赤にすると、貴婦人らしからぬ速さで執務室を飛び出して行ってしまった。
「ちょっと、ご主人様……今のはないですよ……」
流石に、今回ばかりはオスカーの無礼を殴る気にはなれなかった。
あまりに単刀直入な言葉に、レオニダスもオスカーも息を呑んだ。
マルグリットは、資料をまとめる前に地図を広げた。
「これは首都に続く橋です。この橋が壊されていたので、わたくしどもはこの道を迂回したのですが、こちらも壊れておりました」
「申し訳ない――」
「そして、この道は現在補修の手配をしていただいておりますわね?」
「はい。奥様に言い渡されたその日に手配を行っております。すでに人手も集めて工事に着手していると報告を受けております」
オスカーが言うと、マルグリットは満足して頷いた。
「橋の再建にかかる費用は1箇所でおおよそ金貨100枚と聞いております。橋は3箇所――つまり金貨300枚が必要になります。それ以外にも道路や農業用水路――すべてを合わせると金貨1500枚は下りません」
具体的な数字を突きつけられて、レオニダスは言葉が出なかった。
「もちろん、一気に手掛けるわけではございませんが」
マルグリットはそう言うと、ゆっくりと息を吸った。
「別問題としまして、領地には失業者が溢れています。彼らはみな住む家もなく路上で生活して、そのまま亡くなる者もおります。今はまだ領地の警備兵や有志の者たちが死体を処理してくれていますが、処理しきれなくなると病の元となります。この問題も早急に対処しなければなりません」
「ああ。だから復旧の作業に彼らを使うつもりでいた」
「そのおつもりは、いつ実行されるご予定なのでしょうか」
レオニダスが負けじと言い返したが、マルグリットに一蹴されてしまった。
レオニダスが言葉に詰まっていると、マルグリットは続けた。
「閣下――旦那様がこれまで何もなさってこなかったわけではないことは存じております。屋敷の備蓄の小麦や薪を領民に分け与えたりしていたことは、視察の間に色々な村で耳にいたしました。ですが、施しは一時的なものでしかありません。必要なのは継続した経済活動です」
マルグリットはそう言うと、紙の束から数枚の紙を取り出した。
視察の間、オスカーに書き記すよう伝えた覚え書きだった。
「冬になる前に、この水路と、この道路と橋を修復します」
マルグリットが提示したものは、レオニダスとオスカーも優先順位が高いものだと理解している場所だった。
「確かに、その橋と道路を修復すれば、他の領との運行は格段に楽になる――だが、工事をしたところで一時的な雇用は生まれるが工事が終われば……」
レオニダスの脳裏に戦争で栄えていた頃の領地が浮かんでいることは、マルグリットにも理解できた。
「そうです。いくら道を作ろうが橋を架けようが、売る商品も買う資金もないような所に商人は来ません。だから、お金が必要なのです」
レオニダスにもオスカーにも、マルグリットの理屈はわかるようでわからなかった。
「この水路ですわ」
マルグリットは地図に青いインクでバツが書かれた場所を指さした。
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オスカーは語尾を濁しながら、腕を組んで眉間にシワを寄せているレオニダスを見た。
だが、水路の補修には技術者が必要になる。この領地にいるだろうか。
レオニダスは言葉に出さなかったが、マルグリットには心の声が聞こえていたのだろうが。
「イングリッド伯爵に技術者の貸し出しを要請しておりますわ。喜んで貸し出してくださるとお返事をいただいております」
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オスカーが声を上げると、レオニダスが眉根を寄せた。
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