婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ

文字の大きさ
4 / 8

4.王太子ロベルト

しおりを挟む

◇◇◇


「何言ってるんだ、良い提案じゃないか。受ければいいだろう」
「……ロベルト」
「お前は幸せになれる、それでいいだろ」
「……じゃあアンリの幸せはどうなる」
「それはお前が決めることじゃない。お前が、彼の幸せを決めるな。彼が幸せだっていうならそれでいいだろ」
「でも俺はそう思えない」
「勝手な男だな。お前が、婚約破棄をしたいって言ったんだ。その時点で彼の幸せをお前が決めるべきじゃない」
「っ……」
 あの日、アンリも驚くほどの大声を出して、そのままアンリを家に帰した。
 それ以来アンリの訪問を断っている。
 けれどこんな情けない話を、国内の誰かには聞かせられなくて、仕方なく、仕方なく、仕方なく、隣国の王太子に会いに来た。ロベルト・スティーリア・グラディウスは、ラクリーマ王国という、この世界の始まりの国の王太子だ。
 フェリクスより七歳年上だが、昔から若い王太子同士で、定期的に会う事があり、今ではすっかり気の置けない友人だ。他の国の跡継ぎはロベルトよりもさらに年上だったり、遊び人だったり、固定観念に囚われすぎていたりして、フェリクスとは話が合わない。
 ロベルトは唯一、跡継ぎとしては立派な地位を持ちながら、真面目じゃないと言うか、気が抜けているというか、居心地の良い存在だった。
「お前が悪いんだろう、フェリクス。何もかもお前が悪い。それでいてお前が悪くない事がない。どうだ? 気が済んだか? どうせお前は、結局誰かに叱られたいんだろう。叱ってやるさ、お望みならな」
「…………ロベルトに叱られたいんじゃない」
「アンリに叱られたいんだろう。お前は、アンリに叱られて、泣かれて、なんでって責められて、自分の価値を実感したいんだろう。甘えたの赤ちゃんめ」
ロベルトの言う事は何もかもが的を射ていた。図星だ。
そのせいでフェリクスは顔もあげられない。
「……俺はっ……、アイツにも幸せになって欲しいだけだよ……」
 罵られたっていい。お前なんかいらないと、罵られて、フェリクスから離れて、もっとアンリが笑い合える相手と一緒になればいい。本気でそう思っている。フェリクスといて笑いも泣きもしないのだというなら、きっと興味がないのだろう。だったらもっと、アンリが興味を持てる相手を探せばいい。好きになればいい。それで相手にも想って貰えたなら、今度こそ、アンリを選ばなかったフェリクスのような男は見限って、幸せになればいい。
 それなのに、何だってあんな、自分を犠牲にするような提案が出るのだろう。
「……アンリ自身は別にもともと王妃になりたかったわけじゃない。俺が、王になるから、必要だから頑張ってたんだ。ここまでずっと努力してきていた。それなのに、俺は隣にいるのに、アンリの事を想ってないとか、可哀想だろ、そんなの」
 仕事だけさせられて、仕事が終われば夫は別の女と過ごしてるなんて、そんなのは、フェリクスだけが得をする。
「じゃあアンリにも好きな相手と過ごせるようにしてやったらいい」
「は?」
ロベルトの言葉の意味がわからなくて思わず顔をあげた。
大きな窓を背にして、夕暮れの日差しを背負って、笑顔で笑う男はまるで新しいおもちゃを見つけたかのようで楽しそうだった。
「仕事が終わったら、それぞれ好きな相手と過ごせばいいだろう。アンリだって、好きな相手がいれば王城に住まわせていいと言ってやればいい。愛人がいる貴族なんかいくらでもいるし、表向きは世話係にでもしておけばいい」
「…………」


「フェリクス、お前は馬鹿正直に感情を顔に出すのをやめた方がいい王になるよ」

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います

ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。 フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。 「よし。お前が俺に嫁げ」

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

婚約破棄と国外追放をされた僕、護衛騎士を思い出しました

カシナシ
BL
「お前はなんてことをしてくれたんだ!もう我慢ならない!アリス・シュヴァルツ公爵令息!お前との婚約を破棄する!」 「は……?」 婚約者だった王太子に追い立てられるように捨てられたアリス。 急いで逃げようとした時に現れたのは、逞しい美丈夫だった。 見覚えはないのだが、どこか知っているような気がしてーー。 単品ざまぁは番外編で。 護衛騎士筋肉攻め × 魔道具好き美人受け

聖女ではないので、王太子との婚約はお断りします

カシナシ
BL
『聖女様が降臨なされた!』 滝行を終えた水無月綾人が足を一歩踏み出した瞬間、別世界へと変わっていた。 しかし背後の女性が聖女だと連れて行かれ、男である綾人は放置。 甲斐甲斐しく世話をしてくれる全身鎧の男一人だけ。 男同士の恋愛も珍しくない上、子供も授かれると聞いた綾人は早々に王城から離れてイケメンをナンパしに行きたいのだが、聖女が綾人に会いたいらしく……。 ※ 全10話完結 (Hotランキング最高15位獲得しました。たくさんの閲覧ありがとうございます。)

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

婚約破棄をありがとう

あんど もあ
ファンタジー
リシャール王子に婚約破棄されたパトリシアは思った。「婚約破棄してくれるなんて、なんていい人!」 さらに、魔獣の出る辺境伯の息子との縁談を決められる。「なんて親切な人!」 新しい婚約者とラブラブなバカップルとなったパトリシアは、しみじみとリシャール王子に感謝する。 しかし、当のリシャールには災難が降りかかっていた……。

処理中です...