文字の大きさ
大
中
小
11 / 16
11 拗らせてるにもほどがある
「話があるなら後日聞くから、今日はもう帰って」
そう言ってなんとか、ずぶ濡れのロランを追い払った次の日。
王城から一通の文が届いた。
当然、差出人は迷惑王子だ。
***
『最愛の人 アデリーヌ
やあ、愛しい君。
ようやく嵐が去り、雲間からまばゆい日差しが姿を見せた午後。
君はどんなふうに過ごしているのかな。
僕は君を想うたび、切なく軋む胸を抱えたまま、ベッドに横たわっているよ。
どうやら恋煩いを悪化させて、風邪を引いてしまったらしい。
でもこの苦しみは、君を愛している証拠。
だからちっとも苦しくはないんだ。
ただ、たった一日でも、君に会えないのが辛い。
君の声が聴きたい。
目を閉じれば、君の甘く優しい微笑みが……。
わかっている。
大丈夫。
耐えてみせるよ。
風邪を君に移すわけにはいかない。
どうだい!
僕はなんと、君の健康を気遣える男に成長したよ!
心の未熟さから、君を何度もがっかりさせてしまったけれど、君に見合う男になれるよう、日々成長していくからね。
どうか僕のことを、一番近くで見守っていてほしい。
ああ、それにしても……。
早く実物の君に会いたいよ。
この病に打ち勝って、君を抱きしめにいくから、どうかほんの少しだけ待っていてほしい。
心を込めて 君だけの王子様ロラン』
***
「うわぁ……」
むっつりとした顔で手紙を見下ろしながら、ため息を一つ。
なんだこれ……。
ポエムか……。
だいたい私は、ロランに『甘く優しい微笑み』など向けたことがない。
しかも抱きしめるってなに。
冗談じゃない。
私は彼の恋人になったつもりなど、毛頭ないのだから!
「風邪を引いているのなら、こんな手紙なんて書いてないで、ちゃんと寝ていればいいのに……」
熱があるのか、後半に行くほど満身創痍という感じの筆跡になっていた。
次の日も、またロランは文を送ってきた。
そこにはまだ熱が下がらない旨と、あとはどうでもいい口説き文句がつらつらと書き連ねてあった。
さらに翌日。
風邪を拗らせて、肺炎になったという手紙が来た。
否が応にも思い出されるのは、自分がロランに放ったあの言葉。
『あなたなんて、風邪を引いて、それを拗らせて、肺炎にでもなって苦しめばいい』
まさかこんなふうに現実になるなんて……。
呪いをかけてしまったみたいな気になる。
いや、もちろん偶々だとはわかっている。
わかっていても、心ない言葉を放った罪悪感は拭えなかった。
まったく意地悪な言葉は口にするもんじゃないわね……。
ロランのお見舞いに行くつもりなど、毛頭なかったけれど……。
「はぁ……。このまま罪悪感を抱えているのもいやだし」
お見舞いの品だけでも届けに行こう。
そう決めた私は馬車で城下町へ向かい、『メフシィ魔女雑貨店』に赴いた。
お見舞いの品として購入したのは、呪詛除けの人形。
悪鬼のごとき表情をした代物で、かなりの効果を期待できそうだ。
売り子である魔女見習いの女性も、お墨付きだと言っていた。
包装してもらった呪詛人形を手に、メフシィ魔女雑貨店を出た私は、再び馬車に乗り込むと、ロランの暮らすルセーブル城を訪問した。
***
「ただいま殿下のお部屋まで、ご案内させていただきます」
「え!? 結構よ! 私はただお見舞いを届けに来ただけだから」
「いえ、ご案内させていただきます」
ロラン付きの執事だという男性は、慇懃な態度ではあるものの、頑として主張を曲げなかった。
「アデリーヌ様を、このままお帰しするわけにはいきませんので」
隙のない印象を与えていた男性の目が、すっと細められ糸のようになる。
さっきよりも表情が読み取りづらくて、この男を諦めさせることなど不可能なのではと思わされた。
正直、圧倒された。
でも、こういう人でもないと、あのロランの執事なんて務まらないのかもしれない。
「アデリーヌ様がご訪問して下さったと知れば、殿下は大変お喜びになられるでしょう。しかし、会わずに帰られたとわかれば、その五倍は嘆かれ、悲しまれ、最終的に会いに行くと言ってきかなくなると断言できます」
「でも風邪を移したくないから、治るまで顔を見せないと手紙に書いてあったわよ?」
執事は何とも言えない顔をして、額に手を当て黙り込んだ。
「……いいですか、アデリーヌ様。それは直接、目の前に顔を出さないという意味です」
「え? どういうこと?」
「殿下が風邪をこじらせ、肺炎になられたのは、アデリーヌ様の顔を一目覗き見したいときかず、ふらふらでかけられたせいでございます」
「は!? 覗き見ってなに!? あの人、風邪を引いたあとも、私の家まで来ていたの!?」
「手紙を届ける従者とともにお邸を訪問した殿下は、その後、木陰に隠れてアデリーヌ様が庭を散歩なさる姿を盗み見されていらっしゃいました。昨日も一昨日も。もちろん風邪を移したくないというお気持ちは真実からのものでございました。ですから、盗み見るという手段を取ったのです」
私は目を剥いたまま、絶句した。
あの男……。
筋金入りの変態馬鹿!!!!
唖然としてかたまっている私のことを、執事が申し訳なさそうな顔で見つめてくる。
「おわかりいただけましたか? 顔をお出しになられたほうが、変態殿下に煩わされずに済むと」
「ええ……。そうね……。嫌というほどわかったわ……。でもあなた、ずいぶん辛辣に言うわね」
遠慮のない言葉に、ちょっとびっくりした。
執事はフッと肩の力を抜いた後、悟りきった顔で微笑した。
「陛下のご指示のもと、殿下の周りには、私のような者が集められております。図々しく、立場を弁えず、意見できる人間でないと、暴走する殿下を押さえておくことなど不可能ですから」
「あれで押さえられてるの……?」
「力量不足で申し訳ございません。殿下の暴走は底が知れないのでございます。――ということで、殿下の暴走を未然に防ぐため、アデリーヌ様には殿下の部屋への訪問を、謹んでお願い申し上げます」
「……」
私は城を訪ずれたことを、本気で後悔しながら、執事の案内のもと、ロランの住むルセーブル城離宮へと向かった。
ほんと、安易な気持ちで罪悪感なんて持つものじゃない。
そう言ってなんとか、ずぶ濡れのロランを追い払った次の日。
王城から一通の文が届いた。
当然、差出人は迷惑王子だ。
***
『最愛の人 アデリーヌ
やあ、愛しい君。
ようやく嵐が去り、雲間からまばゆい日差しが姿を見せた午後。
君はどんなふうに過ごしているのかな。
僕は君を想うたび、切なく軋む胸を抱えたまま、ベッドに横たわっているよ。
どうやら恋煩いを悪化させて、風邪を引いてしまったらしい。
でもこの苦しみは、君を愛している証拠。
だからちっとも苦しくはないんだ。
ただ、たった一日でも、君に会えないのが辛い。
君の声が聴きたい。
目を閉じれば、君の甘く優しい微笑みが……。
わかっている。
大丈夫。
耐えてみせるよ。
風邪を君に移すわけにはいかない。
どうだい!
僕はなんと、君の健康を気遣える男に成長したよ!
心の未熟さから、君を何度もがっかりさせてしまったけれど、君に見合う男になれるよう、日々成長していくからね。
どうか僕のことを、一番近くで見守っていてほしい。
ああ、それにしても……。
早く実物の君に会いたいよ。
この病に打ち勝って、君を抱きしめにいくから、どうかほんの少しだけ待っていてほしい。
心を込めて 君だけの王子様ロラン』
***
「うわぁ……」
むっつりとした顔で手紙を見下ろしながら、ため息を一つ。
なんだこれ……。
ポエムか……。
だいたい私は、ロランに『甘く優しい微笑み』など向けたことがない。
しかも抱きしめるってなに。
冗談じゃない。
私は彼の恋人になったつもりなど、毛頭ないのだから!
「風邪を引いているのなら、こんな手紙なんて書いてないで、ちゃんと寝ていればいいのに……」
熱があるのか、後半に行くほど満身創痍という感じの筆跡になっていた。
次の日も、またロランは文を送ってきた。
そこにはまだ熱が下がらない旨と、あとはどうでもいい口説き文句がつらつらと書き連ねてあった。
さらに翌日。
風邪を拗らせて、肺炎になったという手紙が来た。
否が応にも思い出されるのは、自分がロランに放ったあの言葉。
『あなたなんて、風邪を引いて、それを拗らせて、肺炎にでもなって苦しめばいい』
まさかこんなふうに現実になるなんて……。
呪いをかけてしまったみたいな気になる。
いや、もちろん偶々だとはわかっている。
わかっていても、心ない言葉を放った罪悪感は拭えなかった。
まったく意地悪な言葉は口にするもんじゃないわね……。
ロランのお見舞いに行くつもりなど、毛頭なかったけれど……。
「はぁ……。このまま罪悪感を抱えているのもいやだし」
お見舞いの品だけでも届けに行こう。
そう決めた私は馬車で城下町へ向かい、『メフシィ魔女雑貨店』に赴いた。
お見舞いの品として購入したのは、呪詛除けの人形。
悪鬼のごとき表情をした代物で、かなりの効果を期待できそうだ。
売り子である魔女見習いの女性も、お墨付きだと言っていた。
包装してもらった呪詛人形を手に、メフシィ魔女雑貨店を出た私は、再び馬車に乗り込むと、ロランの暮らすルセーブル城を訪問した。
***
「ただいま殿下のお部屋まで、ご案内させていただきます」
「え!? 結構よ! 私はただお見舞いを届けに来ただけだから」
「いえ、ご案内させていただきます」
ロラン付きの執事だという男性は、慇懃な態度ではあるものの、頑として主張を曲げなかった。
「アデリーヌ様を、このままお帰しするわけにはいきませんので」
隙のない印象を与えていた男性の目が、すっと細められ糸のようになる。
さっきよりも表情が読み取りづらくて、この男を諦めさせることなど不可能なのではと思わされた。
正直、圧倒された。
でも、こういう人でもないと、あのロランの執事なんて務まらないのかもしれない。
「アデリーヌ様がご訪問して下さったと知れば、殿下は大変お喜びになられるでしょう。しかし、会わずに帰られたとわかれば、その五倍は嘆かれ、悲しまれ、最終的に会いに行くと言ってきかなくなると断言できます」
「でも風邪を移したくないから、治るまで顔を見せないと手紙に書いてあったわよ?」
執事は何とも言えない顔をして、額に手を当て黙り込んだ。
「……いいですか、アデリーヌ様。それは直接、目の前に顔を出さないという意味です」
「え? どういうこと?」
「殿下が風邪をこじらせ、肺炎になられたのは、アデリーヌ様の顔を一目覗き見したいときかず、ふらふらでかけられたせいでございます」
「は!? 覗き見ってなに!? あの人、風邪を引いたあとも、私の家まで来ていたの!?」
「手紙を届ける従者とともにお邸を訪問した殿下は、その後、木陰に隠れてアデリーヌ様が庭を散歩なさる姿を盗み見されていらっしゃいました。昨日も一昨日も。もちろん風邪を移したくないというお気持ちは真実からのものでございました。ですから、盗み見るという手段を取ったのです」
私は目を剥いたまま、絶句した。
あの男……。
筋金入りの変態馬鹿!!!!
唖然としてかたまっている私のことを、執事が申し訳なさそうな顔で見つめてくる。
「おわかりいただけましたか? 顔をお出しになられたほうが、変態殿下に煩わされずに済むと」
「ええ……。そうね……。嫌というほどわかったわ……。でもあなた、ずいぶん辛辣に言うわね」
遠慮のない言葉に、ちょっとびっくりした。
執事はフッと肩の力を抜いた後、悟りきった顔で微笑した。
「陛下のご指示のもと、殿下の周りには、私のような者が集められております。図々しく、立場を弁えず、意見できる人間でないと、暴走する殿下を押さえておくことなど不可能ですから」
「あれで押さえられてるの……?」
「力量不足で申し訳ございません。殿下の暴走は底が知れないのでございます。――ということで、殿下の暴走を未然に防ぐため、アデリーヌ様には殿下の部屋への訪問を、謹んでお願い申し上げます」
「……」
私は城を訪ずれたことを、本気で後悔しながら、執事の案内のもと、ロランの住むルセーブル城離宮へと向かった。
ほんと、安易な気持ちで罪悪感なんて持つものじゃない。
感想 1
あなたにおすすめの小説
最高魔導師の重すぎる愛の結末
甘寧私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。
いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。
呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。
このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。
銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。
ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。
でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする……
その感は残念ならが当たることになる。
何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
単純に婚約破棄したかっただけなのに、生まれた時から外堀埋められてたって話する?
甘寧婚約破棄したい令嬢が、実は溺愛されていたというテンプレのようなお話です。
……作者がただ単に糸目、関西弁男子を書きたかっただけなんです。
※不定期更新です。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。 ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…