辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた

文字の大きさ
50 / 50

50.掉尾

しおりを挟む
 りんごの木はグリニアにとって、資源でありゴミであった。
 グリニアのりんごは甘く、蜜が多い。
 その分、枝木にも樹液が多く薪には不向きだった。
 なので、グリニアでは剪定したりんごの枝の処理は問題となっていた。
 だが、この男――いや、その後ろにいる妻は、それをいとも簡単に解決しようとしていたのだ。
 アーサーは興味深く微笑むと、レオニダスの言葉に耳を傾けた。
「試行錯誤の結果、枝をそのままではなく、乾燥させて細かく砕いてみたが、それがよかったようだ」
 レオニダスはオスカーに目配せをすると、オスカーは木の屑――というには大きめの破片を盛った盆を主人に手渡した。
「これは、我が領の技術によって均等な大きさに砕いたりんごの枝だ。その燻製にはこれを燻し木として使った」
「こんなに細かく――しかも厚みが均等だ……」
「人の手にしては細かすぎる――」
 グリニア国の人間だけでなく、アウストヴァルドの人間も驚いた表情でその燻し木を見ている。
 レオニダスは自慢気にマルグリットを見つめると、マルグリットもまた、自分の夫を誇らしい目で見つめていた。

 燻し木の商談はすぐに決まった。
 バナンの作った裁断機は、糸鋸が5本連なっていて、皮を剥いだ枝を置いて足踏み板を踏むと、あっという間に均等の大きさに切り刻んでしまった。
 実演すると、ヘンリー王子はすぐにそれを1台あたり金貨5枚で購入することを決めた。
 実食したことで、りんごの燻し木をアウストヴァルドに輸入することを、ロレンツォ王子が決めたのだ。
 これまで燃やして処分するしかなかったりんごの剪定枝が、金を産む木になった。
 下処理には多少の手間が掛かるが、それすら収入の一端になるのであれば、皆喜んでやるだろうと、やり取りを見てアーサーは納得した。
 これにより、両国の交易が再開する。
 ヴァルデンを経由し、グリニアの産物は周辺国との取引も行われることになる。
 これまで障壁だったヴァルデンは、これからはグリニアを栄えさせる礎になりうるのだ。
 まったく……大した女だ。
 アーサーはレオニダスの隣に立つマルグリットを見て、小さくため息を付いた。
 俺が先に見つけていれば――いや。
 アーサーにはわかっていた。
 自分が夫であれば、マルグリットを屋敷に閉じ込め、ただ愛するだけだったに違いない。
 レオニダスだから、マルグリットはここまでやり遂げたのだ。
 俺は結局、戦いでも、男としてもあいつに負けたということか――
 
 その夜は、冬籠りぶりに二人でゆっくりすることができた。
 まだグリニア国との交渉は続くが、賠償金の問題が片付けばあとは国務大臣の仕事だ。
 レオニダスの出番は大きく減る。
「マリーのおかげだ」
 レオニダスは汗で湿ったマルグリットの頬に口付けを落とした。
 寝台でお互いを慈しみ合うように抱き合う二人は、もう何時間もこうしている。
「君はやはり叡智の女神であり、戦争を終わらせる春の女神だった――君はどれだけ俺を幸せにしてくれるんだ」
 執拗に襲ってくるレオニダスの唇に、マルグリットはくすくすと声を上げながら応える。
 その仕草が可愛くて、レオニダスはついもっとしたくなってしまう。
「レオン様も、わたくしを幸せにしてくださってます」
 マルグリットはそう言ってレオンの頬を撫でると、レオンはマルグリットの唇に口付けをした。
 絡み合うように長い時間、合わせていた唇を離すと、マルグリットは頬を赤らめてレオニダスを見つめた。
「もう一つ、あなたを幸せにしてもよろしいですか?」
「俺の女神はどれだけの恩寵を与えてくれるんだ?」
 揶揄うように言ったレオニダスは、マルグリットの耳打ちを受けると、その目を次第に赤く潤ませた。
 マルグリットは、その表情を見て、レオニダスへの愛しさが溢れ出していた。
しおりを挟む
感想 11

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(11件)

Caaayooo
2026.02.20 Caaayooo

初めまして。
近況レポートも読まずに毎日更新わ待っていましたが50話終わりだったんですね。もうちょい先の二人まで見届けたかったです。とても楽しいお話でした。ありがとうございました。

2026.02.20 やまだごんた

Cyaaayoooさま

感想いただきありがとうございます
わかりにくいエンドですみませんでした💦
更新を待っていてくださったなんてとても嬉しいです
ありがとうございます!
2人の続編などもいつか書けたらいいなと思ってます
その際は、またよろしくお願いします

解除
hassirossi
2026.02.07 hassirossi
ネタバレ含む
2026.02.07 やまだごんた

hassirossiさん

感想いただきありがとうございます
マルグリットは生まれて初めて嫉妬したんだろうなぁって思ってますw

朝チュンがどうかは…(ΦωΦ)フフフ…

解除
rujin
2026.02.07 rujin

36話

昨日“再開”したばかりのレオニダス

“再会”では?

2026.02.07 やまだごんた

rujinさま

あっ💦
ありがとうございます!

解除

あなたにおすすめの小説

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ! 完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。 崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド 元婚家の自業自得ざまぁ有りです。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位 2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位 2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位 2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位 2022/09/28……連載開始

【書籍化決定】愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。