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7.後日談
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ここのところ、アンリが何をしてても可愛く見えてしまうようになった。
いやたぶん、前からずっとそうだった。
ニコラスの言うように、アンリはわかりにくいからと、諦めるのをやめた。話しているときの声の高さ、視線の動き、手の熱さ、まばたきの多さ、そのどれもをつぶさに観察する。
会いに行くと露骨に喜ぶのがわかるようになった。表情は前と変わらない。きっと他の人間から見ればわからないだろう小さな変化だ。けれどよく見れば少し嬉しそうにしているのがわかる。
フェリクスが話しかけると良く話す。
以前まではそうではなかった。はずだが、もしかしたら見逃したのかもしれないと思えば、随分と惜しい事をしたと思う。
よく見れば、意外と表情豊かなアンリは、嫌いな食べ物がある時は、少しだけ眉間に皺がある。苦手な大臣がいるときは、表情が一切消えている。
(……はぁ、可愛い)
今日だって、フェリクスを尋ねてきたアンリは琥珀色の瞳で、フェリクスを見上げてくる。
それだってよく考えてみれば、アンリは用事がなければ理由をつけてフェリクスに頻繁に会いに来ているし、会いに来れば、ずっとフェリクスの側にいる。今までだってきっとそうだったのだろうが、それに気づけたことは大きい。
「……アンリ、デートしよう」
「きゅ……うですね……? デート…………?」
ふたりでどこかへ出かけないか、と言って手をつなぐだけで真っ赤になる。誰もみていないからとキスをすれば、固まってしまう。そんな戯れをここ最近積み重ねてる。アンリが怖がらないように、フェリクスの気持ちを疑わないように、愛される事に慣れて貰えるように。
「……外はダメですよ、まだ」
「あー、そうだった」
主犯格は捕まったが、念の為と、まだ外出許可が出ていなくてアンリ共々、城の中で過ごすようにと言われているのだ。
フェリクスを狙った主犯格は、結局、国家転覆を狙ったディートリンデの父親の仕業だったらしい。
ディートリンデは父親に聞かれて、素直に色々と話していただけで、王太子を殺害しようだなんて魂胆はなかったようだが、それでも責任を取って、貴族界の追放と、爵位のはく奪があったらしい。もう彼女が、フェリクスとアンリの前に現れることは無いだろう。
それよりも、目下困ったことになっているのは、男爵令嬢に熱をあげていた好色の王太子という噂が流れてしまい、事あるごとに、貴族が年頃の娘との接点を作ろうとしてくることだ。それぞれ丁寧に断ってはいるが、そろそろ煩わしい。アンリにはさすがに相談はできないし、身から出た錆でもあるので粛々と対応をしている。
紹介される中には若い娘も美しい娘もいるが、けれどその誰もがアンリほど魅力的には映らない。
「アンリ、そろそろ返事を聞かせて欲しいんだけど」
「…………王妃には、なりますよ。そういう話だったでしょう」
その為に、今日だって衣装を作るデザイナーと打ち合わせをしたでしょう、とつれない事を言うものだから、アンリの手を引いて、腕の中に閉じ込める。
「フェリクス様……!」
「そういうのじゃなくて、俺に愛されてくれる? って話なんだけど、あと、同じくらい俺の事も愛して欲しい、アンリ」
指先を掬い上げて、キスを落とす。
「……っ、あの……」
「アンリに幸せになって欲しい、それが俺とだと、最高なんだけど」
衣装部屋から移動して、フェリクスの私室へと連れて行く。外でのデートにしようかと思ったが、やはりこんなにも可愛いアンリを他の人に見られるのは困る。
答えはわかっている。アンリを見ていれば、わかる。
それでも言葉が欲しいと、アンリの言葉で告げて欲しいと思ってしまう。
フェリクスの私室に入って、すぐ、アンリをドアに押し付ける。そして額を押し付けて、二人だけにしか聞こえない声で、そっと名前を呼ぶ。
「アンリ」
「…………もう少し、待っ……」
「もう十分待ったよ」
もういいだろ、と繰り返せば、アンリが視線を逸らした。
「……………………………………私、は……」
「うん」
アンリがフェリクスの服の裾を掴んできた。
「…………私は、ずっと、……ずっと、貴方に、……愛されたい」
「……ああ、約束する」
「婚約破棄、したくない……」
聞こえないくらいの小さな声で言われたそれに、胸が痛んだ。なんでこんなにも、大切にしないと行けない相手を見誤ってしまったのだろう。
「しない、絶対。離婚もしないから、一生」
「……はい」
いやたぶん、前からずっとそうだった。
ニコラスの言うように、アンリはわかりにくいからと、諦めるのをやめた。話しているときの声の高さ、視線の動き、手の熱さ、まばたきの多さ、そのどれもをつぶさに観察する。
会いに行くと露骨に喜ぶのがわかるようになった。表情は前と変わらない。きっと他の人間から見ればわからないだろう小さな変化だ。けれどよく見れば少し嬉しそうにしているのがわかる。
フェリクスが話しかけると良く話す。
以前まではそうではなかった。はずだが、もしかしたら見逃したのかもしれないと思えば、随分と惜しい事をしたと思う。
よく見れば、意外と表情豊かなアンリは、嫌いな食べ物がある時は、少しだけ眉間に皺がある。苦手な大臣がいるときは、表情が一切消えている。
(……はぁ、可愛い)
今日だって、フェリクスを尋ねてきたアンリは琥珀色の瞳で、フェリクスを見上げてくる。
それだってよく考えてみれば、アンリは用事がなければ理由をつけてフェリクスに頻繁に会いに来ているし、会いに来れば、ずっとフェリクスの側にいる。今までだってきっとそうだったのだろうが、それに気づけたことは大きい。
「……アンリ、デートしよう」
「きゅ……うですね……? デート…………?」
ふたりでどこかへ出かけないか、と言って手をつなぐだけで真っ赤になる。誰もみていないからとキスをすれば、固まってしまう。そんな戯れをここ最近積み重ねてる。アンリが怖がらないように、フェリクスの気持ちを疑わないように、愛される事に慣れて貰えるように。
「……外はダメですよ、まだ」
「あー、そうだった」
主犯格は捕まったが、念の為と、まだ外出許可が出ていなくてアンリ共々、城の中で過ごすようにと言われているのだ。
フェリクスを狙った主犯格は、結局、国家転覆を狙ったディートリンデの父親の仕業だったらしい。
ディートリンデは父親に聞かれて、素直に色々と話していただけで、王太子を殺害しようだなんて魂胆はなかったようだが、それでも責任を取って、貴族界の追放と、爵位のはく奪があったらしい。もう彼女が、フェリクスとアンリの前に現れることは無いだろう。
それよりも、目下困ったことになっているのは、男爵令嬢に熱をあげていた好色の王太子という噂が流れてしまい、事あるごとに、貴族が年頃の娘との接点を作ろうとしてくることだ。それぞれ丁寧に断ってはいるが、そろそろ煩わしい。アンリにはさすがに相談はできないし、身から出た錆でもあるので粛々と対応をしている。
紹介される中には若い娘も美しい娘もいるが、けれどその誰もがアンリほど魅力的には映らない。
「アンリ、そろそろ返事を聞かせて欲しいんだけど」
「…………王妃には、なりますよ。そういう話だったでしょう」
その為に、今日だって衣装を作るデザイナーと打ち合わせをしたでしょう、とつれない事を言うものだから、アンリの手を引いて、腕の中に閉じ込める。
「フェリクス様……!」
「そういうのじゃなくて、俺に愛されてくれる? って話なんだけど、あと、同じくらい俺の事も愛して欲しい、アンリ」
指先を掬い上げて、キスを落とす。
「……っ、あの……」
「アンリに幸せになって欲しい、それが俺とだと、最高なんだけど」
衣装部屋から移動して、フェリクスの私室へと連れて行く。外でのデートにしようかと思ったが、やはりこんなにも可愛いアンリを他の人に見られるのは困る。
答えはわかっている。アンリを見ていれば、わかる。
それでも言葉が欲しいと、アンリの言葉で告げて欲しいと思ってしまう。
フェリクスの私室に入って、すぐ、アンリをドアに押し付ける。そして額を押し付けて、二人だけにしか聞こえない声で、そっと名前を呼ぶ。
「アンリ」
「…………もう少し、待っ……」
「もう十分待ったよ」
もういいだろ、と繰り返せば、アンリが視線を逸らした。
「……………………………………私、は……」
「うん」
アンリがフェリクスの服の裾を掴んできた。
「…………私は、ずっと、……ずっと、貴方に、……愛されたい」
「……ああ、約束する」
「婚約破棄、したくない……」
聞こえないくらいの小さな声で言われたそれに、胸が痛んだ。なんでこんなにも、大切にしないと行けない相手を見誤ってしまったのだろう。
「しない、絶対。離婚もしないから、一生」
「……はい」
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